デンジャラス・スティンク
ダンジョンの入り口から、暗い洞窟のような通路を抜ける。
エルミとマチルダは移動中、短機関銃の弾倉を装着せず左手に持ったままだ。
以前ボロボロのステンガンを使っていたとき暴発したことがあったらしく、エルミが考えた安全策なのだとか。足場の悪いところを移動するときは、可能な限り弾倉を外しておく。すぐに使う必要がある状況では弾倉を装着するが、その際はボルトを手で押さえる。
「ステンガンって、そんな危なっかしいのか」
「いまのキレイな“すてん”は、大丈夫だと思うけど、念のためニャ」
こういう几帳面で安全第一なところは、彼女の性格なんだろう。マチルダもそれを尊重しているようだ。
通路を抜けると、雲のない空が開けた。
ダンジョン内部の様子は、前に来たときと変わっていない。ゴツゴツした岩場が広がる渓谷地帯。ダンジョンを内包する山そのものより広い空間だ。
平地には腰くらいの高さの藪が点在して、ときおりカサカサと揺れている。そこに多くの魔物や獣が隠れているのだろう、俺にでもわかるほど大量の気配があった。
「いま気付いたけど、ここで撃ったら銃声で魔物を呼ばないか?」
「どうでしょう」
ヘイゼルは少し考えて首を傾げる。武装は弱装弾を込めたリボルバーだけなのに、不安そうな様子は微塵もない。むしろ、来るなら来いとばかりに背後の魔物たちを笑顔で眺めている。
「逃げるものと襲ってくるものと、両方いるんじゃないでしょうか。こちらを弱者と見るか強者と見るかで」
俺に関しては弱者で確定。問題はガールズだな。ワイバーン以外には勝てるだろうが、魔物たちがどう見るかだ。
「サプレッサ付きの銃器もありますが」
前に購入した減音器付特殊拳銃や減音器仕様のステンガンMkⅡSか。当初それも考えたが、初速を抑えた亜音速弾は威力と弾道が通常弾よりかなり落ちる。既にステンガンを愛用しているエルミとマチルダには、足枷にならないか迷うところだ。ましてウェルロッドは単発の手動排莢だし、暗殺用の銃なので至近距離じゃないと狙いにくい。
念のため、エルミとマチルダに訊いてみることにした。
「魔物が来たって、そのときはそのときニャ。撃ったらすぐ移動するから大丈夫ニャ」
「うム。恐れルに足らン」
俺の心配も、タフガールズには余計なお世話だったようだ。
「ヘイゼルちゃん、仕留めた獲物の引き取りはお願いできるかニャ?」
「はい。お任せくださいな」
というわけで、ダンジョン攻略スタート。いざとなったら俺がブレン軽機関銃でサポートしよう。
「最初の目標は、マーダーキャサワリを三羽だ。怪我のないようにな!」
「「おー!」」




