表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
縛られた者たち

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

13/339

信じられるもの

 俺は目の前に現れた光るボードに金貨銀貨を革袋ごと突っ込む。カウントが始まって、待つ間にいっぺん表示を消した。

 あちこち割れた窓の隙間から、身を隠してそーっと外を見る。

 通りに転がっていた死体が消えていた。五、六人分かそれ以上のバラバラ死体がブチ撒けられていたはずなのに、いまはその残りカスと肉片がわずかに転がっているだけだ。

 オウルベアが、みんな喰ったのか?


 当の本体といえば、上空で旋回しているんだろう。窓からは見えない。路上にサッと影が差して、一瞬で飛び去るだけだ。目算でしかないけど、速度はたぶん時速百キロくらいは出る。あんなもん、拳銃弾で落とせるわけがない。


「ミーチャ、オウルベアを倒せるのニャ?」


「どうかな。いま、どうするか考えてるところだ」


 俺に話しかけるエルミだけれども、彼女も後ろにいる彼女のお仲間たちも、俺を見てはいない。耳や感覚器を研ぎ澄ませて気配や音を拾っている感じ。それで、なんとなく理解した。

 俺には、わからないけど。町中に入り込んだ魔物たちが住人たちを蹂躙し始めているのだ。ハイテンションなガキみたいな喚き声が響いている。豊富なエサを手に入れたゴブリンが宴会でもしているのか。


 そら路上の死体もすぐに消えるわけだ。


「もしかして、町が陥落する(おちる)のは明日の昼どころじゃないか」


 エルミは俺に向き直って、笑う。達観したのか諦めたのか、その顔に怯えた様子はない。


「がんばって日暮れまでニャ。暗くなったら魔物狩りは終わりニャ」


 続きは明日、なんて話じゃないことは、俺にも理解できた。


「そこからは、こちらが狩られる側になるニャ」


 そうだろうな。よりにもよって、目下最大の敵はクマ顔のフクロウだしな。わたしは夜行性ですって、全身で表現してる。

 日が落ちる前にどこまで敵を削れるかで生存確率が変わる。エルミのお仲間の亜人たちも立ち上がって、それぞれに武器を持つ。

 多くがフラフラしてるのは怪我というより、魔力か睡眠時間か血か、その全部が足りないせいだ。


「エルミ、オウルベアの他にデカい脅威は」


「オークが三体と、フォレストウルフの群れがひとつ。みんな町の反対側にいるニャ」


 テーブルに積もった埃の上に、エルミは指で簡単な略図を描いてくれた。

 町は、おおまかに言えば円形で、いまいる場所は北東(やま)側の入り口近く。反対側というのは南西(ふもと)側、王都とやらに向かう道が通じている、いわば町の“(ひら)けた方”だ。


「大盛況だな。群れの数はわかるか?」


群れ長の雄(アルファ)順列二位の雌(ベータ)の他に十体」


 攫われていて群れを見ていないエルミの代わりに、ドワーフらしい女の子が答えてくれた。

 フォレストウルフというのは、百五十センチくらい(エルミ)が四つん這いになったくらいの狼で、それを率いる二体は体格がひとまわり大きい。ドワーフ娘によれば、アルファで百七十五センチ(俺くらい)だそうな。


 オークは身長三メートル級で筋肉の塊だっていうし……要するに、剣や槍じゃどうにもならんわけだ。

 ドワーフ娘も犬獣人の男も、それがわかっているのだろう。乾いた笑いを漏らす。


「しばらくは、こちらには来ない。けど来たときは、お終いだな」


「町の反対側には何がある?」


「教会と商店街と、人間の住む豊かな区画ニャ」


 それはそれは。要するに、魔物の餌場になってる訳だ。そこで食い尽くしたら、残った俺たち(デザート)の時間だ。


「エルミが信用できる相手は、ここにいる連中だけか?」


「……生きてるのは、そうニャ」


 困った顔で笑うネコ耳娘の肩を、俺は励ますように叩く。


「じゃあ、頼みがある。ここで彼らを、守ってくれないか」


「む……無理ニャ! ウチに戦う力はないニャ、ゴブリンを倒すのが、精いっぱいで……」


 エルミの手に、ステンガンを渡す。弾倉は抜いてあるが、それも一緒に渡す。弾薬の入った肩掛けのポーチもだ。


「ニャ⁉︎」


「これを頼む。殺す相手以外には、絶対に向けるな」


 使用方法をちゃんと教えたいんだけど、たぶん時間がない。最低限の射撃方法、威力と装弾数、弾倉の交換と、弾薬の再装填方法だけを教える。

 エルミは頷いて聞いてはくれたが、しきりに俺を止めようとしているのがわかった。


「……ミーチャ」


「俺には、お前以外に信用できる奴がいない。お仲間と、ちゃんと知り合う時間があれば良かったんだけどな」


「ミーチャ‼︎」


 ステンをテーブルに置いて、エルミは両手で俺の胸ぐらを掴む。

 瞳孔が縦にすぼまり、毛が逆立っている。いつもはどこか弱気な笑みを浮かべているだけだった彼女が、ここまで怒りを表わすのは初めて見た。


「なに、するつもりニャ。戻ってこれないような、危ないことするなら……」


「するわけないだろ。こんな町の奴らに、何の義理がある。腰抜けのバカどものために、命懸けで奉仕するなんてアホらしい」


「ニャ?」


「おいヘイゼル、まだか」


 エルミのぷにぷにした手を押さえて落ち着かせ、近くの椅子に座らせる。

 俺の声から少し遅れて、光るプレートが再表示された。


【作者からのお願い】

「面白かった」「続きが読みたい」と思われた方は

下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 襲ってくる人間をちゃんと殺せるのは良いことだと思います。 [気になる点] オウルベアと戦ってる間に隠れてるマーバル辺りがエルミからステンを奪って、ミーチャが撃たれそう。 勿論、自爆してく…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ