水底の渦
ちょっと短いけど、上げちゃう
シュパンと気の抜けたような音を立てて、迫撃砲弾は崩落穴に向けて飛んでゆく。さほど勢いはないが、思ったほど遅くもない。大きく開かれた水龍の口から、凄まじい勢いで水が発射される。
まさかのジェット水流⁉︎ と思った瞬間、口の端を掠めた砲弾が弾けてドラゴンの頭が斜めに傾いだ。
「惜しいです、もう一発!」
次弾を装填したヘイゼルが、用意完了とばかりに俺の背中を叩く。打ち出した勢いがリコイルスプリングを収縮させ、連続発射が可能になるらしい。色々頼りないことこの上ないのに、ちゃんと機能性はあるのがイギリスっぽい。
「発射!」
シュパンと音を立てて発射された二発目を、水龍は大きく身悶えして躱す。背後の穴の縁が爆発の衝撃で吹き飛んだ。バラバラと崩落する地盤で水飛沫が跳ね上がり、巨体が見えなくなる。
こちらから攻撃を受けるとは思っていなかったのか、敵も初弾こそ喰らったが、いまは警戒している。
「こちらを脅威と認識しました! あの噴水に注意してください!」
逸れたとはいえ吐き出された水は地表を削って土砂を跳ね上げていた。とうてい噴水とかいうレベルではなさそうなんだが。しかも注意したところで、こちらは逃げ隠れできる遮蔽もない。
「勝てんのか⁉︎」
「絶対に! 完全に! まったくもって!」
ヘイゼルは笑い含みで即答する。彼女の声が聞こえたのか、怒りに満ちた咆哮が返って来た。
水龍は臨戦態勢で身体を沈める。跳ね上がって攻撃に出る気が満々なのは、わかり切っていた。
「装填完了!」
俺の背中を叩いて、ヘイゼルが叫ぶ。装填はともかく固定はされてないな。まあいい。
相手は十数メートル級の水龍、大きく開かれた穴から姿は見えなくとも、逃げ隠れできるほどのサイズではない。
「待ってください、3」
俺の目の前で、細い指が振られる。制止したんじゃない。水龍が飛び出すタイミングを待っている。
「……2、……1」
ヘイゼルのカウントに答えるかのように。崩落穴いっぱいにザバッと、巨大な噴水が上がる。跳ね上がった水龍は力を溜め、こちらに向かって大きく口を開けた。
「発射!」
シュパンと打ち上げられた迫撃砲弾が水龍の口のなかに吸い込まれる。ジェット水流に弾き返されるかと息を呑んだのも束の間、上顎が吹き飛んで引き千切られた頭部が赤黒い飛沫になってビチャビチャと降り注ぐ。
「最高ですね!」
「……おい、嘘だろ……⁉︎」
ヘイゼルが弾む声で叫ぶと、獣人男性が呆れたように唸るのが聞こえた。




