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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
儚き平穏

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リーブイット

 マカでの話し合いは比較的、短時間で終わった。

 話し合いというより、単なる確認。“俺ら付き合い切れんし”からの“そらそうじゃろ”という結論でしかない。


「それじゃ、俺たちは帰りますね」

「ああ、後のことはわしらに任せておけ」


 ゲミュートリッヒは、エルヴァラとの関係を断つ。正直なところ、もう関わりたくない。少なくとも俺たちの環境とリソースで見ると、農の里との友好関係を必要とはしていない。俺の社会人……というか社畜スキルをもってすれば、リスクとコストは調整できるかもしれんが、そうまでして接点を持つことに何のメリットもない。

 そもそもの話、タリオに対して忌避感しか持てない。なんでか知らんが、特にヘイゼルが。

 ゲミュートリッヒの領主代行はヘイゼルということになっているものの、いま彼女をタリオと対面させるのは拙いというのは、どうやら暗黙の了解が得られている風。

 早よ帰らせろとティカ隊長から目で訴えられた。


「そんじゃサーベイさん、あの村のひとたちをサーエルバンに定住させることになるかと思いますが」

「ええ。お任せいただければ、こちらで定着までサポートいたしますヨ」

「よろしくお願いします。何かあれば俺たちも手を貸しますから」


 そんな義理はないというのは簡単だけど、こういうのは手を出したんだから最後まで責任を持つのが筋だろうと思う。まあ、まともそうなひとたちだし受け入れ先もサーエルバンだし、大きな問題はないと思うが。


 俺とヘイゼルが転移魔法陣でサーエルバンに戻ると、メイドさんから執務室まで案内された。そこでは村の獣人男性たちがメナフさんと話し合いをしているところだった。目の前のテーブルには革袋に入った、たぶん金貨。エラい量だ。


「お、おう、みーちゃーさん」

「な、なあ、これ、どうなってんだ⁉︎」

「ん?」

「いくら水龍って言っても、金貨で二千八百枚とか、おかしいだろ⁉︎」

「おかしいな。でも、そうなった」


 “俺たち、なんか騙されてる⁉︎”って顔だけど、安く買い叩かれてるならともかく、異常な高値買取にされたことで理由がわからず困惑してるようだ。気持ちはわからんでもない。

 獣人男性三人が思考停止状態なので、サーベイ商会側のメナフさんも困ってる。


「ご説明は、したのですが。サーベイ商会(われわれ)の手間賃や利益もキチンと乗せた状態でその価格です」

「いや、理屈はわかる。けど理解できん」


 だろな。俺もだ。でもそれでは彼らがカネを受け取らず、いつまでも話が進まない。メナフさんと獣人男性たちが俺を見て、なんとなくヘイゼルに視線が向く。彼女は――たぶん俺たちにではなく、タリオに対して――呆れたような顔で笑った。


「頭のおかしいエルヴァラ領主のしたことですから、わたしたちが深く考えても意味がありません」

「「え」」

「水龍の被害を受けた方々への詫びです。村のひとたちがサーエルバンで暮らす資金になりますから、受け取ってください」


 ヘイゼルの説明が最もわかりやすかったのだろう。男性たちは受領書みたいな羊皮紙にサインし始めた。

 持ち歩くには多すぎる……というか重すぎるので、サーエルバンの商業ギルドが扱う団体口座みたいなものに入金することになるようだ。村のみんなで話し合って、代表者の申請により分配なり集団使用なりがなされるわけだ。


「とりあえず定着の第一歩として、家を借りるか購入するというのはどうでしょうか」

「二十人の暮らす家? それは屋敷みたいな?」

「いいえ、職人や商人、冒険者の小さな家が集まった地域があるのです」


 メナフさんの提案に、獣人男性たちが首を傾げる。十人以下のグループならわかるが、俺もちょっとピンとこない。メナフさんはサーエルバンの地図を出して、テーブルに広げた。


「サーエルバンの城壁には南と北西、北東に門があります。南の正門を入ってすぐに冒険者ギルド、北西門の近くに商業ギルド、北東門から少し入った場所に職人ギルドです。住宅はそのあたりに多いですね」


 自分がよく利用するギルドから近い場所に住むわけか。長屋というか集合住宅というか、庶民用家屋が密集した地域。その説明を受けて、獣人男性たちは乗り気になったようだ。


「村の連中が仕事をするなら、冒険者ギルド(みなみ)側か、商業ギルド(にし)側……?」

「商業ギルドに近いほど家の単価は上がりますが、家族で住める広くて便利な物件が多いです。冒険者ギルドに近いところは単身者用の安くて小さな貸し部屋がまとまってますね」


 商人と冒険者で経済力の差もあるのかもしれんが、それよりも生き方の違いが出ている感じ。

 村のひとたちは能力が冒険者寄りと商人寄りで分かれるようだ。同じ街とはいえ、最初のうちくらいはバラバラにならない方が良いのでは、という判断で迷っている。


「では、中間の西南(こちら)ですね。この辺りは、単身者向けと家族向けが両方あります」

「それだな。独り身は、まとまって住むかひとりで暮らすか選ばせよう」

「買うか借りるか、だな。カネはある、といっても最初からあまり多くは……」

「購入は、しばらく貸部屋で暮らして、好みの場所が決まってからでも遅くないと思いますよ」

「なるほど」


 メナフさんの提案とアドバイスを受けて、今後のプランはスムーズにまとまった。

 サーベイ商会と領主代行(サーベイさん)で彼らの定着サポートは行うものの、他の場所が良いとか、サーエルバン以外の町で暮らしたいと再移住することもあり得る。

 俺たちはメナフさんにお礼を言って、今後のことをお願いしておいた。


 獣人男性三人と一緒に南側の正門まで戻ると、水龍素材の荷下ろしは済んでいた。トラックの荷台まで綺麗に洗われているあたり、サーベイ商会の丁寧な仕事と気遣いが感じられる。


「そんじゃ、村に戻って説明だな。ここからは、歩きで大丈夫だ」

「そっか。大変なこともあると思うけど、がんばってな?」

「ああ。みーちゃーさん、へいぜるさんには、本当にお世話になった」


 獣人男性たちとは、正門前で手を振って別れる。俺たちは自分の街、ゲミュートリッヒに戻ることになる。のだが……。


「……どうしようかね、これ」


 長大な連結トラックを正門前に停めてしまったはいいが、当然ながら帰り道は頭を向けたのと反対側だ。

 事故らず切り返せる気が微塵もしない。こんなもん山道を走らせたら崖から滑落死する未来しか見えん。


「ヘイゼル、収納してランドローバーに代えてくれる?」

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