第1話 これが春か
桜舞う4月の朝、気持ちよく起こしてくれる幼馴染が俺にはいる。
「おはようございます神くん」
そう言いながら眼帯を手渡された。
「サンキュー」
俺は寝ぼけ眼で右目に眼帯をかけた。
「先に下でまっていよう」
若干キレ気味に降りて行ったのは何を隠そうこの神啓介の幼馴染なのである。
しかし、一般的に幼馴染というのは女の子であるという男子の切なる願いであるが、現実は竹中匠というメガネ男子なのである。
朝から少量のフラストレーションを抱えながら支度を済ませ玄関を開けると知っている二人がいた。
「遅ぇぞオメーら」
(うぜぇー、勝手に来ているくせに)
この口の悪い金髪バカは仲間猛 。
いわゆるセカンド幼馴染というやつだ。
その隣で天使のように笑っていて癒しをくれる男の娘もとい男の子は霧ヶ峰蓮だ。
こいつもまた幼馴染だ。
そしてこの変な軍団のせいで俺は彼女がいない。
正確にはいたことがない。
女子に話しかけられても大抵はこの3人の好きなもの、アドレス、性癖を聞かれるだけの中継役だ。
まぁ、性癖は俺が奴等の株を落としたいがために勝手に漏らしているだけなんだが、それでもイケメンパワーが衰えないのは恐ろしい。
そんなことを考えながら生きている毎日も今年でやめだ!
今年こそは彼女が出来る予感がしている。
何故ならクラス替えという一大イベントで奴等と離れる絶好のチャンスなのだから。
「嘘だろ!?」
口をついて出たのは残念感と不正があったのではないかという疑念感に襲われていた。
こんなアンハッピーセットがあるなんて。
「啓介くんとまた一緒になれて僕嬉しい」
蓮のこの笑顔、いつまでも見ていたい。
「俺も嬉しいよ。蓮だけな。」
「神くんごときに下に見られるのは実に腹立たしいんですがねぇ。」
匠に言われると妙に負けを認めてしまう自分がいる。
強くなれ自分!
「まぁどうせクラス違っても昼飯一緒なんだから別にいいじゃねーかよ。」
「一回も誘ったことはねぇけど。」
そう、俺は蜜を塗った木なのかもしれない。
雄限定というのがネックだが。
絶望を引きずりながら教室へ向かう。
後ろの3人は楽しそうだが俺はダークマターに飲み込まれているかのように目の前が暗い。
桜はまだ咲き始めだというのに。
教室に着くとあの3人は持ち前のイケメンパワーで溶け込んでいた。
「アドレス交換しようよ。」
「うひゃひ」
突然話しかけられ変な声出ちゃったじゃねーか。
振り返れば元気を塊にして音声機能を付けたような女の子がいた。
「えっとその、俺君の名前よくわからないんだけどいいのか?」
「そっか、自己紹介まだだもんね。」
「私の名前は桃井梓!よろしくね神くん。」
ヤバい、遂にきたか俺の春。
17年間ずっと待ち望んでいたんだ。
灰からフェニックスも戻るもんね!
ここはビシッとかっこよく決めよう。
「俺と交換したら眠れなくなるぜ。」
決まったぁー!
「うんそうだねぇ。」
終わったぁー!
「とりあえず今日梓ちゃんは放課後暇なのかい?」
「えっ!?うん暇だけど何?」
あれ?以外とイケるんじゃないか?
これはもう粉骨砕身の勢いで押しきる。
「どっか遊びに行こうよ。俺おごるから。」
「えっ!?マジ!?いくいく。」
やっと心の氷が溶かされていく。
あぁ、今って春なんですね。
「じゃ放課後校門で。」
「うん!!」
やべぇー学校超楽しいんですけど。
もうあの3人の中継じゃない。
俺はフェニックスだ!
それから時間が過ぎるのは早かった。
「よっしゃ今日もおーわりぃ。啓介っち帰ろうぜ。」
「すまんな猛、俺は今日春が訪れているんだ。わかるか?」
「バカに磨きがかかったか。」
「うるさいぞ匠。」
「啓介くん凄く嬉しそうだけど一体何があったの?」
「よくぞ聞いたぞ蓮!俺についに」
「バカは置いて帰るぞぉ。」
「さっさと帰れぇ。」
匠はホントにムカつくぜぇ。
しかし、今から梓ちゃんとのデートなのだからこの気持ちを抑えつけよう。
賢者タイムを発動しよう。
一歩進むごとに心臓の高鳴りが聞こえる。
ここは慣れてる雰囲気を出すんだ。
「おーい神くーん」
「ごめん梓ちゃん遅れてぇ。」
「んで神くんはどこ連れてってくれるのかなぁ?」
何その上目遣い。
心の奥底から満たされて行くのを感じた。
「とりあえずベタだけど喫茶店行ってゆっくり決めない?」
「了解であります。」
ハハァーんもう抱きつきてぇ。
もう言うまでもないが俺は落ちている。
よし!今日は好感度を高めて告白まで持っていこう。
「ここの喫茶店はコーヒーがおいしいんだよ。」
「へぇーパンケーキとかもあったり!?」
「ベリーなベリーソースかかってるよ。」
「何それうざーいw」
会話が楽しいのは何年ぶりだろうか。
一瞬で喫茶店に着いてしまった。
時間が早いぜこのやろう。
カランカランとドア開けていつもの席に座ろうとしたら知ってる3人がいた。