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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
燻ぶる炎熱

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(閑話)怒れる神童

 わたしがタキステナで幸せな夢を見られたのは、最初の講義が始まったところまでだった。

 学術都市で史上最年少の学徒なのだから、悪目立ちしていたことは認める。だが、どんなことでも貪欲に学び受け入れようと思っていたのだ。

 ここがアイルヘルンで最も高度な研究が行われる、叡智の殿堂だと聞いていたから。


「こんな魔法陣は、ほんの基礎でしかない」


 教室の学徒たちを見渡して、パータム教授は黒板を指す。そこには、魔力を動力に変換するための魔法陣が描かれていた。その設計の冗長性に何か意味があるのかと首を傾げていると、笑い含みの声が掛けられる。


「ああ、君には難しかったかな? ()()()、ナルエルくん」


 魔導工学の指導教授だという中年エルフの顔には、隠す気もない侮りと蔑みが張り付いていた。


「……難しくはない」

「そうかね? 君は、()()()()()()()()()()()、エインケルの肝煎りと聞いたが……さすがにその年では、ねえ?」


 その小馬鹿にした口ぶりに、含まれた意図はわかる。ドワーフの重鎮エインケル翁の名声は、過去のものだと揶揄しているのだ。

 身の程知らずの無礼さに、わたしは小さくため息をついた。パータム教授は、たまたま勘違いしているだけだろう。たまたま何かの意図を隠しているか。あるいは、たまたま愚かなのか。

 まさか学術都市タキステナの学識が、この程度のわけはない。わたしは、そう思いたかった。

 だから、教えてあげた。


「ただ、失望しただけ」

「なにッ⁉︎」

「そんな単純な魔法陣なのに、設計に無駄が多すぎる。そのせいで反応速度が落ちる。魔力消費も嵩む。動作の確実性も下がるし、作業者の誤記も増える」


 侮辱されたと怒り出したので、正しい魔法陣を描いてやった。

 席に座ったまま、板書された横に魔力光で表示する。単純に描線の数が半分以下、魔力の流路も短いのが一目瞭然だから、簡略化の意味は馬鹿でもわかる。教室のなかに、ざわめきが広がる。


「ハッ! 何を言うかと思えば!」


 わたしの誤算は、現実を知らなかったことだ。

 愚かな者ほど誇りだけは高いこと。そして、愚かさには底がないこと。


「この魔法陣は危険だ! 浅慮(せんりょ)な学生の典型的失敗例だ! 誤作動時の安全策(フェイルセーフ)が考えられていない。この程度の浅知恵で偉そうに能書きをほざくとは、幼児の愚かさだな!」


 半分以下の年齢しかない若輩に指摘されたのが、そんなに悔しかったのか。

 事実を直視するのは辛いだろうが、このまま進めれば大事故を生みかねない。

 だから、教えてあげた。


「わたしが間違っていた。いま啓蒙(けいもう)を受けた」

「ふん、これに懲りたら少しは謙虚になるのだな」

「馬鹿はものを考えないと思っていたが、いま初めて知った。馬鹿はものを考える。驚くほど馬鹿なことを、驚くほどたくさん」


「なん……だと⁉」


 小さく息を吸い込んだパータム教授の顔色が赤から青に変わり、また赤黒くなった。

 握り締められた拳から魔力光が瞬いて、学徒たちからざわめきが起こる。


「おい、まさか私情で魔法を使うつもりか?」

「いくらなんでも、そんなことはありえない」


 聞こえてきた学徒の声に、わたしも同感だ。教授がどれだけ愚かでも、名誉の回復が暴力で解決しないことくらい理解しているはずだ。

 暴力は、そんなに嫌いではないが。最初の講義では、()()()()


「……もう一度、言ってみろ、思い上がったチビが!」

「では、わかるように説明する」


 このままでは収まらないし、危険な設計思想が流布するのも問題だ。どちらが素人か、ハッキリさせた方がいい。


「あなたの描いた魔法陣は、発生するかどうかも不明な、どうでもいい可能性のために、明白で確実な過ちを犯している」


 わたしは、ふたつ並んだ魔法陣を比較できるように、いくつかの光点を置く。


「ここだ。魔力の浪費でしかない無意味な分岐。作動の不確実性を生む曖昧な条件付け。こういう無駄(かざり)が好きなら、魔導工学には向かない」


 魔法陣の機能が同じならば、魔力流路は可能な限り単純で、短い方がいい。

 実用魔法陣の設計を行った経験があれば、そんなことは基本中の基本だと思うのだが。


「動線を簡素化すると、誤記の確率が減るだけではない。異状が起きても、すぐにわかる。負荷が低いから、魔力を抑えるだけで止まる。どんな馬鹿が扱っても、大きな事故にはつながらない」


 教授の描いた魔法陣では冗長な設計が枷となって、魔力注入から現象発現までに時間差がある。反応もわかりにくい。使用者に魔力負担を強いて、必要以上に出力を上げさせる。結果として過負荷が掛かり、魔圧が高まると暴走する。

 それも、安全策のせいでだ。


 それを伝えたところ、鼻で笑われた。なので実行してあげたら、パータム教授が想定していた魔力量の二割五分増しで回路暴走が発生した。


「フェイルセーフの前に、バカ対策(フールプルーフ)が必要。使用者と、作業者と、()()()に」


 学長に呼び出されて経緯を説明すると、当該魔法陣の再検証を命じられた。

 それも、学生主導で。設計者のパータム教授抜きで行う検証に何の意味があるのかと思ったが、要は、それがわたしへの罰だったのだろう。

 半日ほどかけた検証の結果、教授の欠陥魔法陣は七割の確率で暴走した。暴走後は三割の確率で発火、一割二分の確率で炎上、うち一件は爆発と呼んだ方が良い規模の大事故だった。


 その結果をもとにパータム教授は譴責を受けた。准教授に降格されたとかで、何故かわたしが恨まれた。

 解せない。

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― 新着の感想 ―
[一言] うーん、やっぱり頭の固い連中ほど面倒なのは居ないな。というか、学術都市の教授含めた教職陣は大人げない連中ばかりだな。 若い芽を育てるのでは無く、自分たち以上の才能を腐らせる事に腐心してると…
[良い点] なぜこんな無駄な設計をとか、なぜ実用上ダメ出しを食らった設計に固執するんだとかのオンパレードが英国面の特徴なんですがそれは(震え) PIATとかフューリアスとかどう考えてもあかんやろ(´…
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