再度のサーエルバン
中途半端に開きかけた正門を、ランドローバーのバンパーで押し開く。背後には僧兵たちの死体。半分は俺がブローニング・ハイパワーで、半分はヘイゼルがエンフィールド・リボルバーで殺した。
「無抵抗の相手を殺すと、モヤッとするな」
「血塗れの屠殺場です」
え? なんて?
俺がチラッと目をやると、ヘイゼルは装填を終えた拳銃を手品のようにどこかへと納めて、笑う。
「収拾不能の混沌状態。これは、彼らが望んだ結果です」
「そうだぞ、ミーチャ。武器を奪っても半殺しにしても、僧兵はしつこく向かってくる。魔導師がいれば治癒回復魔法で戦闘復帰してくるしな」
脳筋というのかどうかわからんが、ドラスティックな女性ふたりは終わったことと片付ける。
入ってすぐ、町が静まり返っているのに気づいた。城壁上の僧兵も生き残りはいないらしく、反応はない。
「ちょっと待っててくれ。衛兵詰所を見てくる」
荷台から飛び降りたティカ隊長は正門脇の建物に駆けて行ったが、すぐに戻ってくる。
「ミーチャ、商館に行ってくれ」
「どうでした」
「ふたり死んでた。首を切られてな。状況を見る限り、油断させての不意打ちだ。最初に襲われたのが詰所だろう」
「となると……サーベイさんたちは、まだ無事の可能性があるわけだ」
「そう願いたいな。亡くなったふたりには悪いが」
飛び乗ったティカ隊長は再び臨戦態勢で機関銃座に着いた。二次被害を考えて、攻撃対象は小銃弾が通らない敵に限定してもらう。
「サーベイの旦那には、護衛がいる。頭も回るし備えもある。そう簡単にやられるとは思えんが……」
「急ぎましょう」
ひと気のない通りを走り抜け、サーベイ氏の商館に向かう。南門近くにある冒険者ギルドも、扉と窓が壊されていたが室内に人影は見えなかった。
かといって皆殺しになった風ではない。閑散としたなかにも、あちこちで息を殺したような気配はある。
「まだ全域が制圧されたわけじゃないな。出入り口を押さえて閉じ込めただけだ」
「命令されてかどうかはわかりませんが、破壊は思い留まったんでしょう。経済活動を阻害すると、サーエルバンの価値は半減しますから」
「お」
商館の門衛詰所前、雑多な素材で築かれたバリケードの陰から身構えているひとたちが見えた。
俺が手を振ると、ホッとした顔で出てきた。盾を抱えた門衛がふたりと、サーベイ氏の護衛の人狼男性ダエルさんとセバルさんだ。
防御を優先したのか、みんな剣は鞘に納めたまま弓や盾を持っている。
「ミーチャ⁉︎ どうやって、ここに……」
「……って、訊くまでもないか。正門の僧兵どもは皆殺しだろう?」
セバルさんは当然のことみたいに断言して笑う。まあ、その通りだ。
「目につく限りは、ですけどね。あいつら、南の正門以外にもいます?」
「ああ。北西門と北東門も封鎖された。無理に脱出しようとした商人が何人か見せしめに殺されたらしい」
南門近くには冒険者ギルドがあり、北西門近くには商業ギルド、北東門近くには職人ギルドがあると聞いている。僧兵もいまのところ威嚇の範疇で、大量殺戮までは行ってはいないようだ。
「ダエルさん、僧兵から交渉や要求は?」
「いや。ただ町の外に出ることは許さないというだけだな」
「本国からの兵力を待っているのでしょう。ただ封鎖を続けても教会にメリットはありません」
兵力っつったってな。本国は千キロ近くもある北の彼方だ。
「ティカ隊長、もしかしてサーエルバンに、まだ転送魔法陣が残っているのか?」
「教会は閉鎖して引き払ったと聞いたが……」
「教会の建物からはな」
ティカ隊長の言葉に、ダエルさんが答える。彼が指差す方向、町の中央広場近くに教会の尖塔が見えた。
大剣持ちのマッチョな護衛氏は、そこから西側に指を振る。
「僧兵どもの本隊が商業ギルド会館を占拠してる。門にいる方が数の上では多いが、会館には助祭が混じってる。もし転送魔法陣を置いてるとした、そこだ」
三、四百メートル先にあるのは、サーエルバンでも有数の大きさを持つ石造りの建物。地上五階くらいあるビルディング的なそれが、商業ギルド会館なのだろう。
「ティカ隊長」
「ああ、わかっている」
町の外壁を背にした、大きな石造りの建物。なかには敵しかいないし、背後にいるのも敵だけだ。
とたんにウキウキした顔になって、ドワーフ娘はランドローバーに歩き出す。
いつも冷静そうに見えて、鬱憤が溜まっていたようだ。あるいは、いままで触れてなかっただけで撃ちたがり病の気があったか。
ティカ隊長は後部銃座に飛び乗って、輝く笑みを浮かべた。
「ようやく現れたわけだな。“えむつー”を撃っても問題のない的が♪」




