(閑話)空を望むもの
※(完全に本編と関係ないパートですので、読み飛ばしても問題ないです)
「ミーチャさん、回転翼機を買う気はないですか」
「ない」
いきなり言われて普通はリアクションに困るところなんだけれども、こと航空機に関しては基本ノーだ。
そうまでして急いで移動しなければいけない状況はないし、航空支援は――今後も頼って良いか悪いかは迷うところではあるけれども――エルミとマチルダの抱っこ攻撃機がある。
あの抱っこ攻撃機、初回の戦いではブレン軽機関銃だったようだけど、がんばればベルト給弾仕様のヴィッカース重機関銃でもいけると……少なくとも本人たちは主張している。
両者ともフルサイズの小銃弾を使用するが、ブレンガンは三十発装填された箱型弾倉を差し替えるのに対して、ヴィッカースは二百五十発が連なった布製弾帯。弾倉交換の無防備な隙がなくて済む。
ただブレンが重量十キロ前後のところ、ヴィッカースはどんなに軽量化しても二十キロはある。せいぜいラム無砲塔戦車に載ってるブローニングM1919だろ。あれなら十五キロ前後だ。状況次第じゃ拳銃弾使用のステン短機関銃で十分だと思うんだけどな。
まあ、それはともかく。
「でもヘイゼル、なんで急に? だいたい転送魔法陣が手に入ったんだから必要ないだろ?」
「DSDにウェストランド・スカウトが新規入荷されました」
……なんだ、新規入荷って。DSDは元いた世界から喪われたものたちが送られる英国製の冥界みたいなもんだと聞いているから、あまりツッコみたくない。
過去の遺物を取り寄せるだけかと思ってたが、けっこう荷動きあんのね。
「スカウトって、イギリスの回転翼機?」
「はい。英国ウェストランド製の汎用ヘリコプターですね。ウェストランドは……その後ユーロ圏の兵器産業と関係を深めて独立性を失い、現在はイタリアのアグスタ社と合併してアグスタ・ウェストランドになっています」
うん。あんまり詳しくないけど、イギリスの工業はどこもそんな感じだった気がする。特に航空機産業は、しょうがないだろ。イギリスに限らず、“独立性”を維持できたところはほとんどない。どこも統廃合を繰り返して大資本に呑まれた。
ともあれ、DSDの画面に映し出された機体は……なんというか、機械に興味ない漫画家が描いたような形状だった。性能は知らんけど、モッサリしてて、あんまカッコよくない。
「……ちなみに、これ、いくら?」
「汎用機関銃二挺搭載の軽攻撃ヘリタイプで約一千万円です」
値段も非常に微妙。高いけど、買えなくはない。ヘリとしては安い気もするが、必要もない。
そもそも所有欲を刺激しないモッサリ感。
「朝食にマーマイトでも出されたような顔をされますがミーチャさん、これは記念碑的な機体なんですよ。フォークランド戦争における空戦でアルゼンチン軍が得た最初の、そして唯一の戦果です」
「へえ……いや、なんて?」
「当時、英国軍が空対空戦闘で撃墜されたのは、このウェストランド・スカウトだけです。相手はアルゼンチン軍のIA-58軽攻撃機」
いや、おかしいだろ。それアルゼンチン側の記念碑じゃねえか。
「英国的偏屈さ」
ヘイゼル姐さん、なんでもそれで済むと思ってないか⁉︎




