表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
剣と魔法とステンガン ――ゴスロリなショップ機能(英国面強め)で目指せ優雅なスローライフ!――  作者: 石和¥
スピリット・アウェイ

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

100/339

異界からの遭難者

「ミーチャ、ありがとな」

「こちらこそ、跳躍鰱(トビタナゴ)上手く料理できたら店で出すよ」


 楽しみにしてると言って、外構工事組は解散して行った。

 ティカ隊長はいくぶん考えるような顔だったが、それは俺の発言によるものだろう。


「動くときは事前に伝える。教会と揉めることになっても最後まで責任は取るよ」


「心配してるのはそっちじゃない。ゲミュートリッヒの多数層が亜人である以上、教会強硬派とは敵対せずにはいられんしな」


「それじゃあ……」


「召喚者がいた可能性を考えていた。今回もそうだが、前回もな。ダンジョンを調べに行ったとき、崖際に白骨が転がってたのを見ただろう?」


 俺は頷く。崖っぷちでモーリスをターンしようとした窪み。そこで小山になってた骨の一部は、人間のもののように見えた。


「召喚されたまま魔物に喰われた?」


「ああ。山を延々と登った先の、崖の際だぞ。おまけに、その先は行き止まりだ。ゲミュートリッヒでも、あんな場所に入り込むのは生肉鮮魚店(マッサエーナ)の父子くらいだ。他の町の者は、まず近付かん」


「今回も、遭難者がいるかもしれんてことか」


 いったん店に戻ろうと、俺は車に戻った。閉めようとしたドアをティカ隊長が押さえる。


「待てミーチャ、あたしも行く! というよりも、本来あたしが行くべきなんだ」


「この際、責任問題はどうでもいい。ヘイゼルの助けがいる。怪我していた場合を考えれば、エルミの力も借りたい」


 ひと気のない大通りを走り抜けて、酒場の前で車を止める。

 窓から空を眺めていたヘイゼルとエルミが、俺の顔を見て即座にエプロンを外した。


「問題ですか」


「わからんが、その可能性が高い。ふたりとも、手を貸してくれ」


「はい」

「わかったニャ!」


 手早く店を閉めて、ふたりは車に乗り込む。

 後部の荷室に転がってた魚は邪魔っけなのでヘイゼルに一時保管区画(ストレージ)で預かってもらった。


「銃器の用意は要りますか?」


「いや、最優先は人命救助だ。回収できたらすぐ戻る」


「山に魔力雲が掛かっていましたね。召喚者がいるかもしれないという想定ですか?」


 ヘイゼルは察してくれていた。エルミも自分のサブマシンガン(ステン)を背負って、弾倉と弾薬の入った携行袋を持つ。ワイバーンでも出てこない限り、彼女の火力支援はかなり期待できた。


「ミーチャ、正門に戻ってくれ。町の東側から回る」


「ああ、わかってる」


 全員の乗車を確認すると、モーリスをUターンさせて南側の門まで戻る。何事かと出てきた部下の衛兵たちに、ティカ隊長は窓を開けて短く指示を残した。


「魔力雲は召喚を行った可能性がある。調べに行くから、しばらく町を頼む」


「了解っす!」


 クマ獣人の衛兵に見送られて、俺たちは門を出た。道路は水溜りができていて、雑にアクセルを踏み込むとトラックの車輪が泥を跳ね上げながらズルリと空転する。


「落ち着け、ミーチャ。雲が掛かってから、まだ間もない。雨が強いと魔物も出歩かんしな。誰かが召喚されていたとしても、すぐに死にはしない」


「わかった」


 ワイパーが作る視界を覗き込みながら、モーリスを操作して山道を登る。いったんは弱まってきた雨脚がまた強くなってきていた。雨水で重くなった枝葉が道までしな垂れ掛かって視界を塞ぐ。


「ハンマービークを仕留めたのが、この辺りだな」


 土砂降りのなかでは、動き回る生き物はいない。


「ダンジョンのある辺りは山肌が脆そうだな。土砂崩れでも起きなきゃいいけど」


 言ってるそばから、地響きのような音が聞こえてきた。女性陣には、こちらに向かってくる岩や土砂がないか窓から確認してもらう。


「ミーチャ、あれニャ」


 森が切れて視界が開けたところで、エルミが上の方を指した。

 目的地の崖と谷間を挟んで反対側にある場所。レイジヴァルチャが営巣地にしていたところが、ゴッソリと崩落していた。


「あんなところが崩れるのか。それなりにしっかりしてるように見えたのにな」


「巣材が水を含んで重くなったか、岩伝いに水が流れ込んだかだな。崖際では、"もーりす”は降りた方がいいかも知れん」


 アドバイスに従って、俺とティカ隊長は雨のなかに出る。エルミとヘイゼルには、非常事態に備えて車に留まってもらった。

 武器は隊長の戦鎚と俺のブローニングHP自動拳銃。視界も足元も悪いなかで危ないのは魔物よりも滑落だ。重たい銃を持ち歩きたくない。


「ミーチャ、なんか聞こえないか」


 そう尋ねられたものの、雨垂れの音で聞き分けられない。崖際の道を進むと、俺の耳にも妙な音が聞こえるようになってきた。獣の唸り声のような、泣き喚く悲鳴のような。


「あれは、猫……いや、女か?」


「静かに。正体がわかるまでは、慎重にな。先頭は、あたしが行く」


 垂直の壁を垂れ落ちた水が、道を横切って崖下へと落ちてゆく。足を滑らしたら自分も谷底に真っ逆さまだ。

 しばらく進んだところで、前に白骨が転がっていた岩の窪みが見えてきた。


「……おい、冗談だろ」


 ティカ隊長が呆れ顔で呟く。体育座りみたいな格好でジタバタしながら泣いている女の子がいた。体格はエルミやヘイゼルと大差ないくらいだが、年齢はわからない。人種も種族も不明。俺には何者なのかも判断できない。

 ずぶ濡れでペッチョリと貼り付いた黒髪に、細くて薄っぺらい印象の体型。服は黒っぽい半袖半ズボンというか、袖と裾を切ったボンテージファッションというか……


「なあティカ隊長、あれ何者?」


「あたしも伝聞だけで、実物を目にするのは初めてだ。なので断言はできんが……」


 俺たちの気配に気付いて、女の子はこちらを睨み付ける。

 真っ赤な瞳が怒りと憎しみに輝き、その頭部に突き出した羊のような双角が目に入った。


「……どう見ても、魔族のようだな」

【作者からのお願い】

おかげさまで百話まできました。

多くの反応や感想をいただき、ありがとうございます。

しばらく「マグナム・ブラッドバス」書いてましたが、またこっちも進めます。


「面白かった」「続きが読みたい」と思われた方は

下記にある広告下の【☆☆☆☆☆】で評価していただけますと、執筆の励みになります。


お手数ですが、よろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] まさに英国万歳(グッドブリテン)! [一言] はじめて知りましたが、良い点にはひらがなの入力が必要です。バッドブリテン。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ