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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
無理やりスローライフ

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彷徨う肉と迷う憎しみ

「オークって……魔物だよね? ひととかも、食う」


「そうニャ。豚に似てるのニャ。顔も、味も」


 味て。身長三メートル級で、筋肉の塊だって聞いたが……美味いなんて話は初耳だ。

 そもそも実物を見たこともないんだが。


「その魔物を、食うの? 味はともかく……人間とか亜人とかを食べてるかもしれないのに」


「大丈夫ニャ。食べたものの味は、肉にはあんまり移らないのニャ」


「“あんまり”って言ってんじゃん!」


「草を食べさせて育てた家畜と、豆とか食べさせて育てた家畜で味が違う話は聞いたことあるニャ。でも、肉から豆とか草の味がするわけじゃないニャ」


 なんか、ロジカルに詰められてる。ネコ耳娘の目は肉のマークが浮かんでる感じで、俺の違和感とか“そんなこたーどうでもいいんだよ!”な雰囲気がありありだ。


「肉は、人狼とドワーフのみんなが好きなのニャ」


「え? エルミは?」


「嫌いじゃないけど、“まっけれる”の方がずーっとずーっと好きニャ」


 彼女の視線を辿ると、缶詰と保存食を食べている子供たちの姿があった。腹が満たされて笑顔は戻っているけど。見たことも聞いたこともない食い物ばかりなせいか、どこか遠慮がちで不安そうだ。

 なるほどね。自分だけが美味しくて大好きなものをいっぱい食べてるのは悪いから、みんなにも喜んでもらいたいってところか。そういう方向で攻められたら断れん。

 いまの状況で美味しい肉が手に入るのであれば、多少の気分の問題でしかないところには目を瞑ろう。

 やっぱエルミ、良い子だな。


「おうミーチャ、オークを狩るのか?」


 ドワーフの男性ふたりが、俺たちに話しかけてきた。中年風のヒゲマッチョと、ヒゲもじゃ爺ちゃん。朝の見張りを交代して戻ってきたところらしい。

 小柄で力持ちのドワーフ組四人には、予備のブレン軽機関銃を渡した。二階の窓際に簡易銃座を作って、ふたりずつ二交代制で詰めてもらっている。昼間には魔物の活動も夜ほど活発ではないので、視界の開けた明るい通りを守るのに軽機関銃一挺で支障はないそうだ。

 むしろ、地面に染み込んだフォレストウルフの体液をしゃぶりに来るので撃つのが楽なのだとか。


 なにそれ、キモチ悪ッ!


「オークなら町の反対側にいるみたいだぞ? さっき建物の奥にチラッと頭が見えた」


「撃ってみようとは思ったが、四半哩(しはんり)はあったからのう。少し狙うには遠過ぎたんじゃ」


 爺ちゃんぽい方のドワーフが笑う。距離の単位がわからないので、ヘイゼルを見る。


「一哩は、おおまかに一マイルくらいですね。千六百メートルですから、四半哩は四百メートルです」


 なるほど。こっちから見ると、町の本当に端の方だ。さすがにスコープでもないと遠いか。


「試しに撃ち込んでみても良かったのに」


 俺のコメントに、ドワーフの爺ちゃんと男性はチラッとエルミに目をやる。


「オークの周りには……まだ、ひとが()る。威力を聞くに、あの“ぶれんがん”は建物の壁くらい貫通する(ぬく)んじゃろ?」


「それはまあ、そうだな。でも……」


「ミーチャが言いたいことは、わかる。俺たちも、人間には色々と含むところはある。恨みも憎しみもあるさ。あいつらに気を使ってやる義理もないが……それでもさ。人間がみんな死んで良いとまでは思わんよ」


 道理だな。殺そうとしてきた相手を射殺するのと、肉が欲しいだけなのに流れ弾で殺すのとは訳が違う。


「ミーチャ」


 ドワーフのふたりが、困った顔で笑う。


「半分は、本当だがな。もう半分は……お前を見て、考えを変えたんだよ。人間にも、色々いるんだなってさ」


 どう答えて良いかわからず、俺は照れ隠しに肩を(すく)める。

 なんでかモジモジしていたエルミが、コソッと俺の袖を引いた。


「ね、ねえ、ミーチャ、あの……肉、急いで、食べたいニャ!」


 何だ急に。どうした。お前、たったいまサバ缶を食べたばっかりだろうが。次は炭水化物とか甘いもんとかならわかるけど、肉って……


「あー、ウチおなか、へったニャー!」


 はしゃいだ声を上げながら涙目のエルミを見て、俺は溜め息を吐く。

 ワシャワシャと頭の毛を掻き回し、ついでにアゴのところを撫でくり回す。


「にゃにゃにゃーッ⁉︎ なにするニャ!」


「俺もだ、エルミ」


「にゃ?」


 少し離れた場所で子供のお世話をしているヘイゼルを呼ぼうとして、やめた。

 そうじゃない。いま必要なのは、外部の者(エイリアン)が成す奇跡なんかじゃない。目の前で苦笑している爺ちゃんとオッサンを、行き掛けの駄賃と強引に巻き込もう。そうしようそれが良い。


「ふたりも、オークの肉、食いたいよな?」


「あ……ああ、うん。食いたいな」


「そうじゃな。なかなか手に入るもんでもないからのう。ちょうど、仕留められずに悔しいと思っとったんじゃ」


 やっぱり、良い奴らだ。困ってる人間を助けたいなんて、俺が彼らの立場なら、きっと思わない。仮に思ってても手を貸したりしない。


「……ありがとニャ」


 ポソッとつぶやいたエルミの声に、俺たちは笑った。


「よーっし、昼飯は豪華に、オークの丸焼きだ!」

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