遅く起きた朝は
またも寝坊してしまった俺が一階の自室から出ると、女性陣はみんな朝飯を済ませて働き始めていた。
そもそも、こっちの世界のひと、寝るのも早いし起きるのも早いのだ。夜更かしすると灯火燃料の無駄だからね。そして日の出とともに、それぞれの仕事を始める。
うん、なんにしろ俺ひとりだけダメ人間な感じである。
「ミーチャさん、朝ごはん温めますか?」
「ありがと、そのままで……というか、自分でやるよ」
俺の分として取り置かれた大皿には、イギリス流なのか様々な食材がワンプレートで並んでいた。
雉子鶉の目玉焼きに温野菜、豆のトマト味煮込みと、炙った藪猪の塩漬け肉。メインは跳躍鰱のグリルだ。
みんなまとめてパンに挟み、潰したグリンピースとタルタルソースで味付け。
サンドウィッチというには雑でボリューム感ハンパないけど、これがなかなか美味い。
「お茶どうぞ」
「ふぁんぎゅー」
巨大サンドウィッチを頬張る俺に、ヘイゼルが紅茶を煎れてくれた。
キッチンからは、カレーの良い香りがしてる。エルミとヘイゼルとマチルダは、夜の営業に備えてティッカマサラの仕込みをしていたようだ。
もう食材だけでなく、スパイス類も英国製から地産地消バージョンに切り替えた。ゲミュートリッヒのエルフ特製カレー粉と山羊乳酪。野菜も地物で、肉は藪猪。
「ミーチャさん、大口鯰という魚が上がったみたいですよ」
「精肉鮮魚店とこ?」
「はい。長男さんが運んで来てました。前いただいたトビタナゴも残りわずかなんで、フィッシュ&チップスで試してみましょうか」
「うん。……って、あれ? それ獲ったのは湖?」
「そう聞いてます。水路にも魚は入り込んでますが、漁業用の網や船は湖にしか置いてないので」
そうか。すっかり忘れてたな。町の外壁から釣りができるかも、ってウキウキしてたのに。
精肉鮮魚店の仕事を奪う気はないが、いっぺんくらい自分で釣った魚を食べたい。
こっちのひとたちには、あんま理解されないけどな。前に話したら、“道楽で漁をするのか?”って反応だった。
「そのナマズもだけど、他の食材も試してみたいな。なんだかいう淡水ロブスターみたいなのとか」
「沼海老、ですね」
「そう、それ」
その沼海老、キルケによれば湖の泥や藻のなかに隠れているので普段は漁獲対象ではないらしい。住民からオーダーを受けたら、そのときだけ獲ってくるそうな。
食べる前には何日かキレイな水で泥を吐かせる必要があるとか。茹でる前の色が青黒くて気持ち悪いとか。殻が固くて食いにくとか。食べてると手が臭くなるとか。そんなこんなで、あんまり人気はないらしい。
うん。甲殻類は食べ付けないと抵抗あるのもわかる。でも今度頼んでみようっと。




