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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
甘やかな孤立

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破れかぶれの皮算用

 冒険者登録して最初のダンジョンアタックは、俺だけゲンナリな結果になった。

 巨大マーダーキャサワリは変異種ではなく、“クラウンドキャサワリ”なる上位個体とわかった。頭頂部にある角質突起(トサカ)が広がって王冠みたいに見えるからそう名付けられたらしいけど、買値はほぼゼロ。

 というのも、小銃弾三十発を叩き込んだせいで内臓を破ってしまい、内容物で肉が汚染されて食えなくなってしまったのだ。高額買取してもらえるはずの魔珠も銃弾で砕けているし、皮も羽もズタボロで売り物にならず。お情け程度の討伐報酬が現地価値千円(銀貨一枚)。エルミとマチルダがキレイに殺した通常サイズのマーダーキャサワリが現地価値二万円(金貨一枚)なのに比べると二十分の一の価値しかない。

 まして.303ブリティッシュ小銃弾を三十発も消費したのだから、完全に赤字だ。


「キレイに仕留めたら現地価値四十万円(金貨二十枚)は堅いんですけどね」


 冒険者ギルドの受付でアマノラさんから哀れみのこもった目で見られてしまった。

 ガールズが仕留めた三十羽近くの魔物は、金貨十一枚と銀貨五枚。プラス、マーダーキャサワリのクエスト報酬で金貨三枚。現地価値で二十八万五千円てとこか。山分けを提案されたけど、そこはエルミとマチルダの取り分にしてもらった。


「みんなでやったクエストなんだから、みんなで分けるのニャ」

「ありがたいけど、俺は何にもしてないし。特にカネに困ってないからさ」


 ふたりの冒険者証に付随している、銀行口座みたいな預金システムに入れてもらう。ひとり金貨七枚と銀貨二枚半。端数は大銅貨で、とか言ってたんで俺のボロボロキャサワリの討伐報酬だった銀貨一枚を足して割り切れるようにしてもらった。


「すっかり忘れてたけど、エルミとマチルダの給料どうしようか」

「要らないのニャ」

「食事と住むトころを提供しテもらってイるからナ。“すてん”も、“たま”もダ」


 そんなわけにもいかんだろ。俺なんかより、よっぽど働いてもらってるんだし。ヘイゼルと相談して、彼女たちふたりとレイラは基本給を月に金貨五枚ということにした。ナルエルは鍛冶工房で働いているので、そちらと合わせて金額が揃うくらいにしてもらう。

 日本人感覚で月十万円と考えると安いけど、物価も安いゲミュートリッヒでは一家四人がふつうに暮らせる金額らしい。この辺りは購買価格ベースの換算をしている俺と現地感覚の差異だろう。

 ちなみにヘイゼルはDSDに入金した分を半分まで好きに使って良いと伝えてある。我ながらゲミュートリッヒの会計を笑えない丼勘定だな。


「ミーチャさん、それで思い出しました。来月“賢人会議”があるそうなので、ティカさんと一緒に出席しようと思っています。ミーチャさんは、どうされますか?」

「行くよ。相手の顔も見ておきたいし、中央の連中に釘刺すなら、俺も同席する」


 それを聞いて、エルミとマチルダは双子のようにシンクロした動きで首を振る。


「あんま殺しすぎちゃダメなのニャ」

「そうダぞ? 多すぎる敵はカネを産まン」


 うん。道理だけど、個人のヒットカウントならブッチギリの君らが、それを言いますかね。


◇ ◇


 営業前の酒場に、ティカ隊長が訪れた。用件は、“賢人会議”に向かう前の打ち合わせだ。


「次回の会議場は、マカだ」

「え?」

「会議を進める議長職は持ち回りでな。次からはタキステナ領主が務めるはずだったが、な」


 片手を上に向けてグーパーと開いて閉じて。ティカ隊長はゲンナリした顔で首を振る。なにをそんな嫌そうな顔……と思ったところで、理由がわかった。

 カウベルを鳴らしながら入ってきたのが鍛冶工房のパーミルさんと愉快な酒好きドワーフお爺ちゃんズ。そしてシレッと混ざっているのがマカ領主エインケル翁だ。

 まだ帰ってなかったんかい。


「エインケルさん、領主の仕事は大丈夫なんですか?」

「大丈夫じゃ。ここでの用は済んだんで馬車だけ帰した。せっかくだから、マカまで一緒に行かんか」


 ん? となって首傾げ気味の俺に代わって、ティカ隊長が鼻で笑う。


「なにが“せっかく”だよ。どうせ、あれだろ。ヘイゼルが手に入れた空飛ぶ乗り物を見たくてウズウズしてんだろ」

「無論じゃ!」


 うん。正直なのは結構だけどねエインケルさん。

 一応、仮にも為政者なんだから、少しは本音と建前を使い分けましょうね。


「聞けば聞くほど、その“へり”やらいうのを、ひと目でも見んことには仕事も何も手につかんわ!」


 パーミルさんたちは冷静な顔で苦笑している。

 ああ、そうか。鍛冶工房のみんなは整備したから、ある程度の好奇心は満たされてるわけね。


「ミーチャ、ワシらは、なんも漏らしとらんぞ?」

「わかってます」


 ゲミュートリッヒの鍛冶工房で働くスタッフは、扱う物が物だけにセキュリティや情報統制の大切さは理解している。外の者に対して、たとえ気心知れた相手でも無闇に話したりはしない。


「エインケルさんは、俺たちのタキステナ襲撃を知ってましたからね。ヘリについても聞いていたんでしょう」

「そうじゃ。ただ商業ギルドの連中、どいつもこいつも報告が要領を得ないんでな。微塵も役に立たん」


 そらまあ、いきなり見たことも聞いたこともないものが飛んできて領主館を吹っ飛ばしたら、そうなるわな。


「乗せてくれたら、なんでもするぞ! 政治でも経済でも技術でも支援するし、軍事同盟でも大歓迎じゃ!」


 エインケルさん、ちょっと落ち着きましょうね。

 俺たちもう敵は手に余るほど作り続けてきたんで、いっぺん落ち着いて暮らしたいだけなんですよ。

【作者からのお願い】

読んでくれてる方が増えてるみたいで、ありがとうございます。

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[一言] いっそ、愛おしい・・。 好っきゃでェっ! ・・老体の戯言です。
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