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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
傀儡姫と茨の輿

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対捍の邑

 ゲミュートリッヒに戻ってきた俺たちは、汎用ヘリ(リンクス)を正門前に着陸させた。前は急ぎでしょうがなかったけど、集落内に降りるのは危ないからな。

 ヘイゼルがDSDの一時保管区画(ストレージ)で機体を収納している間、俺は衛兵詰所に向かう。


「いま帰った。隊長、変わりは?」

「敵の侵攻はない。そういう意味では平和なもんだ。無事に済んだのか?」

「まあな。王城は更地になった」


 ティカ隊長が笑うと、ソエルとサカフ、部下の衛兵ふたりは俺を見て肩を竦める。


「王国もエラい相手にケンカ売ったもんっすね」

「身の程を知らねーってのも、哀れなもんだ」

「無理もないだろ。あたしたちだって、こうなったのは偶然(たまたま)だ」


 あいつら虎どころか龍の尾を踏んだんだけどな。他国から見ればゲミュートリッヒなんて、吹けば飛ぶような辺境の寒村だ。そんなの、教えられなきゃ気付くわけない。


「ただな、エインケルの爺様が来てる」

「え? もう?」

「サーベイの旦那も一緒だ」

「まあ、そうなるか」


 衛兵詰所に目をやるが、ティカ隊長の背後は空っぽだ。呆れ顔の俺を見て、隊長は首を振った。


「待ってるのは、当然のようにミーチャの酒場だ」

「……おい。おかしいだろ、それ」

「あたしも同意見だけどな。とりあえず顔貸してくれるか。アンタらが来てからだっていうから、何の話かはあたしも聞いてない」


 ヘイゼルと合流した後、ティカ隊長と一緒に店まで戻る。ドアベルを鳴らして店内に入ると、困った顔のレイラが給仕役をしてくれていた。いま店番は彼女だけだったからな。


「お帰りなさい」

「ありがとうレイラ、助かった」


 テーブルにはエインケル翁とサーベイさん。後ろに護衛の人狼三人組が、申し訳なさそうな顔で控えていた。彼らは護衛対象に張り付くしかないわけで、そこはお疲れ様としか言いようがない。

 つうかエインケル爺ちゃん、マカの領主なのに護衛はいないんか。また後で騒ぎになるパターンじゃないのか……?


「早かったのう」

「いや、それはこっちのセリフですけどね。どうしたんですか、領主自らこんなところまで」

「今度は公用じゃ」

「前回も公用だったんだけどな」


 お爺ちゃん、ティカ隊長のツッコミを華麗にスルー。酒飲んでないだけマシか。テーブルに置かれているのは普通の紅茶と茶菓子だけだ。

 レイラが煎れてくれたんだろう。俺たちにも勧められたので、ありがたくいただく。


「そちらは、無事に済んだようじゃな」

「無事……と言えば無事ですね。少なくとも俺たちは」

「まさか、王都を焼き払ったんですかナ?」


 サーベイさんが冗談半分に苦笑する。


「民まで手には掛けんじゃろ。せいぜい王城を吹き飛ばしたくらいじゃ」

「そんなとこです」


 俺が答えると、サーベイさんとエインケル翁のみならず、護衛の三人まで呆れ顔で首を振った。


「自業自得ですよ」

「それに異論はないがの。王国が崩壊すると、棄民や難民が流れ込んでくるんじゃ」

「生き延びられんと思いますがね」


 コメントしたのは護衛の人狼ダエルさん。俺も同感だ。アイルヘルンの外縁部は――内陸部も安全性は誤差程度でしかないが――侵攻してきた兵士でさえ損耗で戦闘不能になる程に魔物がウジャウジャしてる魔境なのだ。最短距離でもマカかゲミュートリッヒ、となれば故郷を逃れた避難民が生存圏まで生きて辿り着けるとは思えない。


「わかっとる。そこで、わしらの提案を聞いてもらえんかな」

「それはマカ領主と、サーエルバンの領主代行として、ですよね?」


 俺の問いに、ふたりは当然とばかりに頷く。何をするにせよ、王国に対して個人がどうにかできる問題はない。


「わしらが、王女を立てる計画があるんじゃ」

「は?」


 ティカ隊長が俺たちを見るけど、知らんがな。そんなのがいること自体、いま初めて聞いたし。

 エインケル爺ちゃんによれば、その王女様は幸か不幸か反王家派閥の本拠地に幽閉されているのだそうな。爺ちゃんらは、それを奪還して次の王にするつもりらしい。

 良く言えば亜人に友好的な君主として。悪く言えばアイルヘルンの傀儡(かいらい)としてだ。


「王城を潰したのであれば、もう他に継承権を持っとるものは残っておるまい」

「本拠地というのは、どこなのですか?」


 ヘイゼルの問いは、俺には少し引っ掛かった。それも訊きたいことではあったんだけど、その前段階があるはずだ。


「反王家派閥の首魁、ラングナス公爵の別邸。……ここじゃ」


 テーブルに広げられたのは、王国中心部を表した手書きの地図。俺の目から見ればさすがに前時代的な表記ではあるけれども、ざっくりとした位置関係と距離感は見て取れた。


「王都からだと、街道を三十二キロ(二十哩)くらいですかナ」

「もう少し近いですね」


 サーベイさんと護衛のマイファさんは、どうやら王都周辺に土地勘があるようだ。商用か別件かは知らないが。案外この凄腕商人氏は、いろいろと経験豊富な感じはする。


「ラングナス公爵は本日、謁見のため王城に向かったと聞いてますヨ。実際には、宣戦布告のためだと思われますが」


 ……それって、俺たちが吹き飛ばす前? もしかして、内戦当事者の両首脳を潰しちゃった?

 まあ、どうでもいいといえば、どうでもいい。知りたいのは、そこじゃない。

 俺たちが飛んでくるより早く届いた情報。それ自体は魔導通信器(マギコミュニカ)で伝えられたんだろうけれども。

 その情報提供者と、提供してきた理由だ。


「そろそろ話してもらえませんか」


 俺はマカ領主とサーエルバン領主代行に説明を求める。


「王国側の交渉相手は誰なんです」

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