第16話 女の子はわからない
俺は今また新たな誤解生じる瞬間にいる。
黒薙楓との疑似デートを梓ちゃんの双子の妹である環ちゃんとその兄の修さんに見られてしまった。
環ちゃんと修さんは俺が梓ちゃんに告白したことを知っているし何よりそれを応援してるまで言われた。
だが、今日一緒にいるのは痛い格好で眼帯まで合わせてきている黒薙楓だ。
誤解が生じるにはうってつけの条件だ。
「神さんはこんなところで女の子と一体なにしてるんですかぁ?」
その言い方だと、お前お姉ちゃんのこと好きとか言っといて別の女と何イチャついてんだと言ってるように聞こえるんですけど違いますか?違うか。
そう言いながら俺の左側に座り環ちゃんは不敵に笑っている。
修さんは気まずそうな顔で俺の向かい側に座った。
黒薙楓には一瞬で誰なのかと説明をつけた。
大丈夫だ!ちゃんと話せばこの状況は打破できる。
「いやぁ環ちゃんこれはね。」
状況を説明しようと俺が口を開いたがやつは黙っていなかった。
「私たちはデートの真っ最中なのだ。
つまり私たちはカップルというわけだな。
昔から私はコイツのことが好きだからな。」
得意気に話す黒薙楓だったがこのテーブルは静まった。
お前がややこしい原因なのにさらにややこしくしてどうすんだよ。
てか昔からって一体どういうことなのかはわからないが俺は今背中から汗が止まらない。
そんな俺に対して環ちゃんは怒りの表情を向けている。
さっさとこの誤解を解きたいが黒薙楓は暴走していく。
「しかも既にキスまでも済ませている。」
おいい顔を赤らめながら何とんでもない嘘をついてんだ。
左側の環ちゃんはもう何かの化け物にメタモルフォーゼしそうな勢いで俺を見ているんですけどぉ。
「キスとは神さんもいいご身分ですねぇ!」
黒薙楓の1つの嘘で俺の寿命は5年は縮まった気がした。
それにしても黒薙楓は一体何を考えてるんだ。
俺が疑似デートだと伝えればこの茶番は収まるはずだし、何よりメリットがないと思うのだが。
とりあえず誤解を解きたいが環ちゃんも結構暴走している。
「でも愛し合ってないとキスってできないですよね?
ここでしてみてもらいませんか?」
「えっ!?」
暴走しすぎて環ちゃんもどうやらおかしくなっているらしい。
誤解から生まれた嘘から今俺はさらに地獄に落とされようとしていた。
だがここで疑似デートでしたと言えればなんとななるかもしれない。
その一筋の希望も断ち切られた。
「良かろう。
さぁ目をつぶれ。」
「いやちょ、まっ!」
抵抗しようとしたが1つ忘れていたことがあった。
黒薙楓はあのドSお嬢様の警護担当ということもあり非常に怪力だ。
一瞬のうちに組伏せられていた。
「許せ神啓介。
私も不本意だがもはや止まれぬ。」
あぁ…ここで俺のファーストキスは奪われるのか。
俺は心を決めて目をつぶった。
しかし、目をつぶった俺には柔らかい唇の感触ではなくパシャっという音とともにフラッシュを浴びせられていた。
「フフアハハ。
お前は実に愉快な男だな」
目を開けるとスマートフォンで俺を写メっている黒薙楓が笑っていた。
少しドキッとしたのは内緒だよ。
だがこの行動で環ちゃんと俺は呆然としていた。
「一体これはどういうことですか?」
「実はこのデートは私との対決に負けたコイツの罰ゲームなのだ。
だから今日の狙いはコイツの情けない顔を撮影してやろうと思ってな。」
「じゃあ今までのは全部嘘ですか!?
良かったぁ。」
環ちゃんが言うとおりホントに良かったと思っている。
「当たり前だ!
このような中2病オタクを好きになるわけないだろ。」
ですよねぇ。
まぁ何はともあれ誤解も解けて俺のファーストも守られて良かった。
安心して外を見たら少し日が傾きはじめていた。
「いやぁ今日は楽しかったからちょっと早いがここで帰らせてもらおう。」
「あっじゃあ私たちもそろそろ帰ります。
行こうお兄ちゃん。
あと神さんはもう少し行動を気をつけてくださいね。」
環ちゃんは俺に釘を刺したあと修さんと帰っていった。
修さん一回も助けてくれなかったなぁ…。
そして黒薙楓を駅まで送り帰ろうと思ったら後ろから黒薙楓が抱きついてきた。
「次は二人っきりでキスまでいこうか?」
クスッと耳元でささやいて離れる彼女はあざとすぎるだろ!
少しでも揺らいでしまった俺が恥ずかしい。
やはり黒薙楓はあなどれない。




