ショウ・ザ・フラグメンツ
「どうだった?」
教会から宿に戻ってきたヘイゼルは、俺の質問を聞いてグンニャリと椅子にもたれ掛かった。
「……エラいことになってました」
「もしかして、ミーチャ狙われてるニャ?」
「いえ。いちばん狙われてるのはエルミちゃんです」
「ニャ⁉︎」
身に覚えがないのか、ネコ耳娘はシッポと耳をピンと立てて俺とヘイゼルを見る。
「“剣王殺しの魔道具使い”“小さな猛虎”だとか」
「もうこ?」
「……“もーこ”って、なんニャ?」
俺はエルミを見る。エルミも、こちらを見て首を傾げる。
なんぼなんでも盛り過ぎだろうよ。どこをどう取り繕っても猫、それも仔猫だ。性格にも外見にもトラ要素はない。
「トラ、って……あのトラなのニャ? にゃにゃニャ〜照れちゃうニャ〜♪」
自分が恐ろしいトラに例えられていると聞いて、本人は照れまくっている。それが引き起こす事態はいまひとつ理解していないようだ。
エルミが射殺したのは“剣王メフェル”とかいう御大層な二つ名を持った剣士だ。蜂の巣になった死体を確認した聖教会は、俺たちに対する警戒と監視を始めているそうな。
「剣王メフェルって、名前は聞いたことあるけど、カオは知らなかったのニャ。でも勝ったのは、“すてん”のお陰だからウチあんまり関係ないのニャ」
「それは、わかってる。けど、わかってるのは俺とヘイゼル、せいぜいゲミュートリッヒの住民だけだ」
「始末した連中から得た情報を総合すると、教会強硬派にはミーチャさんが召喚者だと知られてますね。連れているのも付き合いがあるのも、ほとんどが亜人ばかりだということもです。王国軍の殲滅も伝わっていますから、亜人排斥の障害として強硬派からは憎しみを買っています」
そりゃ召喚を行ったのが強硬派だから、知られてはいるだろうけどさ。他人を勝手に呼んどいて、思い通りにならないからディスるって、何様だよ。
「なんだかいう司教は、教会にいた?」
「ロワンですね。いましたが、残念ながら山盛りの聖具と護衛に守られて一・五メートル以内には近付けませんでした」
「銃は無理か」
「どうでしょうね。緊急避難用の転移魔法陣がありました。それに、あまり接近すると、わたしの魔法的変装がバレます」
司教ロワン。聖教会のナンバー2で、強硬派のトップだ。教皇が高齢なので、ロワンが教会のナンバー1になる日も近い。
「それと、強硬派も一枚岩ではありませんね。召喚を実行したのはアイルヘルンの高位魔導師集団ですが、ロワンの関与は二割以下です」
俺たちが聞いた召喚は、過去に最低でも五回。そのうち最低三回は魔導師の独断による暴走だったようで、関与した魔導師たちはロワンから処罰を受けているのだとか。
「向こうの事情は、この際どうでもいいや。こっちに危害を加える可能性は?」
「サーエルバン、というかサーベイさんに対する危険性は、現状ほぼありません。ただしゲミュートリッヒに対しては、ほぼ百パーセント」
だよね。なんとなく、わかってた。ティカ隊長からも、前に聞いた。相手は損得感情で動いてないから、たぶん損害が嵩んでも退かない。
最後の一兵まで戦うかどうかはわからんけど……妥協や和解の道は、たぶんない。
“彼らは、できるものなら亜人を絶滅させたいんでしょう。それを邪魔する者や協力する者も含めて”
エルミとマチルダに気を遣ったのか、ヘイゼルはそこだけ念話に切り替えてきた。
“それは聖教会そのものの意思というよりも、教会が人種隔離主義者のわかりやすい旗印になっただけです”
いや、隔離って言うけどさ。聞いた話じゃアイルヘルンって、まさにその多種族・多民族の受け皿なわけだろ? 理想を謳った国に来ておいて、文句を言うのは筋違いじゃないかね。
俺が言うと、ヘイゼルからはその通りですとの返答はあった。まったくもって微塵もその通りとは思ってない声で。
“理想と現実は違うんでしょう。理想に賛同はするけれども、どこか遠くでやれという層も多いです。アイルヘルンでも王国でも英国でも、どこでも”
世知辛い話になったところで、どうにもならんことを嘆くのは止めた。
「さて、具体的な話をすると、どうせ来るなら万全の体制を作ってゲミュートリッヒで迎え撃つか、ラフにでもここで少しくらい削っておくかだ」
「せっかくですから、目立つ旗を立てて誘うのはどうでしょう?」
「それもありか……装輪装甲車があれば危険は最小限に抑えられるしな」
「目立つハタって、どんなのニャ?」
俺はヘイゼルを見て、ヘイゼルはエルミを見る。
エルミは流れでマチルダを見て、“あれ、なんか違う?”って顔で、またこちらを見た。
「……もしかして、ウチのことニャ?」
目を丸くして自分を指すエルミに、ヘイゼルは慈愛に満ちた――ようにしか見えないけど絶対に違う――微笑みを浮かべる。
「英国万歳♪」
【作者からのお願い】
次回は戦闘回にできるかな……
「面白かった」「続きが読みたい」「スローライフどこ行った」と思われた方は
下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。
お手数ですが、よろしくお願いします。




