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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
傀儡姫と茨の輿

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スレッジ&スラッジ

 街道上空、四十メートル弱(百二十フート)。王都に向けて南下する汎用ヘリ(リンクス)の機内で、依頼人にして案内人のサマルは頭を悩ませていた。


「どうした」

「ここが、どこか、わからない」


 地上からなら何百回と行き来してきたが、こんな高さから見たことがないので現在位置が把握できないようだ。

 さもありなん。特にランドマークがあるわけじゃなし、俺の目には同じような森と起伏が延々と続いているだけだ。


「いいよ、別に。この街道沿いに南に向かえば、王都には着くんだろ」

「それは、もちろん。ですが、王国軍の阻止線が敷かれている場所を知らずに通過しては危険です」

「空中でも?」


「みなさん、つかまってください!」


 言ってる端からヘイゼルの声が上がり、リンクスは大きく機体を傾けながら急上昇してゆく。俺たちの座っている後部座席の脇を、攻撃魔法の炎弾が何発も掠めて行った。


「「「きゃああぁ……ッ⁉︎」」」


 後席の女性陣が悲鳴を上げて、近くの椅子や手すりにすがり付く。落ちたり転げたりするほどの機動ではないけれども。何かをホールドしていないと怖いというのはわかる。

 ヘイゼルは高度を上げ、攻撃してきた奴らを置き去りにする。


「すみません、もう大丈夫です」

「ヘイゼル、奴ラは殺さンのカ?」

「損害なしに通過できるなら無視しましょう。いまは敵戦力を殲滅する必要ないです」


 いまは、って言ってるのがちょっと気になるが、ヘイゼルの言う通りだ。マチルダもエルミも、異論はなさそう。


「長弓の有効射程は考慮していたのですが、あれほどの小部隊から攻撃魔法を撃ってくるのは想定外でした」

「青い旗の連中、魔導師あんまりいなかったのニャ」


 上空を通過したとき、街道沿いには青い侯爵領軍旗の他にいくつか黄色っぽい旗が見えていた。

 アーエルの領地軍が持っていた旗幟(しるし)と同じだ。


「サマル、さっき混じってた黄色い旗は侯爵領軍に寝返った連中?」

「アーエルの黄色旗は、もっと薄いです。あれは貴族院連合軍の橙黄旗ですね。ここから南に行くと、少しずつ増えるはずですよ」


 とうこう……オレンジ色? 黄色にしか見えんかったが、言われてみれば濃いような気もしないでもない。


「“新生貴族議会”を名乗る反王家派閥の戦力は、ハイコフ侯爵に偏り過ぎていました。王家打倒後の実権掌握を危惧した他の貴族たちが編成したのが貴族院連合軍です」


 体裁を整えるためのお飾りなので能力も統制もバラバラ、元冒険者やら元傭兵やらも混じった寄り合い世帯だが、侯爵領軍に足りない騎兵と魔導師が中心になっているのだそうな。

 個人主義が強過ぎて長距離行軍には向かないため、王都周辺の各貴族領に多く配置されている。


「へえ……さすが情報が命の御用商人、敵情にも詳しいな」

「それはもう。なにせ彼らの武器装備と消耗品、馬匹と糧秣を融通したのは、我々アーエルの商会でしたから」

「え?」


 サマルが半笑いなんで冗談かと思ったけど、目が笑ってない。全然。

 いや、おかしいだろ。どうなってんだ王国。こっちの世界じゃ敵から武器を買うのか?

 つうかサマルも売るなよ、とは思ったけど。たぶん、商談の時点では討伐に使うなんて言わなかったんだろうな。

 サマルは薄く笑いを浮かべたまま、呆れ顔の俺を見る。その目に剣呑な光がチラチラと瞬く。


「いま思えば、反王家派閥(かれら)の考えは理に適っていますよ。討伐前に、こちらの力を削ぐことができたのですから」

「え?」

「後払いの代金は、踏み倒されました。それどころか、融通した武器を装備した青旗と橙黄旗が、アーエル討伐にやってきました」


 これから滅ぼそうとする相手に、滅ぼすための武器を調達させるか。合理的かもしれんが、悪趣味にも程がある。


「商人は、舐められたら終わりです。あんな仕打ちを受けて、商館を潰され領主様まで殺されて。黙っているなど死よりも救い難い」


 サマルの笑顔が、急に恐ろしいものに感じられてきた。

 なんだよ噂と違って普通のオッサンじゃね? とか思っていた俺の目は節穴だったようだ。


「ですから、わたしは残る資金と物資と人脈の全てを注ぎ込んで、貴族院に報復すると決めたんです」


 サマルが報復(それ)を達成するために必要なカードが、公爵別邸に拉致されている王女クレイメア――の替え玉であるアーエル領主の孫娘ソファル――というわけだ。

 貴族院の破滅と、王国政治の掌握。その旗印にアーエル領主の忘れ形見を使うことで、二重の報復になる。


「なるほどね」


 俺は素っ気なく答えた。俺も広義では商人だけど。政治にも他人にも肩入れする気はないから、そういう復讐劇には縁がない。少なくとも自分ではそう思ってる。思ってるったら思ってるのだ。うん。


「サマルさんは、まるでミーチャさんの他者に宿る我(オルターイゴ)ですね」


 ヘイゼルの声が、ヘッドセットから聞こえてきた。

 やめて。

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― 新着の感想 ―
[良い点] なんかリンクスでは制圧力が足らなさそうな雰囲気ですね。 果たして人質救出ミッションはどうなるのか
[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★
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