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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
無理やりスローライフ

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猪狩りと駄賃

 オークは筋肉質というよりも、事前情報そのまま、まさに“筋肉の塊”だ。

 顔は猪に似てはいるが、油断なくこちらを見る狡猾そうな表情からして、野生動物以上の知能はありそう。

 手には建材か何か、二メートルほどの太い角材を持ってる。血か肉か赤黒く染まっているところを見ると、ずいぶん多くの人を手に掛けてきたんだろう。


「おい、どうしたマドフ爺ちゃん!」


「ダメじゃ、後ろに子供が()る!」


 魔物に追われてパニックになっているのか、母を求めて泣き叫ぶ幼い兄妹がいた。オークとの距離は五メートルもない。いま魔物が振り返れば、手足のひと振りで死ぬ。

 この状況で“逃げればいいのに”というのも無理な話だろう。大人たちの行動を見る限り、もう町中に逃げ場などないのだ。


「……ミーチャ」


「わかってる」


 こちらとの距離は、二十メートルほどか。逃げてきた大人たちがトラックの陰に隠れようとまとわりついているので、引き付けるために後退という選択もできない。

 する気もない。兄妹の後ろ、通りの先からゴブリンの集団が寄ってきてる。


「接近する! 俯角(みあげ)で頭を撃ってくれ! エルミは降車戦闘に備えろ!」


「わかった!」


「わかったニャ!」


 俺はあえてモーリスを前進させる。

 周囲の大人たちから悲鳴と落胆と非難の声が上がるが、知らん。勝手に盾にされたからって守ってやる義理はない。


「もうチョイ……よし、いまじゃあッ!」


 凄まじい咆哮とともに角材が振るわれる。狭い市街地では退避したところでターンは不可能、壁に突っ込むくらいしかできない。ここは爺ちゃんとブレンガンの活躍に祈るしかない。


 フルオートで撃ち出された.303ブリティッシュ弾は、オークの頭を貫き血と脳漿をそこらじゅうに撒き散らかした。


「いかんッ!」


 仰向けに倒れこむ巨体が、姉妹を押し潰しそうになる。俺は車をさらに前進させ、オークの足を横から車体で刈る。倒れる方向をずらしたつもりだが、屋根に隠れて結果は見えない。


「ぬぉおおぉッ⁉︎」


 銃座の爺ちゃんが焦った声を出す。命を失ったオークは車を避けるように崩れ落ち建物に突っ込んで止まった。


「「「「おおおおおぉ……!」」」」


 後ろで歓声が上がり、バックミラーにはこちらに駆け寄ってくる大人たちの姿が映った。


「エルミ、近付いてくるゴブリンを頼む。爺ちゃんとコーエルさんは、人間を車に触らせないで。嫌な予感がする」


「それは、予感じゃないわい」


 エルミと俺はそれぞれステンガンを持って車を降りる。

 俺の姿に笑顔の男が何か話しかけようとして固まった。一緒に降りてきた獣人のエルミを見たからだと気付く。急に、マドフ爺ちゃんの言葉が真に迫ってきた。臓腑(はらわた)がドンヨリと怒りで重くなる。


「おい、なんで半獣がいる」


「黙れ。その乗り物に近付いたら殺す。俺の仲間を侮辱しても殺す」


 俺はステンの銃口を男に向けた。銃を見たことなど当然ないだろうけれども、たったいまオークを屠ったブレンガンと同質のものだというくらいの想像力はあったようだ。

 男の目が泳ぎ、顔が引き攣る。


「なにを……お前は、余所者か⁉︎」


「俺が何者だろうと、お前の知ったことか。さっさと消えろ。お前らが巻き込もうとしたせいで、俺たちがオークの危険に晒された。また同じことをやったら殺す」


「ふざけるな! 俺たちはこの町の正式な住民だぞ!」


 青褪めた男の陰に隠れて、何人かの男女が抗議の声を上げる。威勢は良いが、俺の前に立つ気はないらしい。


「そうだ! わたしたちは魔物の群れから守られる権利があるのよ!」


「それはギルドか衛兵隊に言え。俺たちは、お前たちの事情など知らん。仕留めたオークを積んだら帰る」


 そこで、大人たちの何人かが帯剣しているのに気付いた。その内ひとりは、上着を脱ぎ捨ててはいるが明らかに衛兵の制服だった。こいつ、住民と一緒になって逃げてんじゃねえか。


「おい、そこの衛兵。ゴブリンが来るぞ。排除しろ」


「え……いや、俺は」


「お前の仕事だろうが。そこにいる“正式な住民”たちが被害を受けたのは、お前らが無能なせいだ。違うか?」


 尻馬に乗って衛兵を責める者もいたが、どうにもならないことは火を見るより明らかだ。それより身の安全が優先だと気付いたんだろう。血の匂いを嗅ぎ付けたか銃声に興味を惹かれたか、ゴブリンが二十体ほど、四方八方から迫っている。


「もういい、ほっとけ!」


 逃げてきた大人たちは、俺から施しも協力も得られないとわかったらしく逃げ場を求めて走り始めた。

 住民に混じって、衛兵も逃げている。撃ってやろうかと思ったけど、そんなにことに弾薬を無駄遣いしている場合じゃないと考え直した。


「ミーチャ!」


 泣いていた兄妹のところに走って行ったエルミが、ふたりを両腕に抱えて駆け戻ってくる。


「この子たち、両親が昨夜(ゆうべ)フォレストウルフに襲われたみたいニャ」


「くそッ、ここに子供を保護するような施設は」


「身寄りもお金もないと……引き受けてくれるのは孤児院くらいニャ」


 やっぱ、そんなもんか。仮に児童保護施設があったところで、この状況では機能してはいないだろうけどな。

 この町の連中は、きっと亜人だけを差別冷遇してるんじゃない。弱者は踏み付けにしても良いと考えてるだけだ。


 困ってる人間を助けたいなんて、考えていた俺たちが馬鹿だったんだ。

 どこかでこうなるんじゃないかと思ってはいたけど、それでも目の当たりにさせられると心がささくれた。


「あぎゃあぁ、いた、あぁーッ、やめてぇえぇ……!」


 情けない声に振り返ると、ゴブリンに捕まった衛兵が生きたまま齧られているところだった。

 襲われた女の子みたいなセリフだなと、場違いな感想が頭に浮かぶ。


「エルミ、その子たちを車に乗せろ。爺ちゃん」


「オークの解体じゃな。任しとけ。ミーチャと嬢ちゃん、ちょっとだけ援護を頼む」


「わかった。全部じゃなくても、運べるだけでいいから」


 剣鉈みたいなのを引っ掴んで降りていったマドフ爺ちゃんとコーエルさんは、サクサクと首を刎ね腕と脚を斬り落として、腹を裂き内臓を捨てる。雑に見えて手際の良さがハンパない。


「この場じゃ、こんなもんじゃ。ミーチャ」


「お、おう⁉︎ ちょっと待って……」


 周囲を警戒しながら横目で爺ちゃんの作業を見ていた俺は、あまりの早業に対応が出遅れた。

 慌ててモーリスのリアゲートを開くと、流れ作業でひょいひょいと荷台に積み込む。


「床に血が付くが構わんか?」


「大丈夫、後で洗う。載せたらすぐ出るぞ!」


 前より大きな魔物の群れが動き出しているような音と気配があった。ゴブリンにしては、特徴的な甲高い嬌声が聞こえてこない。


「ミーチャ、もう良いぞ!」


「おう!」


 全員乗車したのを確認した後、四つ角でモーリスを無理やり切り返す。見えないけど、なんかいるな。

 こっちが襲われるまでは無関係と割り切り、俺は拠点に向けてアクセルを踏み込んだ。

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