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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
傀儡姫と茨の輿

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変わる潮目

「ダンジョン領主の下克上」一段落したので戻ってきました!

https://ncode.syosetu.com/n9475gy/

 暗視装置も地上管制も誘導灯もない状況にもかかわらず、器用に汎用ヘリ(リンクス)を操ったヘイゼルはゲミュートリッヒの正門前に危なげなく着陸させた。


「おつかれー、着いたよー♪」

「「……あぅ」」


 水平回転翼(メインローター)の停止を待って地上に降り立った俺は、無理に明るく振り返る。後部座席の乗員たちに手を貸すが、恐怖の夜間飛行を体験したアーエル組は生まれたての小鹿のようにぷるぷると足を震えさせている。クレイメア王女(ソファル)はそれでも健気に背筋を伸ばして立とうとしているけれども。

 サマルとメイドたちは、ヘリの機体に縋り付いたまま動けないでいる。


「おー、お帰りミーチャ」

「ようやってくれたのう」

「ご無事で何よりですナ」


 迎えに出てきたのはティカ隊長とマカ領主エインケル翁、そしてサーエルバン領主代行のサーベイさんだ。

 ティカ隊長以外のふたりはソファルと面識があるらしく、これまでと今後をあれこれと話し始めた。


「ミーチャ殿、今日はもう遅いですから、明日の夜にお時間をいただけますかナ?」

「はい。今夜はサーエルバンに?」

「そうですナ。クレイメア王女とエインケル翁には、宿を用意いたしました」


 当然ながら、彼女ひとりではない。サマルとお付きの老若メイドさんたちもだ。

 先に立って歩いていたソファルが、ふと青褪めた顔で振り返った。


「……ちょっと待って。サーエルバン? もしかして、また飛ぶの⁉︎」

「いや」「はい」

「どっち⁉︎」


 俺とサーベイさんの声が被って、ソファルが交互に俺たちを見る。どう言ったらいいかな……


「心配ない、ヘリコプター(あんなの)で飛ぶわけじゃないから」

「空を飛びはしませんナ。魔法陣で移動するだけですヨ」

「本当に?」


 ソファルは不安そうな顔で、転送用魔法陣のあるドワーフ工房に向かう。アイルヘルンの重鎮ふたりに付き添われているから、問題はないだろう。手を振って見送る俺に、なんだか恨みがましい視線を送ってきた。

 いや、わし何も悪いことしてないがな。


「ひゃー、いろいろあったのニャー♪」

「みんな、おつかれさん。今夜はゆっくりして……明日も休みにしようか」

「「はーい」」


 どのみち明日の夜は話し合いがあるので、店の営業はできない。風呂に入って、さっさと寝よう。いや、風呂も明日でいいかな……


◇ ◇


 翌日、午前のお茶を飲んでいた俺たちのところにティカ隊長が訪ねて来た。


「ティカさん、お茶はいかがですか?」

「いや、ありがたいが伝言だけ。サーベイの旦那から、前倒しで申し訳ないが昼頃にサーエルバンまでご足労いただきたい、だそうだ」

「了解。隊長も行くのか?」

「ああ。警備についての打ち合わせがあるから、先に現地入りしてる」


 メッセージだけ伝えると、隊長はすぐに帰って行った。相変わらず多忙なマルチタスクパーソンだな。


「そういや転送魔法陣に乗るの、初めてだな」

「わたしもです」


 俺とヘイゼルの会話を聞いて、エルミとマチルダがチラッとこっちを見た。マチルダはともかく、エルミは完全に警戒態勢に入っている。


「う、ウチとマチルダちゃんは、飛んでくのニャ」

「うン? なゼだ? ワタシは魔法陣デも構わんゾ?」

「ヤなのニャ! 前にマイファさんが、もんにょりするって言ってたのニャ!」

「……もんにょり、トは?」

「お腹を、揉まれるみたいだって、聞いたのニャ」


 両手でワキワキと揉みしだくポーズのエルミは、ピンと立った尻尾が不安そうに揺れている。魔法陣による移動は、痛かったり苦しかったりはしないと聞いた。でもエルミはたぶん猫と一緒で、お腹を揉まれるのは嫌なんだろう。よくわからんという顔のマチルダだが、パートナーが嫌だというなら無理強いする気はないようだ。


「でハ、サーベイ商館デ合流しヨう」

「おー、気を付けてな?」

「気を付けるのはミーチャたちニャ!」


 いや、俺たち腹を揉まれるくらいは平気だし。初めてだから不安はあるけどな。

 お茶を飲み終えた俺たちは、エルミたちを見送ってからドワーフの鍛冶工房に向かう。話は通っていたようで、若手ドワーフのオクルとラクルが工房の端に魔法陣を用意してくれていた。


「もうティカ隊長は先乗りしてるー」

「うん、聞いてる。これ、操作はどうすればいいのかな」

「乗ってもらえれば、こちらでやるよー」


 オクルたちって、魔法陣に供給できるくらい魔力高かったっけ……なんて思ったら、魔法陣にはピンポン球くらいの石がいくつか縫い留められていた。それは以前魔獣群の暴走(スタンピード)で仕留めた魔物の魔珠で、転送用の魔力はそこから供給されるそうな。

 あら便利、これなら魔力のない俺でも使える。


「ナルエルが作ったの。消費した魔力は、外在魔素(マナ)を取り込んで自然回復するんだって」

「さっき隊長を送った分は、もう回復してるの。すごいでしょ?」

「……ああ、すごいな」


 技術も発想も工作精度もすごいけど、後付けに見えない“収まり感”がすごい。電源ボックスみたいに取ってつけたようなデバイスを接続するのではなく、“魔法陣に元からあった装飾”という感じに仕上がっている。使用されている魔珠も小さめのもので、あまりコストも掛かってなさそう。おまけに消費魔力の回復機能とか、信じられん。


「天才って、もっと常人の理解から離れた存在(もん)だと思ってたな」

「“知識こそ(ナレッジ・)力である(イズ・パワー)”……ですが、どんな(パワー)も伝達できなければ意味がありません。その点ナルエルちゃんは芸術家ではなくエンジニア、そしてデザイナーなんでしょう」


 なるほど。とか言ってる間に視界が揺れて、気付けば応接室のような場所に立っていた。魔法陣があるということは、ここがサーエルバンにあるサーベイさんの商館なのだろう。

 腹を揉みしだかれる“もんにょり”に関しては、言われてみればそうかなという程度のものでしかなかった。俺がマイファさんほど繊細じゃないだけかもしれんが。


「ようこそいらっしゃいました。ミーチャ様、ヘイゼル様」


 サーベイ家の家令、メナフさんが笑顔で出迎えてくれた。


「ご無沙汰してます」

「本日エルミ様とマチルダ様は?」

「後から飛んでくるそうです」

「では、こちらへ。サーベイ(会頭)から、別館にご案内するように言われております」


 別館というのは、敷地内にあるという隠れ家的な会員制レストランだ。思っ切り普段着で来てしまったので少し迷ったが、いまさらだな。そんな俺の意を汲んで、メナフさんは問題ないとフォローしてくれた。


「いまのサーエルバンで、あまり着飾る方はおりません」

「生活が悪化しているとか?」

「いえ、経済状況や消費材については以前より豊かになっています。ただ優先順位が変わってきた、とでも言いましょうか」

「さすが商都の住人だけありますね。サーエルバンのひとたちは、潮目が変わったの(ターン・ザ・タイド)を理解しているんです」


 俺は頷く程度だったが、ヘイゼルは納得したようだ。


「それは、ええと……緊縮財政に移行した?」

「ええ。的確に読み取ったのでしょう。ここからは、戦時体制(ウォーレジーム)だと」

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