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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
聖ならざる者たち

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ミンス・ザ・ワーズ

 聖騎士団長ハーグウェルは、とっさに剣を抜き臨戦態勢に入った。


「敵襲! 三日月陣形!」


 叫んだものの、兵たちの反応は鈍い。謎の轟音に聴覚を潰されたのだろう。ハーグウェル自身、耳の奥にキーンと甲高い反響が残っている。


「三日月陣形! 左翼、ロワン猊下を守れ!」


 副官は素早く意を汲み、身振りで部下を動かしてゆく。

 兵の被害は、魔法陣から近い最前で顕著だった。破裂した音と光に目と耳をやられ、二十名ほどが薙ぎ倒されている。転がりながら痛みを訴えている様子からして、致命傷ではない。むしろ、目と耳の他には負傷していないようにさえ見える。


「猊下、お下がりください!」

「ええい、離せ! 半獣どもが姑息な真似を……ッ!」


 切れぎれの怒鳴り声が、麻痺の残った耳に届く。敵に出し抜かれた現状を理解せず、兵を振り払って前に出ようとする愚かさに呆れる。

 ロワンは争いに向かない。政争でさえもそうだ。劣勢になると感情を制御できない。


「ハーグウェル団長、転送魔法陣の接続は切れています。送り込まれたのは、あの箱と妙な爆裂筒だけでした」

「陣形を維持、魔法陣から距離を取らせろ」

「は」


 まだ目眩がして目の前に光の粒子が瞬き、臓腑にどんよりと不快感がある。

 それと共に、ハーグウェルは嫌な予感を覚えていた。最悪の戦場で何度か味わった、死が迫る確かな予感がしていた。それが何によるものかなど考えるまでもない。


「魔導師団! 総員、攻撃魔法だ!」


 ロワンは騎士団長を通さず攻撃の命令を出す。完全な越権行為だが、いまのロワンを諌められる者はいない。

 小型の厩舎ほどもある四角い木箱は、教皇自ら放った火魔法で焼き払われた。そこに何が書かれていたのか、振り返って攻撃を命じる教皇の目には狂気が宿っている。

 ハーグウェルの位置から、わずかに見えたのは“滅び”と“とどまれ”の文字。

 奇しくもロワンが、前教皇マイア猊下から浴びせられてきた言葉だ。極端な人種の聖別や選民意識は、いずれ聖国や聖教会に滅びをもたらすと。叱責とともに、何度も、何度も。


「この期に及んで、とどまれとは何事か! 我は、聖教会の教皇なるぞ……ッ!」

「よせ!」


 身体を張ってでも止めるべきだったが、騎士団長の整列位置から教皇の立つ魔導師団の場所までは、あまりにも遠過ぎた。何十もの歩兵が弧を描いて陣形を維持しているなかを、突き飛ばし振り払って突進する。

 ハーグウェル自身にも、間に合わないことがハッキリとわかっていた。

 木板の外枠が燃え落ちた後に現れたのは、ずんぐりと黒光りする巨大な錬鉄の塊。海棲の魔物でも模したように見えるそれは、鼻先に小さな飾りがあった。そこに結ばれた布切れが、炎にも焼けず熱に煽られてはためく。

 布の模様には、見覚えがあった。諸部族の融和を示すという、()()の国アイルヘルンの旗だ。

 でき過ぎている。何もかも。もしそれが、敵の差し金だとしたら。


「おのれぇッ!」


 事実、愚かな教皇は、その旗を見て激昂した。

 傍の魔導師から魔術短杖(ワンド)を奪い取ると、頭上に掲げたまま大音声で詠唱を始める。魔導師団が呼応して声が揃い、魔法陣の上に聖なる贄(セイクリッド)の火魔法が組み上がってゆく。


「……贄を求めし浄化の(ほむら)よ!」

「「悪しきものどもを」、「「焼き尽くせ!」」」


 唱和とともに、魔力光が上がる。もっとも短時間で完成し、魔力消費が少なく効果的。

 戦場で重用され多用されてきたそれは、過去に何千何万もの聖敵を葬った灼熱の攻撃魔法だった。


「「あ」」


 巨大な炎弾が小さな旗へと叩きつけられた瞬間、無数に重ね合わされた魔導師たちの魔力と呪詛が、バラバラに引き裂かれて砕け散る。

 霧散した魔素と身体は粉微塵に吹き飛び、強固な魔導防壁の内側に赤黒い霧となって張り付いた。


◇ ◇


「……なんだ、あれは?」


 聖都の住人たちは、街の中心にいきなり現れた暗赤色の半球(ドーム)を見て首を傾げる。

 そこは聖都が誇る大聖堂が建っていた場所だ。壮麗な白亜の殿堂はいつも磨き上げられて眩く輝き、聖都住民たちの誇りと憧れの的だった。

 そう、……だったのだ。


「新しい教皇猊下が、魔法による祝福か、なにか……を」


 一拍遅れて、凄まじい地響きと揺れが襲ってきた。重ね掛けされた魔導防壁が軋みを上げる、甲高い悲鳴のような音。

 広い聖都に轟くその不快な響きに、住民たちは誰もが大聖堂のある方角に目を向けた。


「……まさか」

「そんな、ことが……」


 魔導防壁が決壊すると、無理やりに押し込められていた爆風が周囲に放出される。その凄まじい勢いは聖都の中心部を一瞬で更地に変えた。大聖堂の周辺で立っていたものは馬も人間も、あるいは建物までもが薙ぎ倒され崩れ落ちる。


「「「あああああぁ……ッ⁉︎」」」


 悲鳴と怒号が響き渡り、血と肉と内臓と無数の鉄片を浴びて、誰のものかもわからない血糊で赤黒い人形のようになって。血糊で目も見えず轟音で耳も聞こえなくなった住民たちは、ただ手探りでよろめき歩く。


「ああ、ああ神様」

「我ら聖教徒を、我ら聖なる国をお守りください」


 泣き叫ぶ声は、誰にも届かない。


 この日、聖都アイロディアは壊滅した。

 強固な魔導防壁によるものか、あるいは大聖堂周辺が市井の者たちから隔絶していたせいか。人的被害は極端に少なかったという。死者二十四名。負傷者千二百三十名。


 ()()()()()、四百七十九名。

【作者からのお願い】

むかーし何かの漫画で「ミンスパイ」ての見てミントパイの誤植だと思ってた。ミシンとマシンみたいに和製アレンジ読みが定着してる単語を後から本来の読みで出されると混乱しますね。

……俺だけか。


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― 新着の感想 ―
[良い点] ザ・ワーズって映画がありますが、ミンス ザ・ワーズで細切れの物語?ですかね? 核だとフリーズドライならぬホットドライでw液体wが飛び散るとは思えないので、尻尾を外したサイズ的にもグランド…
[一言]  その流れでミンスパイの話題を入れるのはw
[一言] ワシ、こういうのん好っきゃねん・・。 エエ歳やけどな。
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