風の向こう側
間引くために狩ってきたフォレストウルフは血抜きをして、「インベントリ」に収納してある。「インベントリ」内は時間経過がないので冷蔵庫いらずでとても便利である。フォレストウルフは食べる部分がほとんどないから捨てようかと思ったけれど、コンが内臓を食べたがった。
コンは見た目はそれほど変わってないけれど、歯がかなり生えそろい、今では自分で食べ物を咀嚼できるようになっている。やはり野生の魔物と同じように、新鮮な内臓が大好きなようで、フォレストウルフの内臓も自分で取り出しておいしそうに食べている。たべないの?って俺にも聞いてくるけど、さすがに生の内臓は食べられない。
そして翌日はものづくりの日にした。マリアには日用品とか弓を作ってあげたけれど、弓は全然使われていない。弓がまったく使えないかといえばそういう訳ではないらしい。試しに的を作って撃ってもらったけど、さすがエルフ、みごとに百発百中だった。
食いしん坊なら自分の食糧ぐらい捕ってきてほしいものだけれど、マリアが食べたいのは俺が作ったお菓子らしいので、なかなか動いてはくれない。
俺達と狩りにいくとしても、移動スピードが合わないから、なにか移動手段を作らないとね。森の中も走れる移動手段ってなんだろう。オフロード車なんてさすがに作れないし、オフロードバイクも当然作れない。内燃機関なんて構造はしってるけど、魔法で作ろうとおもったら複雑すぎて、どんだけ魔法を消費するか分からない。そもそも石油も必要になるからなあ。
じゃあ、マウンテンバイクでいいかな。二輪だから狭い木の間も走れるし、頑丈だからでこぼこな道も問題ないはず。最悪、ロープで俺が引っ張ればいいしなあ。
かといって、マウンテンバイクにそこまで詳しくはないので、イメージには時間がかかった。フレームは太く丈夫に。タイヤは太く、そして大きいほうが段差にも強いってきいたことがあるので、29インチぐらいの大きさにした。油圧式のサスペンションを前と後ろに付ける。硬さはどれぐらいがいいのか分からないので、あとでマリアに乗ってもらって調節しよう。ブレーキはワイヤー式にする。油圧式のほうがいいらしいけど、さすがによく分からない。そしてブレーキはディスクブレーキにした。こちらも少ない力で制動力が得られるという話を聞いたことがあるからである。
2時間ほどでどうにか形になった。魔力も現在の半分は消費した気がする。
出来上がったところでマリアを呼ぶ。相変わらず、川をぼーっと眺めていた。エルフって森のイメージなんだけど、なんでずっと川をみてるんだろうか。
「・・・おお、・・・かっこいい」
『これは森や山も楽に走れるようにつくった乗り物だから、試しに運転してみて。ここがハンドルね、これで走る方向を決める。ハンドルについてるのがブレーキ、スピードを緩めたり、止まりたいときはこれを握ってね。そしてペダルを回すと前に進むから。タイヤが2つしかないけれど、前に進んだら安定するからね』
「・・・わかった」
マリアはさっそくサドルにまたがり、ペダルをこぎ始めた。最初はふらふらしていたけれど、魔法も使っているのかな?追い風を自分で作り出し、すごいスピードで走り出した。
「・・・たのしい」
うん、ぜんぜん楽しそうに見えないけれど、気に入ってくれてなによりだ。
あとはサバイバル用の装備も作ってみた。迷彩服にサバイバルナイフ、あとはいろんな装備が入れられるベスト、ブーツなどなど。ずっとワンピース姿だったマリアが一気に陸上自衛隊みたいな姿になってしまった。
「・・・この服、・・・とてもいい」
『・・・気に入ったのならよかったよ』
エルフなのにすっかりファンタジーっぽくなくなってしまった。今までのことがなんだったのだろう、って思うぐらい、マリアは一日中森の中を走り回っていた。
あとはコボルト用に武器を考えてみた。弓もいいけど、矢は消耗品で作るのもめんどくさいので、その辺の石を武器にできるスタッフスリングを作ってみた。1mぐらいの棒の先に紐をつけて輪っかにする。その輪っかに石をひっかけて遠くに飛ばす道具である。
『ちょっとこれ試してみて』
「これは初めて見るでござるな。この布のところに石をセットして、棒の端を持ってなげるのでござるな」
コボルトは両手でスタッフスリングを持ち、石を投げてみた。石は200m以上飛んで行ったようにみえる。
「おお、これはすごいでござるな。我々でも簡単に使えそうでござる」
当然だけれど、コボルトには武器を作るような技術はない。できたとしてもせいぜい棍棒とか、石器ぐらいだろう。飛び道具が用意できれば、フォレストウルフの群れにも以前よりは対抗できるんじゃないだろうか。
その後、コボルトは狙った場所に石を投げる練習を繰り返していた。100m先の的なら百発百中になるのにそう時間はかからなかった。なんだかんだでみんな器用だな。
マリアにスピード狂属性追加です。
お読みいただいてありがとうございます。




