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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
傀儡姫と茨の輿

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狗の欲得

 俺たちはサーベイ商会の敷地から出て通りを窺う。衛兵に付き添われた獣人自治領(カーサエルデ)の長マハラが既に領主館に向かったことは、家令メナフさんから聞いている。ということは、敵対勢力が領主館へと向かう俺たちを通りで待ち構える可能性は高い。

 その目的が交渉前の示威や脅迫であれ、殺傷であれ他の何であれだ。


「車輌を出しましょうか?」


 ヘイゼルに言われて迷うが、待ち構えている相手は獣人とはいえ民間人だ。どんな魂胆にしろ殺し合いにはなるまい。そもそも通りにはサーエルバンの住民がふつうに行き来してる。領主館までの百メートルほどを行くなら、徒歩の方が現実的だろう。


「マイファさんたちは、サーベイさんをお願いします」

「わかった。こちらは気にしないで良いわ」


 彼らは連携の取れた動きで左前方と右と後方に分かれ、クライアントを守る位置に着いた。

 サーエルバン領主代行は専属護衛の人狼三人組に任せるとして、エインケル翁はどうしたもんか……と目をやると、爺ちゃんは不敵な顔で腰からハンマーを取り出す。ティカ隊長の持つ背丈ほどの戦鎚(ウォーハンマー)ではなく、いわゆるふつうの玄翁(トンカチ)だ。年季の入ったそれは武器ではなく鍛冶道具だろうに、爺ちゃんが持つと無敵の超兵器みたいに見える。

 一瞬迷った俺に、隣でティカ隊長が“気にすんな、行け”と目顔で促す。


「隊長、クレイメア王女(ソファル)は?」

「お付きと一緒に、サーベイ商会の貴賓室だ。お前らの25ポンド砲(とぅえにーふぁい)でもなきゃ害せん」

「よし、行こうか」


 前に立って歩くサーベイさんと護衛に、俺たちも続く。いざとなれば俺はショルダーホルスターの軍用自動拳銃(ブローニングHP)、ヘイゼルもリボルバー(エンフィールド)がある。カーサエルデの獣人たちが妨害に出ても排除できる。

 俺以外の睨みが効いたか、通りを移動する間に襲ってくる者はいなかった。こちらを窺っている視線は感じたが、騒ぎを起こそうとする様子はない。

 ティカ隊長も油断はしていないが、背中の戦鎚からは手を離していた。


「領主館までは、どうにかなりそうだな」

「街中の陽動(にぎやかし)は、どうにでもなるじゃろ。問題があるとすれば、カーサエルデからサーエルバンに向かっている武装した集団なんじゃがのう……」

「そちらも問題ありませんよ」


 エインケル翁の懸念に、ヘイゼルが笑顔で答える。首から下げたネックレスの魔珠を示す。マカで購入した魔導通信器(マギコミュニカ)だ。通信先は、たぶん抱っこ歩兵支援(COIN)機だろう。そういや彼女ら、ちょっと遅いな。と思ったら上空に影が差した。


「お待たせニャー♪」


 ふわりと降り立ったエルミとマチルダが、周囲のみんなにご機嫌で手を振る。


「おお、遅かったな。何か問題でも……」

「ウチらに、そんなもの、()()()()()()のニャ!」

「ナいのダ!」


 エルミと笑いながら、マチルダは魔力の翼を畳む。小さく風が立ち、微かに嗅ぎ慣れた硝煙の匂いがした。


◇ ◇


「遅かったじゃねえか」


 通された領主館の応接室で、マハラは偉そうにふんぞり返っていた。

 こっちの世界に上座下座(カミシモ)があるのか知らんけどさ。窓を背負う位置のひとり掛けソファーって、それ明らかに来訪者側(おまえ)が座るとこじゃないよね。ただの馬鹿なのか挑発のつもりなのか判断に困る。

 マハラの顔には正体不明の笑みが張り付いているが、その理由もわからん。


「おまけに大勢引き連れて、ゾロゾロとご苦労なこった。こっちは独りで来てやったんだぜ?」

「来てくれなどと頼んだ覚えはないですナ」


 サーベイさんはピシャリと突き放すが、マハラはニヤニヤ笑いを浮かべたままだ。

 応接室のソファーにエインケル翁とサーベイさんが座る。護衛その他は立ったまま、周囲の壁際に控えた。


「さっそく用件を聞きましょうかネ。忙しいので手短にお願いしますヨ?」

「偽王女を渡せ」

「論外ですナ。それが用件ならお引き取りを」


 マハラは大袈裟に溜め息を吐いて、背もたれに寄り掛かる。交渉はこれからと言わんばかりのポーズだが、ここから先はない。こちらが歩み寄る余地もなければ、マハラが取るべき策も、切るべき札もないのだ。

 それを本人が理解しているのかどうかは不明だが。


「お前らが(つる)んで、あれこれ企んでるのは知ってる。まさか俺たちが、黙って見ているとでも思ったか?」

「どうでもいい話ですナ」


 必要以上に無防備に余裕ぶった態度を示しているものの、マハラはどこか苛立っているのがわかる。何か落ち着かない様子で、それを隠している。脳筋の人狼は俺たち……正確にはヘイゼルに、一度も目を向けようとしない。


「雑魚がどんだけ数を(たの)んだところで……」


 クスクスと笑うヘイゼルの声で、マハラの能書きは止まる。役者が違うのもあるし、そもそもヘイゼルを意識しすぎているのだ。公衆の面前で凹まされた“賢人会議”の失態が、それほど悔しかったのか。


「徒党を組むのは、あなたたちの本能でしょう?」


 静かに語るヘイゼルに、マハラはようやく目を向けた。だらけた姿勢は崩さないまま口をつぐんで、憤怒を押し殺しているのがわかる。


「人狼は徒党を組み、一丸となって動く。それが強みであり、弱みともなる。以前あなたに伝えたはずですよ。群れも統率できない無能を、我々は群れの長(アルファ)として認めないと」

「てめぇ……」

「どうやら誤解しているようなので、ひとつ付け加えておきましょう。もし仮に群れを統率できたとしても、それは無能でないという証明にはなりませんよ」


 ヘイゼルはマハラに、小さな石を放る。獣人自治領カーサエルデの長は、飛んできたそれを受け止めて顔色を変えた。


群れの長(アルファ)が舵を誤ると、全員が道を踏み外すというだけのこと」


 握り締めた手のなかで淡く紅の光を放つそれは、人狼の。マハラの部下から取り出された魔珠だった。

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