第10話 いつだってそう
「ただいまぁ。」
いつもより玄関のドアが重く感じた。
まぁ心の方が重いんですけどねハハハ…。
今日は散々だったなぁ。
蓮に対して早とちりして痛い目をみたり、猛のつまらない騒動で心を削り時間も削り勉強会が終わったり赤坂さんのイスが……それは思い出の中にしまっておこう。
誰しもそういう体験はあるだろうしグフフ。
俺が玄関で赤坂さんの事を想像しながら靴を揃えてると後ろから声がした。
「以外と帰るのが早いんですね。
あんなに意気揚々と飛び出していった割りに。」
俺が上手くいかなかったことを一瞬で察してバカにしてきている匠がエプロンをしておたまを持ってクスクス笑っていた。
「言わなくてもお察しのようだが俺は腹がへっている。」
「でしょうと思いまして今日は肉系の料理を多めに作っておきましたよ。」
さすが匠さん!
そこに痺れる憧れるぅ!
俺は一撃で心を撃ち抜かれた。
速やかに手を洗いうがいしてウイルス対策バッチリして食卓の席についた。
「ただいま。」
「おかえりぃ。
早かったわねぇ。」
「ええまぁ早すぎたかなぁなんて。」
「いいじゃない一緒にご飯食べられるんですから。」
この包み込むように優しく話しかけてくれるのが匠のお母さんの竹中静香さんだ。
匠のお父さんの竹中義雄さんは単身赴任で1ヶ月に1回くらいのペースで帰ってくる。
とても良い人だがテンションが少し苦手だ。
俺は訳あって匠の家でお世話になってる。
それにしても今日は豪華だな。
やはり匠はこうなることをあらかた予想していたのではないかと思う。
人間というより俺の生態に詳しいようだ。
匠とは長い付き合いではあるが俺は何も知らない、いや知りたくないな。
そして静香さんも何を考えてるかわかりにくい。
今も笑顔で優しいオーラが出ているが言うことはえげつない時がある。
それが自覚せずにやっているから怖いよねぇ。
そうこうしてる間に匠が最後の料理を運んできた。
「いっただきまーす。」
腹がへっていた俺はすぐさま箸をオカズのほうへ伸ばしていた時であった。
ガチャリと玄関が開きドタドタと走ってくる音が聞こえた。
まさかあの方か!?
「俺!!颯爽登場!」
「おかえりアナタぁ!」
うっわぁ帰ってきちゃったよ。
この帰ってきて早々仮面ライダーみたいなポーズをしている人が義雄さんだ。
俺はこのテンションが苦手なところの1つだ。
何故いつもこんなにテンションが高いのかわからないがそれを受け止め受け流している静香さんはすごいと思う。
「やぁやぁ諸君!俺の帰りを待ちわびていたことだろう。
啓介くんと匠にプレゼントだぁ!」
そして義雄さんはポケットからゴソゴソと探り俺と匠に手渡した。
匠には勉強に役立ちそうなペンセット。
俺には何故か一人○○に役立ちそうな大人のオモチャだった。
何でだよ!何で俺だけこれなんだよ!
そりゃ童貞だから助かるから貴重に扱わせてもらいますけど何でこのタイミングなんだ!
静香さんが全く笑ってねぇし匠はというと完璧バカにした笑みじゃねーか!
「そういう時もあるさ」
義雄さんが哀れみの感情を込めて俺の肩に優しく手をおいた。
いやおめーのせいだよ!
俺がだだすべりしたみてぇな言い方はやめろぉー。
疲れてたのにさらに増した気がした。
こういう時はさっさと飯を食ってコンビニで雑誌でも漁りに行こうと思う。
俺は一気にご飯とおかずをかきこんだ。
「ごちそうさんでしたぁ!
ちょっとコンビニでも行ってきます。」
「啓介くん!気を付けなぁ!」
「へーい。」
俺は適当に返事をして玄関を出た。
外に出ると辺りは夕闇で外灯が道を照らしていた。
コンビニまでは5分もかからないし携帯でもいじりながら向かうかと思ったのが間違いだった。
曲がり角に差し掛かったところで何かとぶつかった。
「あいた!」
しまった!携帯に夢中になりすぎて小さい女の子とぶつかってしまった。
ここは歳上の俺が紳士的に謝ろう。
「大丈夫かい?おにぃさんよそ見しててごめんねぇー。」
俺は倒れているその子にソッと手を差しのべた。
だがその子からはボディーブローが差しのべられていた。
「ぐぼしゃ!」
「私は高2だバカヤロー!」
このフレーズどっかで聞いたことがあるぞ。
いやそれよりも俺のモツが……
痛みでうずくまっていた俺を上から覗き込むようにその子は話しかけてきた。
「あれ?神じゃねーか。
一体何してんだ?」
痛そうにしている俺をクスクス笑いながら聞いてきた。
くそー可愛いじゃねぇか。
あっでもスカートからジーパンにしたのねグフフ。
俺は精一杯の勇気と愛と希望を振り絞って答えた。
「コンビニに行こうとしてたんだけど天国に逝くところだったよ。」
「そうかぁなら私が連れていってやろうか?あぁん?」
こんなところで堕天使に会うとは、確かに今日は疲れてるよパトラッシュ。
でも待ってくれまだ死にたかないよ!
俺は腹を抱えながら立って話を反らした。
「赤坂さんこそどっかに行くの?」
「あたしは別にただブラブラしてただけさ。」
まぁ何とも言えない答えだったが暇ってことでしょうね。
暇だったらそこのコンビニまで話し相手になってもらおう。
「じゃあそこのコンビニまで俺の暇潰し相手になってよ。」
すごく自然に言えたな。
俺も梓ちゃんに恋をしてからというもの女の子に慣れてきているぜ。
「お前バカか?」
「へっ?」
あまりにドストレートな言葉過ぎて変な声が出てしまった。
だがしかし一体何がいけなかったんだろうか。
「赤坂さんどうしたの?」
「わからねぇのか?お前は梓のことが好きなんだろ?
だったらあ、あたしと居たとこ見られたらその…誤解されるかもじゃねーか!!」
オーマイゴッツ!その程度で誤解とか小学生かよ!
それともいつの間にかポイント稼いでたかな?
モジモジしながらそんな言い方されたら惚れてまうよぉ。
しかし俺には梓ちゃん(仮)がおるんや。
ここは心を平静に保とう。
「その程度気にしないよ。
それとも気にした方がいいかなお姫様。」
紳士的だ!実に紳士的だ!
なおかつイケメンだな。
これでコンビニまでの話し相手になってくれるはずだ。
「くぅーーーこのバカぁーー!」
「ぐはぁ!」
何故なんだろう。
俺は紳士的だったはずなのに赤坂さんは顔を真っ赤にしてリバーブローを叩き込まれた。
そしてそのまま走り去って行った。
通り魔かよ!マジで天国に逝くところだった。
やはり俺はイケメンじゃなかったんだろうな。
それにしても良いパンチ過ぎるよ。
俺は2分くらいまともに歩けなかった。
さぁ気を取り直してコンビニに行くかな。
さっきのあれはイノシシだったことにしよう!
ここ数年は山からおりてきてるって言うしうん。
それからコンビニに着くまでは何もなかった。
逆にコンビニ行くだけで逝きそうになるのも初めてだけどね。
住宅街のコンビニは異様に明るく見える。
ウィーン
「いらっしゃいませー!」
俺は入店して早速雑誌コーナーにコーナリングした。
何故だか自分で考えたのに心の中ですごくイラついたのは何故だろう。
まぁそれは置いといて、何かいい雑誌はないかなぁ。
最初は漫画系を見て徐々にムフフゾーンにでも行くとしますかな。
30分くらい読んだくらいだろうか。
ほとんど客のいないコンビニでエロ本を立ち読みしようかそわそわしていた時だ。
後ろから突然話しかけられた。
「ねぇ!買うか買わないかのどっちかにしたら!」
「ひゃう!」
またビックリし過ぎて水鳥の技を使う男みたいな声が出てしまった。
俺はキモい顔で振り返るしか借りを返せぬ男。
振り返るとファーストコンタクトの金髪が忘れられない人がコンビニの店員の制服を着てこちらを睨んでいた。
相変わらず眼力ぱないっすね。
「いやほら俺はこんなの買わないしさ。」
「なら帰れば?見てるだけでムカつくんですけど。」
何で俺はこんなに威圧されてるの?
すごい恐いんですけど。
だがしかしここで退くのもダサいからここは少し踏ん張ってみるか。
「まぁその黄瀬さんもさ。」
「勝手に人の名字言うのやめてくれる?」
もう勝てません。
何でこんなにこの人恐いの?俺は何もしてないはずだ!
半泣きになりそうなのを我慢して俺は聞いてみた。
「お、俺って何かしたっけ?」
「別に!ただあなたが私より猛の中で大きい存在なのが気に入らないの!
いつもあなたの話ばっかりなのよ!」
「へ、へぇー。」
知らなかったなぁ。
俺は男にモテてたのかぁ。
全っ然嬉しくないんですけど!てか彼女の前で俺の話してもシラケるのは当たり前だろうが。
アイツは何を考えてんだ!やっぱりバカなのだろうか。
そのせいでこんな迷惑な事にもなっているんだ。
よし!黄瀬さんにこの嫌なイメージを払拭してもらおう。
そう決意した瞬間に黄瀬さんが外を指さした。
えっ何?やめて無言でそういうの。
恐いから!ホントに恐いから!
「ねぇあの子って今日一緒にいた子だよね?」
何その謎発言!怖いけど振り返りたいのが人のさがってもんですね。
俺はゆっくりまた振り返った。
「嘘だろ?」
俺は外の光景を見て膝から崩れ落ちた。
外には梓ちゃんと知らない茶髪のおにぃさんが一緒に歩いていた。
しかもものすごく楽しそうだ。
あれ?いつから俺は梓ちゃんに彼氏がいないと思っていたんだ?そして、いつから俺はどこかにチャンスがあると思っていたんだ?
いつだってそうじゃないか。
期待して裏切られそれでも信じて無駄の繰り返し。
いつの間にか黄瀬さんが肩に優しく手をおいて俺に止めをさした。
「ドンマイ!」
ズドンと稲妻かのようなショックが駆け巡る。
その瞬間何も考えれなくなりただただ走ってた。
玄関を開けただいまも言わずに階段をかけあがり自分の部屋のドアをぶち破るかのごとく激しく開けてベッドインした。
その日は枕が吸水性を失うくらい泣いた。
俺の青春が砕け散り自意識だけを高めた日だった。
あんなに朝はテンションMAXだったのに今は最下層だ。
パトラッシュぅホントに疲れたよ。




