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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
聖ならざる者たち

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見えざる手

「お邪魔しますヨ」

「あ、サーベイさん。早かったニャ?」


 転送魔法陣を置いてすぐ、早速サーベイさんがやってきた。俺たちが戻った翌朝には使用可能なように配置しておくと伝えてはおいたけれどもさ。フットワークが軽いというか、気が早いというか。

 護衛は双剣持ちの人狼女性マイファさん。同僚の大剣持ちダエルさんと長剣持ちセバルさんは、商館の守りを固めているのかな。


「……ねえ旦那、この“もんにょり”した感じ、どうにかならないのかね?」

「慣れるしかないですナ」


 マイファさん、ふだんはクール系人狼美女なんだけど、ちょびっと乗り物酔いみたいな顔してる。


「なんですか、もんにょりって?」


 ふたりに聞いたところ、転送される瞬間どうにも馴染めない感覚があるのだそうな。そういうの聞いちゃうと、自分が使うとき怖くなりそう。


「マイファさん、それ痛いニャ?」

「痛くも苦しくもないけど、ハラワタをこう……揉まれるような感じ?」

「ニャ⁉︎」


 ワキワキと動かされたマイファさんの手を見て、エルミの尻尾がピコンと立った。猫って、お腹はダメなんだっけ。まあ、俺個人としては頻繁に使うもんでもないし、問題は先送りにしよう。


「お急ぎの用事でも?」

「試しに使ってみたかったのがひとつ、ゲミュートリッヒに来たかったのがひとつ。あとは、前回ティカ殿から預かっていた素材の引き取りと換金が済んだので、そのお渡しと報告ですナ」


 順番がおかしい気もするが、それはそれとして。魔物素材というのは、ゲミュートリッヒが襲われた魔獣群の暴走(スタンピード)の方じゃなく、その前のダンジョン攻略のか。


「ワイバーンの素材が二体分、あれこれ魔珠が大小合わせて百七十六。こちらは冒険者ギルドと商業ギルドに引き取らせて、手数料差し引きでお渡しが金貨七百枚」

「けっこう良い値がついたな」

「最近あれだけの品質を保った素材は、なかなか出回らないですヨ。いま中央ではワイバーン素材が高値で、引く手数多(あまた)ですからナ。これからも、是非お願いしますヨ?」

「……ああ、わかった」


 事前に話し合いが済んでいるようで、特に交渉はなかった。サーベイさんを信用してるのか、革袋の中身も確認しない。受け取った金貨は町の予算に組み込まれて循環するのだろう。丼勘定なのは気になるけど、いまのところ収支は上向いてる感じ。それも、激しく。


「サカフ、こいつを頼む」


 大きな革袋に四つ分のコインを両手でぶら下げたティカ隊長は、少し計る感じで止まると部下のクマ獣人衛兵に渡す。

 もしかしたら、ドワーフだと持った重さでわかるのかもしれん。


「ティカ殿、ゲミュートリッヒにギルドを置く話ですがネ」

「やっぱり、しばらく無理そうなのか?」

「いえ、十日ほどでサーエルバンに中央から補充人員が来ますから、そのひとりを送りますヨ」

「「え」」


 ティカ隊長も驚いているが、俺まで思わず声を上げてしまった。

 中央の対応が、思ったより早い。サーエルバンの冒険者ギルドは壊滅状態だというのに。


「ただ、前職が僧兵に殺されたこともあって、あまり行儀の良い者は来ないですナ。腕もあるけど癖のある、冒険者上がりだと思いますヨ」

「それは大丈夫だ。多少は揉めるのも覚悟してるし、そもそも自分の身も守れん優男が来られても困る」


 ティカ隊長は笑う。たしかに、前にも言ってたな。

 ダンジョンができて新規流入してくる住人や商人は一攫千金狙いで質が落ちるとか。そして、そんな連中の集まる新規ギルドに派遣される職員も、ロクなもんじゃないろうと。


「それで、サーベイの旦那は、ギルドも転送魔法陣の管理に噛ませるのか?」

「商業ギルドだけですヨ。彼らはサーエルバンの住人ですからネ。冒険者ギルドには伝えない方が良いですヨ」

「同感だ。少なくとも、派遣されてくる奴の為人(ひととなり)がわかるまではな」


 ざっくり話し合いが済んで、追加素材の商談に移る。ゲミュートリッヒ側の交渉窓口はティカ隊長だ。


「……スタンピードで、狩られた? みなさん被害はなかったのですかナ?」

「それは問題ない。ただ、量が少し多いんで、旦那に選んでもらおうと思ってな」

「量?」

「ヘイゼル、頼めるか?」

「はい」


 ヘイゼルがDSDの一時保管区画(ストレージ)から素材を出す。

 鍛冶屋の倉庫に並べられた大量の魔物素材を見て、サーベイさんは目を白黒させた。マイファさんは驚いてこそいないが、何かを諦めた感じで苦笑している。


「こ、これはまた……量も凄まじいですが、種類も驚きですナ。レイジヴァルチャに、ハンマービーク……こっちの山はモスキートピジョンと、スクリームパロット。……ほう、マーダーキャサワリとは珍しいですナ。……滅多に捕まらないクライムゴートまで?」

「ああ。皮革と毛皮は(なめ)しが済んでる」

「この様子じゃ、肉は宴会で山分けですナ?」

「さすがに食い切れなかった。腐敗しやすい(あしがはやい)肉と、クセのある肉は、燻製(くんせい)と干し肉に調理済みだ。(さば)き切れないワイバーンとハンマービークは、生肉でヘイゼルに預かってもらってる」


 サーベイさんはキョトンとして、素材の山を見る。


「そのワイバーンというのは、前回の二体以外に、ですかナ?」

「ああ。そこには置けないからな。三体いるんだ」


 サーベイさんだけでなく、マイファさんまでポカーンと、口を開けて固まった。

 ティカ隊長は少し厳しい表情で小太り商人を見る。何かを警戒しているようだけれども、その対象はたぶんサーベイさんじゃない。


「……それを、ぜんぶ引き取ってもよろしのですかナ?」

「それは構わんけどな。引き取る前に教えてくれ。中央で何が起きてる」


 それを聞いてサーベイさんの表情が少し引き締まった。

 ティカ隊長は、工房の隅に置かれたワイバーン素材の板バネもどきを指す。装甲車の足回りを学んだ工房の技術陣が、馬車の改良をしようと試作したものだ。


「旦那なら当然わかってんだろうが、ワイバーンてのは軽くて丈夫で魔力親和性が高い。甲冑やら装甲馬車に最適な素材……要は軍用だよな。それの値が上がってるって、戦争の準備でも始めたのか?」

「そのようですが、詳細は伏せられていますナ。流通の傾向からアイルヘルンの中央が戦力強化を図っているのは伺えるんですがネ。その戦力がどこに、何の目的で動かされるのかが、見えてこないんですヨ」


 サーベイさんの説明に、ティカ隊長は肯定でも否定でもない小さな唸り声を上げる。

 俺にはいまひとつ、話が読み切れていない。アイルヘルンの中央が戦争準備を始めているとして、何がどう問題になるんだ?


「アイルヘルンと敵対する国は……少なくとも正面から敵対する国は、()()()()でしたからナ」

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