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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
甘やかな孤立

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(閑話)静かなる茶会

閑話続きなスローライフ

 レイラを連れて鍛冶工房に向かうと、テーブルにお茶の準備が済んでいた。

 俺たちを待っていてくれたようだ。お預け顔の爺ちゃんとガールズには、悪いことしたな。


「お待たせ、ちょっと専門家の意見を聞いてて遅くなった」

「専門というのは、あれか。エルヴァラに伝わる農の真髄じゃな?」

「ほう」


 ドワーフのマドフ爺ちゃんが言うと、鍛冶師パーミルさんも興味を示す。


「それはワシも興味があるぞ。ゲミュートリッヒが大きくなる上で、他と違う物が作れれば交易で強みになるからのう」

「いえ、わたしは専門家というほどの知識も力もない下っ端なんですが」

「そらぁ農の魔境と呼ばれるエルヴァラではそうかもしれんがの……」

「なにそれ、どんなとこなんだよ」

「みなさん、難しい話は後にしてお茶にしましょうか」

「「さんせー♪」」


 待ち兼ねた女性陣からの提案で、とりあえずお茶と茶菓子を楽しむことになった。

 テーブルには大皿三つに山と積まれたビスケットとチョコレートとカップケーキ。スコーンは焼きたてらしく、小麦の良い香りがしている。

 添えられた再生ガラスの容器には、二種類のジャムとクロテッドクリーム。今日のお茶はティーバッグではなく、ちゃんと茶葉をポットで煎れるようだ。


 あらかじめ温められたティーカップを配られ、注がれたお茶をひと口飲んだ俺たちは、一瞬しんと静まり返った。

 なにこれ。


「う、美味ぁ……!」

「なに、こんなお茶、初めて飲みます……」

「ただの紅茶ですが、お褒めに預かり光栄です」


 ヘイゼルの煎れたお茶は、テーブルに着いた十数人を黙らせるのに十分だった。直前まで山盛りの茶菓子しか目に入っていなかったアマノラさんさえ、ティーカップを覗き込んで不思議そうな顔をしている。

 実際、味の深みと香りの立ち方がすごい。本当に、ただの紅茶なのかな。茶葉の種類だけでいえば、ふつうの紅茶ではあるんだろうけど。


「……たしかに、ただの紅茶ですね」


 レイラが柔らかに微笑みながら同意する。どこか信じられないものを見るような、困惑顔で。


「茶葉は良質で新鮮ですが、特別なものじゃないです。それをここまで素晴らしい味わいにしたのは、ヘイゼルさんの手腕。優れた煎れ方と……そして水ですね」

「水?」


 俺を含む“お茶なんて飲めれば良い”チームが首を傾げるなか、レイラとヘイゼルは顔を見合わせて、幸せそうに笑い合う。

 ようやく真髄を理解し合える同胞を見つけた、みたいな表情で。

 なんだそれ。最近ことあるごとに達人同士の対話みたいのばっかり見せられて、凡人の疎外感すごいんだけど。


「わたしも、こちらの井戸水はいただきました。けして悪いものではないですが、お茶には向きません」


 確信を持って語るレイラの笑みに、ヘイゼルが満足げな顔で頷く。なんでか、エルミとマチルダも。


「はい。それは先ほどエルミちゃんとマチルダちゃんに汲んできてもらった、山からの湧水です」

「えっ……やはり、渓谷の滋味が感じられると思ったんです」


 ヘイゼルによれば、水の硬度――レイラが言うところの“渓谷の滋味”――が高すぎても低すぎても紅茶は美味しく抽出できないのだとか。古い水も、沸かし直しもダメ。必ず汲みたて沸かしたての水を使う。茶葉の対流循環が起きやすいよう、事前に振って酸素を含ませる……


「……へぇ」


 われわれ凡人組は、大変美味しく味わいながらも高度すぎ詳細すぎる工程にポカーンとしている。特にドワーフ組は、“何でお茶のためにそこまでせんとイカンのだ”、と顔に書いてあった。

 それでも疑問を口にしないのはマナーというよりも、譲れない拘りというのは素人から見ると難解で不可解で無意味に見えるものだと理解しているからだろう。一流の職人なら誰でも思い知っていることだ。


「理屈はわからんが、味は素晴らしいぞ」

「そうじゃ。こんな美味いお茶は生まれて初めて飲んだわい」


 そして、分野が違っても一流には敬意を表する。

 手放しで褒められて、ヘイゼルとエルミとマチルダは幸せそうに笑う。


「あの、お菓子をいただいていいですか?」

「どうぞどうぞ。温かいうちにお上がりください」


 お茶の真髄に触れてすっかり毒気を抜かれてしまった俺たちは、油断していた。ヘイゼルが手作りしたという究極のスコーンに再び驚愕させられることになるのだが……

 それはまた別の話だ。

【作者からのお願い】

「マグナム・ブラッドバス(完結)」含めて

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[気になる点] 魔の農協と空目しました
[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★
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