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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
傀儡姫と茨の輿

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ブロッケイド・アーエル

 田舎道を進むうちに、周囲には少しずつ民家が見え始めた。どれも掘立小屋と呼んだ方がいいボロ屋で、なかには焼け落ちたものもある。

 アーエルまでは、まだ二十四キロ(十五哩)はあるそうだけども。侯爵領軍が王都から侵攻してくる巻き添えで焼かれたか。


「ミーチャさん、前方四百メートル(クォータマイル)に敵の阻止線です」

「俺には見えんけど……停止するか?」


 前部銃座のヘイゼルからは、状況を確認しているような間があった。


「そのまま突破可能ですね。速度このままでお願いします」

「了解」


 そのまま前進。どのみち同じことだ。王国に味方などいないのだと思い知ったばかりだ。どう潰しどう殺すかの違いでしかない。だったら容赦無く踏み躙るの方が、いっそ潔いってものだ。

 ヘイゼルが操作するヴィッカース重機関銃の、緩やかな連射音が響く。


脅威排除(クリア)


 どこか前時代的な長閑さを感じるのも、あくまでも俺にとってはだ。この世界の兵士にとっては悪夢のような面制圧兵器でしかない。

 そのまま装輪装甲車(サラセン)を前進させると、蹂躙された敵の阻止線が目に入ってきた。

 何本も丸太を並べて木の板を渡した障害物。楔形に組み合わされたそれが突進を防ぐものなんだということは理解できた。

 その陰に盾を置き、長槍と長弓を備えて。この世界での戦闘なら、どんな敵でも十分に対処できたんだろうと思う。

 バリケードの奥で倒れているのは、甲冑を着込んだ槍兵と弓兵が二十名ほど。道の端に転がっているのは、軽甲冑に短弓を持った騎兵が五、六名。馬を使った連絡用か、動きが止まった敵に突進して掻き回す役割か。

 俺はこの世界での戦闘を知らない。きっと深く知ることもない。


「収納しますか?」

「いや、このままでいい」


 道を塞ぐ障害物の端を、減速したサラセンの鼻先で押す。

 わずかに抵抗はあったものの、丸太を固定していた木材がへし折れてバラバラに転がった。


「騎兵の突進を防ぐには脆いな」

「馬は先の見えない障害を越えたがらないんです。本来は、無人で置くものでもないですし」


 周囲の警戒だけを考えながら、車を前に進める。運転席からの死角で人体を踏んでしまっているんだろうなとは思うが。行手を塞ぎ武器を向けてきた敵だ。こちらが気に病む問題ではないと割り切る。

 結局、俺はアウトレンジから撃ち殺す以外の戦闘を経験していないのだ。相手の感情と向き合うような殺し合いには向いてない。魔物ならまだしも人間相手となると、豆腐メンタルが崩れかねない。


「ミーチャさん、大丈夫ですか」

「ああ、もちろん」


 なんだよ、運転に支障なんて出てないはずだけどな。たしかに気持ちは揺れたが、前部銃座に上がったままこちらが見えてもいないヘイゼルに読まれるほどか。


「この先は、しばらく緩い勾配が続きます。八キロ(五マイル)ほど行くと丘の上に出て、アーエルの領都が見えるはずです」

「わかった」


 明るく話し掛けてくるヘイゼル。なんだか気を遣われた感じ。


「ヘイゼルちゃん」

「わかってます」

「どうした」

「……近くで肉が焼ける臭いがします」


 エルミとヘイゼルの声は硬く低い。そのトーンからすると、当然ながら食肉じゃない。

 俺はアクセルを踏み、路面状況の許す限り速度を上げる。

 小さな森を抜けて視界が開けると、茂みから煙が上がっていた。突っ込んで壊れた馬車の残骸が見えた。生焼けで燻る大小の肉片も。目を逸らそうとして、釘付けになった。


「通過してください。生存者はいません」


 俺は応えず、その指示に従う。殺されたのはアーエルから逃げようとした領民なんだろう。俺がそういうのを見てグズグズ引き摺るタイプだと思われると心外だが、まあ間違いじゃない。

 ここは本来の目的であるアーエルの領主館を目指す。願わくば彼らを殺したのが、阻止線を張っていた兵たちであって欲しい。それなら殺戮にも意味があったと思えるから。


「くッ」


 ヘイゼルが言っていた通り、道は上り勾配になってきた。それと同時に、路面が荒れ始めた。登った先の土地が水気を含んでいるらしく、斜面に沿って泥濘混じりの赤茶けた帯ができていた。岩と泥が交互に現れるような路面で、タイヤが乗ると恐ろしく滑る。全輪駆動とはいえ車重のあるサラセンには厄介な道だ。


「もう少しです。丘の稜線上まで、一キロ半(一マイル弱)

「了解」


 目前の路面だけを見て、着実に車体を進ませる。その先に何があるか、考えるのは後でいい。ロールスロイスのV8エンジンが唸る音を聞きながら、無心でハンドルとアクセルを操作する。

 ときおり前後銃座で銃声が上がっていたようだが、気にしている余裕はなかった。なにせ途中にはいくつか小さな崖まであったのだ。高さは十メートルそこそこだが、装甲車ごと滑落したら無事では済まない。


「そこで停車してください」


 気付けば、稜線上に出ていた。登山で言えば振り返ると絶景だったりするシチュエーションかもしれんが、あいにくサラセンの後方視界はゼロだ。簡素なバックミラーは先の戦闘で左右ともひしゃげてしまっている。


「どうナってル?」

「思ったより、ひどいニャ」


 いつの間にやら屋根に上がっていたエルミとマチルダが話す声が聞こえてきた。

 目をやると、下り斜面の奥、数キロ先の盆地にアーエルと思われる街が見えた。煙に覆われて城壁のシルエットしか目に入らない。


「ヘイゼル、ミーチャ。ワタシたチが様子を見て来ルか?」


 運転席前の開口部からボンネットに出た俺に、マチルダが声を掛けてくる。

 ヘイゼルは答えず、俺に判断を問う。


「敵兵の数は」

「わかりません。アーエルの城壁はもう崩落して、侯爵領軍は街に入っています。ここまでに得た情報と、ここから見える街の被害規模からの概算で、最低でも二千はいるかと」


 そこまで多いか。とりあえず装甲車一輌でどうにかなるもんではなさそうだな。最終的には陸戦力が必要になるとしても、だ。

 いまにも飛び立とうとしているエルミとマチルダを見て、俺はヘイゼルを振り返る。


「いっぺん、空からひと当たりするのはどうだ?」

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― 新着の感想 ―
[良い点] フォンゼークト流の分類かと思いきや、これじゃ「アホウで無能」じゃないですかやだー(棒) 今やってる大河ドラマでも無知でアホウがコロコロコロコロ信条変えているの見ると、どこもこんなものな…
[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★
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