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剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
教会の犬

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狂犬たちの宴

「カインツ子爵閣下、“異物”どもが戻りました!」

「あ⁉︎」


 即席の野営地に張った指揮官用大天幕のなか。

 町の監視に当たっていた兵士からの報告を受け、ゲミュートリッヒ討伐部隊の指揮官カインツは込み上げてくる殺意を抑えた。


「なんぼなんでも、早過ぎんだろ。馬で三日の距離を半日で戻るとか、ありえねえぞ」

「馬なしで動く箱車が一輌、出発したときの物と形は違いますが、以前エーデルバーデンで目撃された土色のものです」

「サーエルバンで張ってた部隊はどうした」

「わかりません。伝令は戻らず、魔導通信にも応答ありません。おそらく、全滅かと」


 カインツは罵り声を上げて、近くの水樽を蹴り壊す。


「ッざけやがって……!」


 当初カインツが受けていた命令は、エーデルバーデン領主の叛乱鎮圧だった。だが到着してみると首謀者の多くは既に殺されており、町は魔物の流入で壊滅状態になっていた。手を下さず任務を終わらせたとほくそ笑んだのも束の間、その任は早々に“ゲミュートリッヒ討伐”へと変更される。

 名前を聞いたことはあるという程度でしかない、東方アイルヘルンの西端の寒村である。


 板張りの粗末な塀で囲われているだけと聞いていたゲミュートリッヒだが、いざ訪れてみれば外周は要塞と化していた。王国が無関心でいた期間が長過ぎたのか、或いは流れ込んだ“異物”によるものか。


「聖教会の馬鹿どもが、余計なことをしやがって……!」


 そして、ゲミュートリッヒの半獣討伐は王宮と教会の命令なのだ。エーデルバーデンを――結果として――陥落(おと)してから、まだひと月も経っていない。

 今度のアイルヘルン遠征は“王国の威信を賭けた征伐”だというが、傭兵気質の抜けないカインツにとって王国の都合など知ったことではない。

 その上、編成された戦力は捨て駒としか思えない規模と練度のゴミばかりだった。


「初戦の被害は」

「戦死四十二、負傷十八。うち七名は治癒魔導師の力では戦線復帰できないと」

「……クソが」


 戦力の逐次投入が愚策なのは常識だが、複数の領地軍から抽出された兵たちはのらりくらりと協働を拒絶してきた。攻撃第一陣はエーデルバーデンから引き摺ってきた“叛乱分子”の衛兵と、同じく叛乱の兆候が見られたとのことでカインツの討伐に遭った北西部アーエルの領地軍兵士、そして聖教会からの援軍、総勢七十二。

 二方向から奇襲を掛けさせたというのに、呆気なく撃退された。生還したのは三分の一。無事なのは後方に布陣した魔導師と指揮官の十名だけだ。


「どうせ王家に歯向かって処刑が決まってた奴らだ。死のうがどうしようが関係ねえけどよ」


 次に出ることになるのは、長年掛けて育てた手駒たち。いまやカインツの出世に便乗して“子爵領軍”の正規兵となった元傭兵団の連中だ。

 軽騎兵四十に軽装歩兵が六十、魔導師十二。移動用の装甲馬車には、武器糧秣の他に攻城兵器も積まれている。投石砲が三門と魔導爆裂球が二十五発。城門突破用の魔導破城槌が二本。大型の機械弓が四張り。

 王都からの補給の潤沢さはカインツへの期待というよりも、失敗を許さないという威圧が感じられた。


「どうされるのですか」


 エーデルバーデンでヘタ打って降格させられたハイネル()()()の兵はカインツの部隊に指揮権が移った。その騎兵と弓兵は初戦の惨敗を目の当たりにして、カインツともども様子見を決め込んでいる。


「エルフの弓が難物ですな。こちらの盾を貫きますから。あのおかしな壁もです。攻撃魔法でも崩せません。挙げ句に溜池と水堀で騎兵も満足に動けず……」

「黙れ」


 カインツはハイネルを睨めつけると、くだらん能書きを一蹴する。


「他人事みてえに言ってんじゃねえぞ、能無しの芋が。平民堕ち寸前の騎士爵の分際で、舐めた口利いてやがると、殺すぞ」

「……なッ!」

「次は、お前らも出るんだよ。溜池だろうと水堀だろうと関係ねえ。死ぬ気で突破して半獣を殺せ。命を惜しんでる暇なんてねえぞ。ゲミュートリッヒの半獣どもを始末できなきゃ、生きて王国には戻れねえんだからな」

「カインツ殿! 我らは栄えあるハイネル家の兵! まだ貴殿の指揮権を認め……るぶッ」


 偉そうな顔で喰って掛かってきた騎士の頭を、カインツは指揮剣で薙ぎ払う。

 指揮剣とは名ばかりの分厚く重い鈍刀を振り抜くと、ひしゃげた頭は胴体から千切れて天幕の隅まで転がった。


「だーれが、発言を許したんだァ? オイ、そこの芋。この部隊の指揮官は、誰だ。言ってみろ、なァ⁉︎」


 カインツは血の着いた指揮剣を、ハイネルの鼻先に突き付ける。殺気を放つと背筋を痙攣させ、目を逸らしたまま震え始めた。


「……カインツ、……子爵、様です」

「わかったら、そこのゴミを持って消えろ」

「は、はいッ!」

「んで、兵たちに伝えておけ。命令違反した者は殺す。敵前逃亡も。命令違反も。突撃命令に従わなかった者もみんな、殺す」

「はッ! 必ずッ!」


 天幕から逃れかけたハイネル騎士爵は、まだ血が溢れ出している部下の胴体を運びかけて諦めたようだ。

 歪な頭だけを拾って飛び出そうとしたが、殺気に反応して振り返る。


「楽しみにしてるぞ。血の気の多い俺の兵たちが、部隊の最後尾で……ずっと見張ってるからな」

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― 新着の感想 ―
[一言] 戦力の逐次投入は愚策と知りながら自分の兵は温存するカインツくん、凄く人間らしいね!
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