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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
甘やかな孤立

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煌めく農筋

 朝食後、特に仕事もない俺は散歩に出る。スローライフというよりヒモぐらしだな、これ。

 ガールズは店の準備を済ませて、お茶の準備を始めた。用意が済んだらお茶と茶菓子を持って、ナルエルのいる鍛冶工房まで差し入れに行くそうな。


「ミーチャさんも後で合流しませんか?」

「ああ、そうだな。買い物でもあれば、やっとくけど」

「それは大丈夫ですが、アマノラさんとレイラちゃんがいたら、工房に誘っておいてください」


 出てすぐ右にある冒険者ギルドの建物を覗くと、受付カウンターで退屈そうな顔のアマノラさんがヘタれていた。

 まだ専属の冒険者がいないゲミュートリッヒでは、開店休業なのも当然だな。


「あ、ミーチャさん。クエスト受けませんか」

「遠慮しとく。俺は働かずに生きてくのが理想だから」

「そりゃそうですよね。お金に困ってなさそうだし、そもそも大繁盛してる商店主だし」


 大繁盛は……まあ、してるか。そして実際、カネに困ってもない。この歳になって冒険者になろうという気もない。銃以外の戦闘能力ないし。体力は雑魚だし。魔力なんてゼロだし。

 やべえ、悲しくなってきた。


「ヘイゼルがお茶の時間にするって言ってたけど、暇なら鍛冶工房まで……」

「行きます!」


 喰い気味どころか、思っきりカブせてきた。茶菓子に釣られたのもあるだろうが、そうとう暇なんだろうな。


「ふんふんふ〜ん……♪」

「そんじゃ、先行ってて」

「は〜い」


 ドアに“外出中”の札を下げると、アマノラさんは鼻歌まじりで工房にスキップして行った。


 俺はレイラを探して町の外壁沿いを回る。日差しが暖かくて、絶好の散歩日和だ。

 牧草地なのか休耕地なのか、芝生みたいになった場所で獣人と人間の子供たちがキャッキャと転げ回っていた。


「みーちゃ!」

「ちゃー♪」

「おう、お前らレイラ見なかったか? 新しく来た……」

「おっぱいおーきい、ねえちゃん?」

「それだ。……けど、そういうのは、あんま言うなよ? セクハラになるからな」

「せく?」

「そういうの、いっちゃダメ」

「そうだよ。みんなと、ちがうとこ、いわれたらイヤでしょ?」


 子供たち、“セクハラ”は通じてないけど文脈は読んでる。様々な種族とその混血が共存するなかで、外見の差異がデリケートな問題なのはわかっているらしい。


「そっか、じゃあ……タレめの」

「それも、ダメ!」

「……せが、たかい?」

「う〜ん……」

「おんなのこ、だから。もしかしたら、イヤかも」


 子供っぽい口調ではあるが、彼らなりに考えて“身体的特徴は基本ナシ”という結論に至ったようだ。シスターの教育のせいか、みんな根が素直だな。


「それじゃ……」

「なまえ。レイラねーちゃん」

「わかった」


 とりあえずの結論に達した子供たちは、待っていた俺に南西側を指す。


「れーらねーちゃ、あっち」

「おう、ありがとな」


 言われた方向に向かうと、噂のレイラは鼻歌を歌いながら(くわ)で空き地を耕していた。その姿は長閑(のどか)で、のんびりしたものなのだけれども。


「……え、なにこれ」

「おはようございます、ミーチャさん」


 俺に気付いた農の里のプリンセス――かどうか知らんが領主の娘――は快活そうな笑みを浮かべる。

 彼女が耕したと思われる面積は、優にテニスコート二面分以上はあった。昨日は農作業なんかしてなかったから、今朝からの半日弱……せいぜい二、三時間で行ったことになる。


「これって、その鍬だけでやったのか?」

「はい、もちろん」


 ゲミュートリッヒの畑は、外壁の内側に配置されている。家を外敵から遠ざける緩衝地帯としての機能もあるのだろう。広さも形も作物も手入れ具合もバラバラなそれは、その適当な感じが牧歌的な風景だったのに。

 レイラの手を入れたところだけは、近代農業を感じさせる直線的で効率的な畝と畔と区画割がなされていた。


「すげえな。こういうの、エルヴァラじゃ普通なのか?」

「はい。わたしも“農業適性(みどりの手)”は持っていますが、片手間程度の初心者ですから」

「これで⁉︎」

「そうです。専門の技術者が行えば、もっとずっと早くて高度で効率的ですよ」


 レイラから少しだけ話を聞いたが、“みどりの手”というのは草木を生やす便利な魔法などではなかった。土壌の成分コントロールを行って地力を向上させ、作物に最適な環境を作り調整するための手段だ。


「なので、“みどりの手”だけでは使い物にならないんです。知識と経験の蓄積がないと、場当たり的にしか対処できません。長期的視野を持てなければ、それは“農業”ではなく“畑作”です」

「お、おう……」


 ふだんはフニャッと癒し系美人なレイラの顔が、農業の話になると急にキリッとインテリジェンスを感じさせるものに変わった。


「もしかして、エルヴァラって農業的な階級とかあったりする?」

「階級はありませんが、技術格差は大きいです。作物を育てるだけなら三流、新たな(しゅ)を根付かせて二流、破綻のない環境を生み出してようやく一流と言われています」


 なにそれ。むっちゃハードル高けぇ。農業も魔法で簡単便利、とかじゃないなのか。これはクラークの法則の逆を行くな。

 魔法で突き詰められた技術は、たぶん先進科学と近いものになる。


「どうしました、ミーチャさん。そんなに難しい顔をして」

「……いや、なんでもない。自分の浅はかさに恥ずかしくなっただけだ」


 ここだけの話だが。こっちで近代農法でも広めたら上手く転がるかな……なんて、甘っちょろいことを心のどこかでは思ってたのだ。

 でもレイラの話で、農業に詳しくない俺なんかはアドバイスどころか理解も難しいことがわかった。クローバー植えれば良いよ、なんて聞きかじりの話をドヤ顔でしなくてホント良かった。

 それエルヴァラでやったら、失笑されて大恥かいてたわ。


「……ああ、レイラ、お嬢様。……お茶の、お誘イに上がりマした」

「え? ミーチャさん、なんで急にそんな腰低くなって……」

「いえモーあっしナんて、タダの小物でヤんスから」

「……やんす?」


 やべえ、想像しただけで恥ずかしさで"ゔぁああーッ!”ってなる。これも、あれか。“共感性(エンパシック・)羞恥(エンバラスメント)”とかいう……


「お疲れでショう、から。あちラで。ハイ。粗茶では、ございマすが、エエ」

「ミーチャさん⁉︎ なんでギクシャクしてるんですか⁉︎」

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― 新着の感想 ―
[良い点] 破綻のない環境を構築して、始めて一人前 素人目には、神の領域なんだが・・ [一言] テンパってしまうのは分かりますわぁ
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