楽園の扉
感想で言われて気づいたけど、前回で完結みたいにも見えなくもないのね。
ええと……もう少し続くのじゃ!(あんま深く考えてない)
「ミーチャのところには女の子ばかりが増えてくな」
「まあね」
レイラを連れて帰ったら、ティカ隊長に苦笑された。
言いたいことはわかるが、それは俺のせいじゃないぞ。わざわざ選んで連れて来てるわけではない。たまたま、出会いがそういう方向に偏っているだけだ。
ともあれ、レイラは無事にゲミュートリッヒへと受け入れられることになった。しかも、拾って来た者の責任としてウチで預かることになったのだ。
落ち着く先を見つけるまで、という前置きではあったが……既にティカ隊長から許可を得て二階のガールズ部屋は、壁の一部を壊して続き部屋になってしまった。
マチルダとエルミの部屋がつながってナルエルを含む三人部屋。暫定的にナルエルの部屋だった個室が、レイラの部屋になる。
自分だけ個室なのにレイラは――そしてヘイゼルも――恐縮しているが、エルミたちは嬉しそうなので問題ない。ベッドはDSDで追加で購入したものをレイラとヘイゼルの部屋に。三人部屋には同サイズのベッドが三つくっつけて置かれることになった。
「王様のベッドみたいなのニャー♪」
「これナら、どれダけエルミの寝相が悪くテも、落ちル心配がナいゾ」
「ウチそんなに寝相悪くないのニャ……」
……うん、なんかスゲー楽しそうだな君ら。
レイラがそれを見て、混ざりたそうな顔をする。仮にも農の里エルヴァラの領主令嬢なんで大きなベッドくらい見慣れてるだろうし、もしかしたらキャッキャしながらじゃれ合っている女の子が羨ましいのかも。
ヘイゼルを手伝って買い物から戻ると、いつの間にやら五人がワチャワチャと連結ベッドで転げ回っていた。
……って、五人?
「レイラはともかくアマノラさんまで、なにしてんの」
「いやぁ……改めて着任のご挨拶に伺ったんですが、あまりに楽しそうな声が聞こえて来て、ついつい」
ついついじゃねえ。
アマノラさんは、冒険者ギルドの職員として赴任して来た人狼女性だ。彼女とレイラは雰囲気が落ち着いてるので、三人の女子中高生と戯れる女子大生ふたりみたいな変な絵ヅラになってるし。
良いけど……いや、良いのか?
空き家だった店舗が冒険者ギルドのゲミュートリッヒ支部になったんだっけ。これからは、ウチのお隣さんということになるわけだ。
「そんじゃ挨拶がてら、アマノラさんも夕食を一緒にどう?」
「ぜひ!」
遠慮どころか、喰い気味にきたな。
俺たちはタキステナから戻って来たばかりなので、酒場の営業は明日からだ。待ちきれずに訪れたお客には、ボトルでの販売だけ対応しておいた。
お客さんのアマノラさんと新人歓迎枠のレイラ、ナルエルには座っててもらって、調理は俺とヘイゼル、マチルダとエルミで行う。酒場の調理で慣れてるしな。
メニューは跳躍鰱のミンチボールと温野菜のスープ。それにクマパンさんで買い込んでおいたパンを薄くスライスしたものを添える。英国的スタンダードだかで、焼き加減はカリカリ気味。
メインは香草をまぶしたワイバーンのフリッターだ。その付け合わせには、ヘイゼルの拘りで山ほどのフライドポテト。尋常じゃない量なんだが、これは。
「むしろ英国では、チップスがメインです」
「うん。真顔でサラッと言われると信じそうになるわ」
ヘイゼルによれば、完全に嘘ではないみたい。ニュアンス的には、日本で言う主食に近い存在なのかも。
どれも大皿で山盛りにして、店の広いテーブルでいただく。女性ばかり七人のなかに俺だけというのが気にならなくもないが、いまさらだ。
「ぅ、ンまあぁ……ッ⁉︎」
ワイバーンのフリッターを頬張ったアマノラさんが、目を白黒させている。好評のようで何より。
帰路で何度かゲミュートリッヒ流――というのか英国流というのか――の食事を経験したレイラは驚きこそしないが、うんうんと頷きながら幸せそうに食べている。
「そういえばアマノラさんって、中央から派遣されて来たんだよね? 中央の、どこから?」
「小さな町をあちこち転々としてきたんですよ。大きな町ほど獣人には風当たりがキツくて」
そうなんだ。中央ってのがどういうところかは知らんけど、亜人は西部と南部に多いとは聞いてる。
逆に言えば、それ以外の地域は亜人差別思想を持った連中がいるのだろう。そういうとこには、あんま近付きたくないな。
「生まれは北東部の獣人自治領なんですけど。あそこは、ほとんど別の国ですからね」
「そんなもんか。たしか人狼が領主なんだよな……」
「はい。人狼マハラですね。なんでも腕っ節で決める風潮なんで、領主はコロコロ変わりますが」
「マハラってのは強いの?」
「あれは化け物ですね。ただ、ずっと勝ち続けてると、それはそれで飽きて辞めたりするんで」
なんだそれ。行ってみたいような、みたくないような。
ガールズ&お姉さんズは大量のメニューをモリモリと平らげた後、食後の紅茶とデザートを楽しむ。
「ああぁ……この世の楽園は、こんなところにあったんですね……」
アマノラさん、アンタもか。みんなして楽園楽園って、こっちの人間の慣用句なのか?
彼女が蕩けた顔で齧っているのは、チョコ掛けの全粒粉ビスケット。たしかに美味いは美味いが。そこまで感動するというのは、たぶん糖類が高価なのが大きいんだろうと思う。
人心地ついたところで、ヘイゼルがナルエルを見る。彼女も他のガールズと同じく、甘味とお茶に惚けたような表情になっていたのだが。
「ナルエルちゃん、明日は工房に行くんですか?」
「もちろん! ついに、“りんくす”を調べられる!」
いきなり目をキラキラさせたドワーフ娘が、興奮した声で答える。
タキステナ攻略のために購入した汎用ヘリは、ドワーフ技術陣の手によって入念な清掃と整備がされることになったのだ。俺とヘイゼルで話して、整備までは許可した。放っておいたらビス一本まで完全分解しそうだったので、そこは必死で止めた。車はともかく、航空機でリスクは負いたくない。
「最初は整備だけな。絶対に分解するなよ?」
爺ちゃんたちもナルエルも、鍛冶や機械工としては凄腕だけど分解組み立ての成功率はそんなに高くないのだ。トライ&エラーで小さな失敗を経験しながら完璧を目指す性質だから、ヘリだとそのトライもエラーも空の上で経験することになる。
「大丈夫ですよ、ミーチャさん。整備後は低空でのホバリングで確認します」
「ぜんぜん大丈夫な気がしない……」
「“りんくす”のことがわかったら、次は“とー”も調べたい」
“とー”って、“ 光学追尾有線誘導”ミサイルね。もちろん信管は外してやるんだろうけど、そっちもなんか怖いな。
「それから、“ブレン軽機関銃”と“車載重機関銃”も気になる。“MAG汎用機関銃”も興味があるし、工房にあった“戦車改修の装甲車”も見逃せない。あと、“らんどろーばー”も……」
彼女の興味は尽きない。あまりに大量な未知の驚異を目の当たりにしてしまったナルエルは、脳が知識欲でパンクしそうになってる。でもまあ、それは爺ちゃんたちも通って来た道なので驚きはしない。
「くれぐれも、事故のないように。あと、日が暮れたら終わりだからな」
「え、ああ……うん、わかった」
絶対わかってない。実際、俺とティカ隊長で平時の工房稼働ルールを“日没まで”と決めると、ドワーフ技術陣は逆算して日の出と共に活動し始めるようになったのだ。
のめり込むと周囲が見えなくなるのはドワーフの血か。俺たちが抑えないとナルエルも爺ちゃんたちも、本当に寝食を忘れ――当然、風呂にも入らず――没頭し続けるのだ。
「ここが日の沈まない国なら良かったのに」
「うん。言いたいことはわかるけど、それ問題が根本から入れ替わってるな」
夜はちゃんと寝ろ。
【作者からのお願い】
いつも感想いただき、ありがとうございます。
おかげさまで「マグナム・ブラッドバス」完結しましたが、こちらは判断保留。
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