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嫌われ者の王子です  作者: アラベスク
幼少期編
2/4

課題

人手が欲しいーー心の底からそう思う。


先日王族辞める前に自分の出来る事をやろうと決めた俺だが、そもそも俺の言うことを聞いてくれる奴が全くいない事に気付いた。


嫌われ者の王子である俺が何かを頼んだところで、なんやかんや言い訳をされて逃げられるだけ。


俺の言う事を聞いてくれる奴なんていないのだ。

…………いや、訂正しよう。

正確には唯一俺の言う事を絶対に聞いてくれる奴はいるのだ。いや、確かにいるんだけれども。


チラッと部屋の隅に立つ少女に目を見遣る。


「どうかしたしたか、エンフィールさま?」


背をピンッと伸ばした体勢で此方に問う姿に少し感嘆するが、同時にそのまだまだ甲高い事と体躯に心の中でため息を吐く。


この子が唯一俺の言う事を聞いてくれる人物、改めメイドのレミリアちゃん6歳である。

いや、確かに俺より一つ歳は上だよ。でもさ6歳児に一体何が頼めると言うのだろうか。


「いや、悪いが紅茶を入れてくれるか?」


そう言った俺にはいっ、と元気に答え、トテトテと紅茶を入れに行く姿に思わずほっこりする。小さい子供が頑張っている姿を見るとなんだが心が温かくなるよな。いや、今は俺の方が小さいんだけどさ。


不慣れながらも紅茶を入れてくれた彼女に感謝しながらこれからについて考える。


王子であるにも関わらず側付きが一人で、しかも6歳児であることから本当に俺は嫌われていることかわかる。


これでは何かをしようと思っても、まともに何かをする事は出来ないだろう。しかしここーー王都で人材を集めようとしてら他の王子王女の後ろ盾である貴族に気付かれて暗殺されてしまう可能性もある。


なら、方法は一つしかないだろう。


はっきり言ってこの方法は思ったより長い年月が掛かるし、確実性もない。けれどこれしか俺に取れる手段はない。



「なぁ、レミリア」


「はい、なんでしょう?」


「レミリアって俺の側付きだよな?」


「はい、そうです」


「んじゃ、俺これからあっちこっち王国の領地周るつもりなんだけど、一緒に来る気ない?」


「……………………はい?」



*************************



俺の人手不足を補う策、それはいたって単純だ。各領地を周り、優秀な平民を引き抜くというだけだ。


現在のアルテリア王国は城で働く書類を捌く文官や、騎士と呼ばれる武官は全て貴族で構成されている。


平民が成れるのは農民、商人、傭兵、そして町の衛兵ぐらいだ。それはつまり、内政官として優秀な人物や武を誇る者達も埋もれてしまっている、ということでもあるのだ。


俺はそんな人材を拾い集め、自分だけの私兵団を作り上げるのだ。


と、カッコ良く言ってはみたが、はっきり言ってこれは確実性なんて全くない。


そもそも、自分の親が平民を妻にして問題が起こったのに子供である俺まで同じ事をするのかという問題がある。


しかし結局最後には王族を辞める訳だし、これ以上嫌われる訳でもない。あれ、涙出そう。


雇った奴等も辞める前にいい就職先を見つけてやれば問題ないだろう。


そもそも、前提として今から周るつもりの領地にそんな人材がいるかどうかもわからないないし、いたとしても俺に付いてきてくれるかもわからない。


本当に全くもって分の悪い賭けもいいところである。


それでもやるしかないのだ。


王宮の奥にある部屋の前に立つ。

ここは王宮の中の王族プライベートルームの一つで、尚且つここは王妃ーー俺の母の部屋である。


ここに来たのは、この中にいるである二人に用事あるからである。

入る前に三回ノックする。すると中から女性の声が掛けられる。


「失礼します、母上」


部屋に入り、不自然にならないようにさっと周りを見渡す。すると、やはり部屋の中に目的の人物がいた。


「あら、エルちゃん。いらっしゃい、どうしたの?」


「おお、エルか。よく来たな」


中には黄金の髪をたなびかせた美丈夫と、栗色の髪を腰まで伸ばした美しいというより可愛らしいと表した方が良さそうな女性がいた。


この二人こそ、今回出会いたかった二人であり、俺の両親でもある現国王と、現王妃である。


この二人が一度国を壊し掛けたということに思わず顔をしかめたくなるがそれをなんとか我慢し、笑顔を作る。


「はい、実は父上と母上に頼み事ががありまして」


「お願い?エルちゃんが?私達に?」


「ほう、エルが頼み事とは珍しいな」


意外な事を聞いたとばかりにキョトンとした表情を浮かべる両親に、だろうな、と思う。

記憶が戻って以来俺は周りになにか頼み事をした事がほとんどない(レミリアちゃんは除く)。


そんな俺が頼み事をするのだ。多少なりとも気にはなるだろう。


そして予想通り父上が話の続きを興味深そうに待っている。


「実は国を見てみたいのです」


「国?いつも見ているだろう」


「いえ、王都ではなく様々な領地を見て回りたいのです」


「ほう、領地を…………か」


父上が面白そうに呟く。


そう、仮にも俺は王族。許可無く自分勝手に旅に出る訳には行かないのだ。

だからこそこうやって頼み込むしかない。


「でも危険じゃない?エルちゃんはまだ5歳なのよ」


母上が心配そうに告げる。

確かに5歳児に旅をさせるなんて自殺行為だ、が、このまま居ても貴族に殺されるだけだ。なら、危険を犯してでもやらねばならない。


「いえ、母上、5歳とは言え私は王族の一員です。幼い今だからこそ様々な場所を見てこれからの自分の糧にしたいのです」


キリッとして、真摯にそう伝える。


母上は俺のその姿に多少絆されそうになるが、口を開き


「でも、」


「まぁ、いいじゃないか、若い子には旅をさせよという言葉もある。エル自身も覚悟を決めているらしいし、私達は尊重してあげよう」


父上が母上を撫でながらそう言う。母上もそれをくすぐったそうにしながらも同時に顔を赤く染める。


正直子供の前でしないで欲しいが、予想外からの援護に感謝する。


「だけど、それも9歳までだ。10歳には第二王子としてパーティに出て貰わなければならない。だからそれまでは自由に様々な領地を見てくるといい」


父上が此方にそう告げる。


9歳……………4年か。仕方ないとは言え正直短い。

だけど文句言ったところで変わるわけでもない。


なら、一刻も早く準備を整え、出発した方がいいだろう。


両親を見る。


「わかりました。私のお願いを聞いてくださりありがとうございます」




**************************




あれから2日後、正式に国王である父上から各領地を治める貴族に、第二王子が其方に行くかもしれないので対応する事と書簡が送られた。


俺自身もこの2日で準備を終え、いよいよ出発の日を迎えた。


「これからたのしみですね、エルフィードさま!」


「ホッホッホ、レミリアよ慌てるでない。転んでしまうぞ」


後ろを見る。


そこには今回俺と共に各領地を周る予定の二人がいた。

一人はメイドのレミリアであり、もう一人は護衛の老人ーーネストリウス老と呼ばれる人物である。


護衛が一人で、老人なのは大丈夫なのかと思うかもしれないが、この優しげな雰囲気を持つネストリウス老は前アルテリア騎士団団長であり、『剣聖』の二つ名を他国にまで鳴り響かせている猛者である。


はっきり言って護衛というには大物にも程がある。


歳を取った現在であっても騎士団で勝てるのは一人いるかいないかと言われている。


初め、彼が付いて来ると聞いて俺も大いに慌てふためいたがネストリウス老曰く「護衛何人も連れて行ったら他領の迷惑にもなるでしょう。なら、この老いぼれを一人連れて行ってくださいませ、私としてましてもまだまだ若い者に負けているつもりはありませぬ」らしい。


確かにネストリウス老一人居れば騎士十人連れて行くより遥かに安心できるし、俺も小さい頃(今も小さいが)から見知った相手だけに気が楽でもある。


こうやって領地探索メンバーが決まった。


「そういえばエルフィード様、此度は一体どの領地から周るおつもりですかな?まだこの老いぼれ聞いておりませぬとして」


「あ、わたしもです」


「あれ、まだ言ってなかったっけ?俺達が最初に向かう領地は」


悠々と聳え立つ山々の先を指差しながら


「不毛の大地、クラウン男爵領だ」

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