サム・グリーン・サム
なんかこれは要らんパートのような気がしてる
ウチのガールズと鍛冶工房のみんなで美味しいお茶を楽しんだ後、俺たちはレイラからゲミュートリッヒの農業的将来設計について話を聞く。
現状で具体的な問題はないが、特に方向性も展望もないという状態。逆に言えば新しく動き出すのに何のしがらみも障害もない。
「ここの土壌は、悪くないですが薄いです。砂と岩盤の上に、肥沃な土が堆積した状態ですね」
どうやら過去の河川氾濫で流されてきた土と養分が、荒野に溜まったものらしい。前にヘイゼルが似たような推測をしていたけど、流れてきたのは土砂ではなく土の方か。
水路の工事を行った爺ちゃんたちがレイラに尋ねる。
「ワシらは地盤を見とるが、土の深さは最低でも一メートル弱あったぞ? 深いところで二メートル強。畑を作っている者たちからも、“作物の育ちは良くも悪くもない”と聞いとる」
「そうですね。いまの規模と作付けであれば、大きな問題なく維持できるでしょう」
いまいる住民で、これまでと同じ暮らしは保てる。
ゲミュートリッヒって、農業は片手間程度で基本は狩猟採集ベースだからな。でも、町を発展させるためには農業の拡大が必要になる。新規住民の流入が増えてきたら、なおさらだ。
「土に養分はあるけど、その層が本格的な農業を行うには薄いわけだ」
「そうです。ミーチャさんの言う通り、土壌が蓄えている養分に大きな余裕はないので、過剰な農地拡大を行えば短期間で枯渇します」
レイラの概算によれば、外壁の内側にある畑を整備して生産性を上げた場合、自給自足で養える住民の数は百から百五十。
いまの住民がそのくらいだな。それが狩猟採集なしでも生き延びられるようになるのか。
「住民が二百を超えると、かなり無理が出ます。土壌の維持に新たな土か堆肥か魔導師が必要になりますね」
それは当然、ただの試算だ。いきなり農業のみに依存する暮らしにはならないしな。
サーベイさんを窓口にサーエルバンとの交易も広がってきたし、プラスアルファの余裕もある。短期的にはヘイゼルの調達能力を頼みに生き延びることも可能だし、転移魔法陣でサーエルバンからの大量輸送も可能だ。
ゲミュートリッヒなりの特化産業を興して、食糧生産を部分的にアウトソーシングするのもナシではない。
「なるほど。ティカとも話して、考えてみようかの。まずは段階的にじゃな」
「そうですね」
「クライムゴートを殖やして、外壁の外で放牧するのも良いぞ。溜め池の手前側なら、池や水路で魔物や獣を防げそうじゃ」
「はい。農業と畜産は、餌や肥料を相互に補えて便利です」
うん。これはこれで、夢が広がる感じだな。
食糧生産の安定は、心の余裕につながる。いざというときに選択の幅も増える。荒野の最前線にある陸の孤島で、食料自給率が低いのはリスキーだからな。
最低限でも生き延びられるだけの作物を確保しておかないと……
「そうか。それで、ここは芋がやたら充実してるのか」
「ミーチャさん、気付かれましたか。ゲミュートリッヒと英国の共通点を」
ヘイゼルが笑顔で言う。日本人の米に対する価値観や思い入れみたいに、イギリスやドイツじゃ芋に並々ならぬ愛着を抱いている話は聞いてたけどな。
「芋が好きってこと?」
「いいえ。お芋でできているということです!」
……です、って断言されてもさ。初耳なんですけど、そんなん。




