第11話 絶望と悩み
気がついたら朝になっていた。
久しぶりに自分で早起きしたなぁ。
俺は涙と鼻水でグショグショになっている枕を抱いていたが気持ち悪くて投げ捨てた。
後で迷惑だが静香さんに洗ってもらおう。
それにしても昨日の光景が忘れられない。
俺の天使(仮)の梓ちゃんが男と腕を組むなんて、うらやま…絶望を味わった。
今思い出すだけでも滝のように涙が出そうになる。
まぁ俺が彼氏ってわけでもないからどうこうできるわけではないしそのことを許容出来ない俺は穢れてるのかな?
絶望と許容出来ない気持ちがループして鬱病になりそうだ。
それに明日からはテスト期間だから嫌でも気持ちがすり減る。
別にテストの点が悪いからというわけではない。
むしろ全教科80点はキープ出来るであろうがテスト期間という空気感が嫌いなのだ。
まぁそんな明日のことをベッドで考えても仕方ない。
今とにかく考えることは梓ちゃんへの接し方だ!
何気なくそしてさりげなくフェードアウトしていこう。
まずは呼び方を変えてみよう。
「桃井さん。」
いやあまりに他人行儀な気がするしこの呼び方だと顔もこわばってしまうな。
俺はベッドから降り鏡の前でスマイルの練習を兼ねながら呼び方を変えてみた。
「あず」
「おはようございます神く……。」
匠がガチャリとドア開けながら固まった。
まるでシィーンという音が本当に聴こえたのではないかと思うくらいシィーンとした。
匠は笑いをこらえながらそーっとドアを閉めた。
俺もそーっとベッドに入った。
何もなかったんだ!そう考えよう。
そしてまたガチャリとドアが開いた。
「プフフフ朝ご飯出来てプククますから。」
それを喋ってドアを閉めた。
いやドア閉めても聞こえてるからな笑い声。
匠と顔を合わせるのは恥ずかしいけどこのままベッドでダラダラしてると考えがまとらんかもしれない。
まずは朝飯食ってから考えよう。
下に降りると朝から1人で騒いでる人がいた。
「よぉ啓介くん!俺と一緒に戦隊ものを見て朝からテンションを上げようではないかぁ!」
中年のオヤジが何を言ってんだよ。
何か悩んでたことがどうでもよくなるくらい能天気だなこの人は。
俺もこんな性格になりたいよぉ。
とりあえず無視して朝飯をたいらげた。
さてぇ何をしようかなぁ。
スマイルの練習は…やめとこう。
だがすることがないなぁ。
悩んでいる間にインターホンが鳴った。
静香さんと匠は洗い物してるしあのバカはまだ戦隊ものを見ている。
ここは俺が出よう!
「静香さん俺が出ます。」
「あらぁ助かるわぁ。」
朝の8時だというのに一体誰なんだろうか。
玄関を開けると金髪カップルがいた。
片方は笑顔で片方は睨みを効かせてる。
「おーすけいすけっちぃ!昨日出来なかった分の勉強を教えてくれぇ!
恵子も昨日のお詫びがしたいってよ。」
いやあの目は獲物を狩る目だろ。
すごく怖いがすることもないし何より勉強に集中すれば気分転換にもなるかもしれない。
根本的には解決しないけど何かは見えるかも。
それにしても来るのが早いだろ。
どんだけ切羽詰まってんだよ。
「おじゃましまーす!」
「おう若いのぉ!俺と一緒に戦隊ものを見ようぜ!」
そんなに一緒に見たいのかこのおじさんは。
ここまで黙ってた静香さんが動いた。
「はーいあなたは邪魔しちゃダメよぉ。
ゴミなんだから。」
相変わらず顔色ひとつ変えずに毒を吐く。
義雄さんはあまりの恐怖に凍りついていた。
というかあの黄瀬さんですら凍りついていた。
「とりあえず俺の部屋に行こう。」
「お、おお。
静香さんの毒ってあんなに強烈だったか?」
まぁたまにしか見ない人は強烈に思えるだろう。
ハハッと笑って誤魔化したがなるべく静香さんには逆らわないでおこうとまた強く思えた。
さぁみんなで勉強会だ!といってもただ一方的に教えるだけだろうけど。
数時間で昼時になり昼飯を食べてからもすぐにまた勉強をした。
いかにこの二人が勉強してこなかったのがわかる。
特に黄瀬さんは生粋のバカだった。
そのおかげもあってか夕方までは以外と早かった。
「んじゃまそろそろ帰るわ。
あとは自分で山はるぜ。」
「正確に覚える気はないのか。
期末はないからな!」
そしてたわいもない会話を済ませてあとは帰るだけって時に玄関で黄瀬さんがふと口にした。
「そう言えば昨日カフェで一緒だったあの子はどうなったんだ神?」
「何の話だ?」
猛がキョトンとした表情をしている。
そして黄瀬さんは俺の落ち込んだ顔が面白いのか続けざまに言った。
「まぁあれは絶対あの子の男だよ!諦めるのも男の美学だよ!」
励ましてるのかけなしてるのかわからないが確かにあんなに楽しそうな顔をしていた梓ちゃんだ。そうなのだろう。
猛は話が読み込めていないのだろうが黄瀬さんが勝手に連れて帰った。
確かに俺は説明もしたくなかったから黄瀬さんには感謝だ。
しかし明日からはどうしようか。
絶望がまた頭の中でループした。




