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夜伽は片思い  作者: 林原こうた
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事件の彼方で

事件の彼方で


 夕刻、夜空がキレイすぎて何が起きているのか理解ができなかった。

 夕日が全反射したような茜色の夜空かと思っていた。しかし、それが夕日のせいではないことがすぐにわかった。太鼓ではない、叩きつけるような響く音と共に地面が揺れているを感じた。

 その瞬間、どこからか女性の叫び声が聞こえる。

 一度、森の教会へ戻ろうと考えたが、神社の方から人々が転がるように下りてくる。サングラスを外した家原は、壊された神殿の奥で争う二つの陰に目をやっていた。火の粉が飛び交う興内に後ろには慌てふためく、人間が我先にと逃げ出していた。地面から、得体の知れない闇が漂っていると思うと、それが人間の形へと変わっていく。

「信じられねぇ。」

 と、発した家原は藪から棒に片手に金属の棒のようなものを持っている。

 もう一度大きな音がしたと思うと、1人の知らない男性がこちらのほうへぶっ飛んできた。

 思わず大きな声を出すと、その男は蒸発したように消えていった。

「一体ここはどうなってしまったのか。」

 家原のアロハシャツは砂を被り、幾分苦しそうな顔を見せた。

 そんなことを行っている間にも、周りには怪しい黒のロープを着た人間が二人を囲む。逃げるように崩れた祭壇へ登ると、参道一面の逃げまとう人間が見るように分かった。

 どこからともなく、不思議な音が聞こえる。サイレンでも、鐘の音でもない不思議な音が私の聴力を遮断する。

 この音の方向に私を呼ぶ声がする。

 そんな気がした。

 気が付くと、自分の頭が金属か何かで殴られた音がした。その瞬間、私の意識は完全に途絶えだ。

@@@@@@@@@@@@@

 目の前には女性がいた。

 意識朦朧の中、幼馴染の姫子の目は地面へと虚ろいだ。身体が可笑しい姿勢かと思ったら、両手が鉄の鎖か何かで繋がれている。

 どうして、姫子が私にこんなことするんだ。

「ごめんなさい。」

 寂しそうな顔がこちらへ向けると、すぐさまここから抜けた。

 手を捻じっていると隣にもう一人の男性がいるのに気付いく。捕まっているにも関わらず冷静を装う彼の顔には刻々と深い傷が刻まられていた。

「奇遇だね。」

 こんな笑顔を見せてる場合か。

「でも、犯人が彼女だったとはな。」

まだ、断定はできないだろ。

しかし、姫子がやっていないという証拠のほうが今は探すのが難しそうだ。

 でも、この手錠さえなければ、ってあれ?恰もこの手錠、掛かっていなかったように、スルリとこの身を自由にさせることができた。おそらく鍵をわざと掛けなかったのだろうか。近くにあった木材で家原を自由にさせると、すぐさまこの場から離れた。

 薄暗い廊下を越えると、ある男と、姫子が口論をしているのが分かった。

「約束が違うじゃない。」

 大声が嘆く姫子が誰かに訴えているようだ。なにやら、知らない男性と口論になっている。

「それだったら、私の命も良いから、一華を開放して。」

 その言葉には、暴力で掻き消された。右手を振りかざした男は、姫子を頬を叩きつけて、話など機関とばかしに奥の部屋へと歩いていった。

 家原の話を思い出す。

 サムハインの復活には生贄が必要。しかし、彼らの口外によると死神の復活に失敗したのか。

こちらへ姫子が来るのが見えて、ひとまずカーテンの裏へ身を隠すことにした。カーテンの裏に隠れるなんて、高校以来だった。

 マジックショーで体育館の裏のカーテンに隠し姿を消すという荒業をして、大反感バレたためをもらったが、まさかこの経験が今生きるとは思っていなかった。

 人気が消えたのを確認しつつ、二人で泥棒のように二回の階へ上がった。西洋風の建物の造りはどこかでみたことがあるような。

「これって昨日寄った『森の教会』か?」

 確かに石膏的な内壁材に似ている気がしたが、何かが違う気がする。

 ふたりが侵入した大部屋の足元にはチョークで何かが書いてある。

 印刷物のロゴよりもデザインチックな模様は幼き頃教わったある陣に似ていた。

「これは、妖術の陣って奴なのか?」

 興味深そうに見る中、奥の気配に気づき、咄嗟に柱へ身を寄せた。

「時間が無いんだ。」

 と慌てる男は、奥の十字架を睨んだ。まさかと思ったが、奥の西洋の拷問器具のような十字架には上条一華が掲げられている。

「ただの器め。」

と、、拷問趣味の男は、独り言を話している。一華は遠くでも見てわかるぐらいぐダリとして恰も死んでいるみたいだった。一華を助けたくても、あんな魔法があると分かっていて無暗に飛び出すわけにもいかない。

 よく見たら、荊の檻がボール状に形捉われている。その中で何かが生きているように蠢いている。なにやら、この世のモノとは思えない生体は何度も腹踊りの如く押したり戻したを繰り返す。

「あれ、子供が入っているんじゃないか。」

 しかし、荊の間から漏れた突起が人間の手だと気づくと、思考が一気に逆走した。

 近くにいた姫子が男へと近づくと、一つの花瓶が彼女の前へと置かれた。手首を遣われた彼女はこれから起きることが分かるように目を強く閉じた。

 男の手には尖った凶器。

 姫子の声がする。

「一華、ごめんなさい。」

 とうとう気が抑えることができなかった。男をぶん殴ろうと決めた瞬間、黒カーテンの掛かった窓から一人の女性が飛び込む。

「やめろぉぉぉぉぉぉ!!」

 憤慨した間宮唯貴は、突如として、姿を現した。

 つかさず、私も家原も男の前へ出た。その時、男の顔を鮮明に見ることができた。

「お前はいったい。。」

 その顔に驚愕をした。あいつは見たことのある顔をしている。見返す間宮さんが半信半疑に何度も目配りしている。奴は私と同じ顔をしていた。

「なぜ、こんなことをするんだ?」

 傷ついた家原が乱暴に男の前へ出た。その手が男へ触れようとした時、その腕ごと家原は重力に逆らい飛んでいく。アニメーションでしか見たことの無い岩の壁の中へ身を捻じりこました。

間宮さんは声を出せずにいた。

 襲撃しない間宮を確認すると、もう一度強く姫子の腕を握った。素早く刃物が入ると、滴るように血が流れていった。感情を押させる姫子を横目に、容器の中へと血が溜まっていく。器に舐めた瞬間に、地響きと共に地面の陣が光りだした。気づいたとき、間宮唯貴は男にアメリカンガレットを向けている。

 男はそれを驚きもせずに、顕たれた笑い声をあげる。

「女に当たっていいのか?」

 その言葉に、姫子は背けた。

「私は良いんです。彼を、冬生を止めて。」

「ふざけたことを言いやがって。」

 と姫子は無造作に捨てられる。

 離された傷口を庇うように逆の手が傷口を塞ぎ、転がりながらうまく蹲った。その瞬間、間宮のガレットが火を噴いた。冬生と言われた男は片手を間宮へと向けると、銃弾は速度をピクリと止めて、空中へ固定された。と、思ったら即座にベクトルを変えて、間宮へと光を放った。

「方位返還魔術?」

 身を翻すのが遅れた彼女の左からを銃弾が貫通した。目を細めた間宮はそのまま膝待つき、左肩へ手をやる。

 冬生は、一つの提案を出す。

「お前は確か剣道を習っていたな。この棒で俺を倒してみろよ?」

 と、金属の棒が投げられた。

 何故私が剣道をやっていることを知っているんだ。彼は不敵な笑い声をあげてから、一度正気な顔を見せた。男も同じ金属の棒を創造すると、こちらへ歩きながら言葉を交わす。

「お前の兄貴だからに決まっているだろ?」

 記憶が応答したように巻き戻しされていく。

 私は、兄貴と共に生きてきた。

 それは、まぎれもない真実だ。


 なぜ、私が記憶を無くしていたかも分かっていた。

 この村に出る際に、全ての人間は記憶を奪われ今までと違う生活を送るのが掟であった。

 全て忘れていた。

 そのはずだが、この呪文は不完全だったのかもしれない。

 街を襲う人々、森が削られていく日々、狙われた村。


 無くなっていく村。殺された幼馴染。

 欠片と共に、記憶は私を常に苦しめた。


 前へ出ると、パイプの乾いた音を何度か響かせた。乾いた音の後すぐに『面!!』と大きな声が掛かる。余裕を持った冬生の振りは顔面で寸止めされ、もう一度振り直しされた。

 頭の中で必死に考えた。

私の考えを読み問いでいく過程とタネは知っていた。冬生の力が祖母礼子と同じならば、私と同じクオリアという人の感情で動きを読む能力に違いない。ただ、兄のほうが一枚も二枚も上手であるのは確かだ。彼は私が居なくなってからも、ずっと魔法の修行をしてきたんだ。

 同じ魔法を使っていても、勝ち目がないのは鮮明だった。それが唯一の特技と思っていた分、次の手は思いつかない。

『小手!!!』

 パイプの重みが腕へと伸し上がった。手から、武器は離されて、この痛みで一度膝から転げ落ちた。ポケットから、変な感覚がする。

 この感覚は、、突如と変なことを思いつくと笑いが止まらなかった。

 もう一度立て直すとある提案をしてみた。


「なぁ、そろそろ練習も御終いにして、一本勝負といかないか?」


「何を考えているか知らないが、お前の負けは決まっている。」

 思いっきり振り上げたパイプが力任せに顔面へ墜ちてくる。

 本気で終わらせるつもりだ。

 0.3秒前の世界で私は真っ二つに割れている。

 ここへパイプを持ってくると頭から重力が掛かり防いだはずのパイプが頭へと衝撃が起きた瞬間目が眩んだ。

 暗みの中、逆の手から短い棒を取り出す。

「馬鹿か?そんなのじゃ、俺には届かないぞ??」

 その隙をついた。

「胴!!」

 バシンと冬生の腹に殴打が走る。その棒は長さを変え、彼の腹へ、渾身の一撃を食らわせた。プラスティックでできた、ただのスティックはマジックで使われるよくある伸びる棒なのだった。

「俺の勝ちだな?」

 その言葉には、冬生は納得いかない態度だった。

「俺を馬鹿にしているのか?」

 突如と彼の周りに幾学模様の陣が描かれており、髪の毛が覇気といった蒸気でふわふわと浮いた。

「お前には分かるまい。あの廃村と、大切な人を無くした苦しみを。」

 多少、記憶は思い出してはいた。しかし、そのことで尚更一層彼を止めなければならない。一矢報いたが、もうここで私の負けは決まっていた。

 勝てるはずがない。

 絶体絶命に助けてくれる神様がいたらなんてそんな甘ったるい展開を想像した。

 やられてしまう前にひとつだけ聞きたい。

 冬生、お前が私の兄であるからどうでも良い。死神を復活させてどうするつもりだ。

「どうして知りたい?」

 冥土土産の一つくらいは持たせてくれないか?

「あいかわらず、口が達者だな。それなら、教えてやる。私たちは私たちの星を作る。そうだ、私たちだけの世界でまた人類の生活をやり直すんだ。この地球上から、魔法が消えた時に、人々の反乱は止まらなくなる。人間たちは我々が必要なカルマを奪い、その歴史は何度も繰り返された。

何度も、繰り返して、奴らが掴んだのは何だ?この地球への愛か憎しみか?正解は、地球を無とする法則だ。」

 世の中は一人で変えられない。彼らが憎いならもっと別な手があるはずだ。

 人間は知恵を持つ動物で、一人では生きていけないのはお前だって知っているはずだ。


「そうはいかない。」

 それは若い女性の声に聞こえた。若いと言っても若すぎるような高い声が大部屋に響き渡る。

 今まで光っていた魔法陣は輝きを止め、周囲は塩めいた変なにおいを醸し出していた。その異変に取り繕うようにあたりを見当たすと、私のすぐ背後に一人の少女がいた。

「何故なら、私はここに居るからだ。」

 その少女はあの教会で見た纏まった黒上を手でなびかせ、取ついた身体から離れるように私の横へ這い出てきた。ナナサイの目は冬生に向けられ変な魔法を詠唱が始まる。

「ここは一体。。」

 奥のほうで一華が目覚めた声がする。

 一華!!思わず大きな声を張り上げてしまった。冬生は舌打ちをして、同じく詠唱を始めた。

「遅い!!」と叫んだナナサイは両手を広げると、冬生の周りに狭間が生まれた。

 焦りの顔の後に飽きられた顔を見せた冬生は一言つぶやく。

「終わった。」

 そのまま彼の姿は見れなくなった。

 呪文が解けたように荊の丸は枯れ果てる。。一目散に間宮は枯れ花掻きわける。

 引っ張られるように姫子も家原もこの藪へ足を入れる。助けられた少年、少女は全部で七名。

 一人の女を確認すると、間宮は涙を流し始めた。

「苦しいよ。。」

 少女は目を覚ますと、逆に甘やかすように間宮の汚れた背中を摩った。

 彼女と少女の関係は探索するまでも無い。


 死神ことナナサイは、戦いなど今までなかったかのようにこちらへやってきた。黒いロングヘアーを邪魔そうに何度も肩の方へ送り、かったるいわねっと少女らしくない暴言を吐いた。そこにやってきた一華と目を合わせると、嫌そうに目を細めた。

 開口一番に「謝る気はあるの?」と言うと、その言葉通りに「ごめんなさい。」という一華の顔は笑顔だった。

 どうやら知り合いらしいが、一応お前は誰なんだ?

「我が名は、サムハイン。と、あなたに説明をしなきゃいけないのは何だか癪だわ。」

 やはり、一言多い、ナナサイこと、死神こと、サムハインは不機嫌そうにこちらへ睨め付ける。

「ナナちゃんで良いわよ。」

 これじゃ、猫の名前と被りそうだが、良しとしよう。

「さっさと願い事いっちゃいなさい?」

 気づいたら、全員こちらへ来て、ナナを囲んでいた。

 アワフタし始めたナナは指を一本、天へと向けて、言い放った。

「悪魔を召喚しちゃいますよ!!」

 一遍に全員距離をとる。この言葉は一華の初日に聞いたセリフだ。

「待て待て、願いを叶えれるのはどうでも良いんだが、悪魔は召喚した人にしか扱えないはずじゃないのか。」

 今まで地面に埋まっていたのが、嘘のように元気の家原の発言のあと、家原の服に火が付いた。

「あちちちちちちち。」

 飛び上がる家原に「私を悪魔と呼ぶとは、愚か者。」と言い放つ。

「でも、それさえ知らない我が主には誠に遺憾。」

「って、さっき呼んだ冬生が主じゃないの?」と姫子が言う。

「彼は主じゃない。」

 あまりに姫子は不機嫌そうな顔をするので、

「私は彼を殺してはいないぞ。しかし、場所は今は言えん。」

 と付け加えた。

 みんなの視線ががナナへ又しても向けられると恥ずかしそうな感じで手をドタバタさせて、

「あまり見ないでくれ。」

 という彼女の主は一体誰なのか。

「それは歩生ちゃんだよ。」

 と、一華が呆れて物事を纏めた。全員隠せない声で各自驚きを見せた。

「だから、彼女にひとつだけ願い事を言ってほしい。そうしないと、死神は此処にずっと居続けなければならないから。」

 実に一華はこの事情に詳しい。

 それにしても、いつ自分がナナこと、サムハインを召喚したのだろうか。まったくもって謎である。

「言ってしまえば、彼女が此処から居なくなることで、この戦いは終わりを迎える。死神がここへ居座ることで、世界の平等が乱れてる。」

「うるさい!!」

 怒ったナナは魔法を使わず、ほっぺをふくらませた。そのあとすぐ、おねだりするようにナナの目は、進まない顔をしている。

 願いと言うのは、どういうモノだろうか。

 苦悩していたあと、ナナに向けて願い事を一つ要求した。

「みんなが幸せになれる世の中にして欲しい。」

 呆れた死神は「一応、招致」とした。

 だがな、お前さんも分かっているだろうが、誰も平等の幸せと言うのは無理だぞ。世界が変わっても独裁者は生まれ、弱者は付き物だのだ。」

 そんなのは分かっている。ただ、その言葉で人間がどう変わるか知りたいだけだ。

「お前はこういう人間だよな。」と呆れ上がる家原も、その言葉に続けて間宮さんも両肩を空へ上げる。結局、そういうことしか祈れない自分を責めてくれ。願い事はいっぱいあったかもしれない。祖母礼子の洋館を守りたいし、あの大穴だって埋めたかった。引き換えとなった人々の命だとか、偽善を寛いだ究極の答えがこれだったからだ。

「その代わりだが、ここまで待たせたんだ。死神の願いも一つ叶えてくれる気はならないか?」

 ナナは今までの照れた微笑を止めて、そんなことを言いだした。

 願いは?と聞くと少女は私の懐に身体を寄せ始めた。

「頭を撫ぜて?」

 ナナの頭をゆっくりと撫ぜる。

「うん。そのままゆっくりね、ナナなんて消えちゃえって思って。」



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