エルフの事情
無事、ゴブリンの集落を壊滅させた俺は、ゴブリンに拉致されてきた女の子を助けた。・・・が、この姿を見て再び気絶してしまい、途方に暮れていた。とりあえず、このままにはしておけないから、アースドラゴンさんのところまで連れていくか。
俺は魔法で木製のリアカーと布団を作った。そして荷台に布団をしいて、女の子を寝かせる。移動中にまた目が覚めたらやっかいなことになるなあ。どうかあっちに行くまで目覚めませんように。
『おかえりー』
「ぴー♪」
『ただいまー』
「うむ、無事に戻ったようじゃな。かなり派手にやったな。ふぉっふぉっふぉ」
アースドラゴンさんはまた老人の姿になっていた。女の子を連れているのでちょうどいいな。俺はアースドラゴンさんに事情を伝える。
「そうか。みたところエルフのようじゃの。はて、この辺りにはエルフの森はなかった気がするのじゃが、いったいどうしたのじゃろう」
『一度、目を覚ましたんですが、私のことをみて気を失ってしまいました。アースドラゴンさんから事情を聞いてもらえないでしょうか』
「うむ、任せるがよい」
相変わらず、アースドラゴンさんに対して俺は敬語である。別に普通の口調でいいような気もするけれど、やっぱりかなり年上っぽいし、ついつい下手にでちゃうなあ。
女の子に関してはアースドラゴンさんに任せて、俺はご飯の準備をした。狩りにいくのも面倒なので、魔法でサンドイッチを作ってみる。
アースドラゴンさんによると、イメージでなんでも作り出せるとのことなので、食べ物でも大丈夫なはずである。前世ではコンビニでよくハムチーズエッグサンドを買って食べていた記憶があるし、イメージなら十分にできる。自分の名前を覚えていないくせに、こういうことは覚えてるって変な話だけれど、こういったイメージができるのは非常に助かる。ついでに飲み物はカフェオレにした。同じようにコンにも食べさせてやる。さすがにカフェオレはまずいかなと思って、ミルクにした。
『これ、はじめて、おいしーー』
『サンドイッチっていうんだよ。また作ってあげるからね』
こうやってみると、今までわざわざ狩りしてたのが馬鹿みたいである。果物も食べたことあるものなら作れそうだし、なんて便利なんだろう、俺の魔法。
そうこうしてる間に、女の子が目を覚ましたようである。アースドラゴンさんから今の状況を説明してもらい、どうにか落ち着いた。でもやっぱり俺を見た時に、「ひっ」って悲鳴をあげそうになっていた。せっかく助けたのに寂しい。
『お腹すいてる?これよかったら食べない?』
「・・・誰??・・・もしかして、あなた?」
『そうだよ。さっきは驚かせてごめんね』
「・・・いえ、・・・ゴブリンから助けてくれてありがとう」
女の子はサンドイッチとミルクを受け取り、急いで食べ始めた。やっぱりかなりお腹が減っていたらしい。急いで食べ過ぎて、喉を詰まらせ、ミルクで流し込んでいた。
「・・・おいしい。・・・こんな白いパン、初めて」
『俺が作ったんだよ。気に入ってくれてよかった。もっと食べる?』
「・・・いただくわ」
見た目によらず大食いのようだ。そういえばエルフって菜食じゃなかったっけ。卵とハム食べさせて良かったのかな??この世界のエルフは雑食なんだろうか。
一息ついた後、事情を聞いた。名前はマリアというらしい。退屈だったので、エルフの森の近くの森を散歩していたら、人間達に捕まったらしい。もちろん、国としてはエルフを捕まえることは禁止しているそうなのだが、闇奴隷で高値で取引されているらしい。魔法は使えるが、首に付けられた隷属の首輪で歯向かうことを禁止され、逃げ出すこともできなかったらしい。主が決まり、主が住む城へ運ばれる途中、ゴブリンの群れに襲われ、商人と護衛は皆殺し、女であった自分だけがが助かったということであった。おそらくゴブリンキングへの貢物だったのだろう。
『これからどうする?』
「・・・エルフの森に戻りたい。・・・でもこの首輪があると無理。・・・人間に捕まってしまう」
『それ、外せないか試してみるね』
「・・・隷属の首輪はつけた本人にしか外せない」
マリアの言葉を無視して、俺はその首輪をよく見た。よく分からないけれど、人を縛り付けるようなイメージが伝わってきた。それを俺の魔力を流して、打ち消していく。首輪は粉々になってしまった。
『外れたけれど、体に異常はないかな?』
「・・・え、・・・どうやって。・・・あなた、なにもの?」
『無事ならよかった』
「問題は解決したようじゃな。しかしエルフの森はここからは遠いぞ。お主一人では到底たどりつけまい。しばらくはそやつと森で暮らしたらどうじゃ」
「・・・少し考えさせて」
うん、マリアがどんな答えを出すにせよ、どうにか力になってあげたいと俺は思った。布団の上に体育座りしてずっと考えている彼女を見守る。そうだ、考え事をしてたらきっとお腹が空くに違いない。おやつでも作ってあげよう。
異世界転移で定番のおやつといえばプリンだよね。養鶏場がない異世界では、卵はとても高価なもののはずである。もしかしたらあるかもしれないけれど、砂糖も高いことが多いし、女の子は甘いものを作れば喜ぶはず。甘いものは別腹とも言うしね。
普通の異世界ものなら、材料を用意して調理しないといけないけれど、俺の場合はイメージして直接作り出すことができる。複雑なものは魔力が足りないけれど、プリンぐらいなら楽勝。
『考え事してたらおなかすくでしょ?これでも食べて。おいしいよ」
「・・・ありがと」
『アースドラゴンさんもどうぞ』
「ほう、これは初めて見るな。なんという食べ物じゃ?」
『プリンといいます』
「お主、記憶を引きついでないはずじゃったよな?さっきの食べ物もそうだったが、いったい何者じゃ?」
しまった。その辺のことをどうやってごまかすか全然考えてなかった。まあ人間だったら悪用されるかもだけど、アースドラゴンさんならいいか。
『話せば長くなるので、また後日でよろしいですか?』
「うむ、わかった。ちゃんと話すのじゃぞ」
マリアはプリンを一口食べた。一瞬固まり、次に驚いたような顔をする。そして再びすごい勢いで食べはじめる。
「・・・もっと食べたい」
『うーん、甘いものは食べ過ぎると体に毒だから、また明日じゃだめ?』
「・・・わかった。・・・がまんする」
俺もコン達といっしょにプリンを食べた。コンもピーちゃんもおいしそうに食べている。それにしても狐とか鳥にプリン食べさせて良かったのかな?なんでも食べるいい子達だから大丈夫だと信じよう。
「・・・わたし、・・・きめた。・・・あなたといっしょに暮らす」
『え・・・、エルフの森はいいの?』
「・・・サンドイッチ、プリン・・・おいしかった。・・・あなたと暮らすときっと退屈しない」
『そ、そんな理由でいいの?』
「・・・問題ない」
「そういうことなら、面倒を見てやってくれ。それにお前が大きくなれば、マリアを乗せて空を飛ぶことも可能じゃろう。そうすればエルフの森など簡単に帰ることができるはずじゃ」
「・・・帰らない」
どうやら俺はマリアの胃袋をがっちり掴んでしまったようである。
こうして、俺の仲間はまた一人増えてしまった。
無口系食いしん坊エルフです。
キャラ付けするのって少し苦手です。




