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夜伽は片思い  作者: 林原こうた
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事件発生、謎の女

事件発生、謎の女



 そういえば、車はどうすんのという家原の助言がなければ本来の目的を忘れるところだった。

 そんなことだったら、姫子たちと別れる前にホームセンターの場所ぐらい聞けばよかった。知らない夜道をこいつと歩いてる現実は虚しい。

「それは俺のセリフだ。でも、どうするか?」

 と言われても、日曜大工店を探すほかになかった。

 夜明かりになると車通りが少なくなった。宛もなく路地を歩いても、洒落た店ばかしで、日曜大工店なんて見つからない。適当に歩いていれば見るかるかもという予想は尽くはずれ、数分春いた末、迷惑ながらコンビニ店員に日曜大工店を聞くことができた。

 何時まで営業しているか聞くと、店員は適当な声で8時までだという。

 ちなみに時計の針は7時40分を回ろうとしている。急がないと不味いな、おい。

 店員の「その道をまっすぐ行けば10分で着くよ。」というお言葉を信じて、小走りで向かった。

 その時だった。

 ローブを着た変な男が誰もいない路地から、私たちを確認するのが見えた。

「お前も急げうお。」という、地味に楽しそうな家原の後を追う。

 夜風は既に夏の匂いを消したようだった。

 先行く男(家原)を追いかけても何も楽しくないが、どうにか間に合い、商品の見定めを開始した。油圧ジャッキや安売りされた雪かきスコップ(穴を埋める用)を購入する際に、あのローブの男のことばかりが気になっていた。隣への割り勘しろという救済を求められないまま、少しの照明が灯った暗がりを歩いていく。

 さっきのローブの男を家原は確認できなかったのだろうか。それは今日、姫子から見せてもらった資料に乗っていた男と特徴が似ていた。

「あの、ローブを着た男性ってことか?急いでいて俺は見れなかったが、まさかな。」

 そんなことを考えていると、不安を予兆するように耳から耳鳴りとは違う何か低い地響きのような音が聞こえる。

 何だよこの音。

 異心地悪くて、両耳に触れないように、耳を閉じた。

「春秋?何を言ってるんだ?」

 不思議なものを見るような目で家原の目が投じられる。こいつには聞こえてないのか?

 こんなことを話していると前のあることに気づいた。

 ちょうどローブの男を発見したあの辺りを坂江に水の波紋が揺れるような空気の揺れが見えた。


 ローブの男を発見した狭い路地は何も変哲もない道だ。とにかく目あたりがない以上、この道を探すしかない。

「とにかくいってみるか。」

と家原に背中を押され、この道にいるかもしれない一人の子供を探し始めた。一度、男が立っていたあたりにくると、街燈を当てにしてに辺りを見渡した。

「突如いなくなるって、いってたな。」

 それは今日の朝にラーメン屋で聞いた話だった。間宮さんが言うには、犯人は難も犯行をバレずに、しかも目の前で子供を攫っていくらしい。そのトリックは誰にも分からないらしい。

 もしかしたら、ロープの男が残した証拠が残っているかもしれないと、あたりを見当たすが、そんな物はなかった。

 もっと奥に行こうと、その先へ続く路地を走ろうとした時だった。

 鼓膜が破けるような音のあとに、今まで吹いていた風さえも鳴きやみ、まるで異次元にでも来た気持ちになった。自然と今まで感じた耳鳴りもなくなっていた。

「なんだこれは?」

 どうやら、この感覚には家原も気づいたらしい。

 よく見ると、この世界に色が無いのが分かる。灰色掛かった街には、暗闇さえも、灰色に不気味な明るさを放っている。そして、この世界に入るなりすぐに一つのことに気づいた。

 目の前には10歳もない少女が薄らめいた目でこちらを向けている。

 本当に向けているだけだ。少女の目はどこか、もっと遠くのほうを据えていた。

「お前らは何だ?」

 すぐ後ろから声がしたので、驚いて、前へと身を押した。彼は赤いローブに片手には木でできた杖とまさに新聞で聴いたあの男の姿がこちらを睨んでいた。

「待て、お前にはこちらへ来てもらう。」

 流石に彼についていくことには身が引けたのは家原も同じの様だ。

左足を下げると一目散に男から逃走を始めた。家原はついでに、目の前の女の子を抱え込んだ。

「ほっとくわけにはいかんだろ!」

 女の子を抱えた家原はまるで誘拐犯、、なんて言っている場合じゃなかった。ここ最近出したことの無いスピードに身体の抵抗が言うことを利かない。それでも、ローブの男には距離が伸びていった。

「いや、絶対あいつ危ない奴だから。」

その意見には賛成だ。

「待てごらぁ!!」

 ローブの男は反則とばかしに箒を跨ぎこちらへと突貫してくる。どうやら逃げ場はないのか。追い継いだ男は箒を無造作に捨てて、杖をこちらへ向けた。脅しをかけるように、天へと杖を向けると、天井へ如何わしい波動を巡らせた。

 おいおい、こんなの食らったら死んじまうわ。


「ひとつ試したいことがあるんだ。」

 という、家原はローブの男へと目線を外せないでいた。男はこちらへ口を曲げながら近づいて来る。正直、玉砕も時間の問題だ。

「俺が、相手の隙を与えているうちに、何でもいいから物を壊すんだ。」

 家原は言い終わると、了承も聞かずに杖を振りかざす男へと玉砕覚悟のスコップ片手の体当たりを決めた。

「あまい。」

 男が杖を一振りすると、突貫した家原は、何やら不思議な力でぶっ飛んでいく。叩きつけられた衝撃音で威力が分かった。壁に当った反動でサングラスが落ち、頭からは血が垂れている。

 何か壊すものと言われても、そう壊すものなんて見つからない。そう迷っていると、さっき歩いた道にゴミ捨て場の青のバケツがあったのを思い出す。

「歩生、まだかよ。」

 と、伸びた身体で男に絡みつく。

「させるか。」

 というローブの男の声がしたとき、いきなりこの世界に色が戻りだす。唖然とする犯人目掛けてごみ収集用の青バケツを放り投げた。

「ぐはッ」

 青バケツは思ったより重く一緒に転がる。苦しそうに立ち上がるローブの男が、膝に手を付けた。色のある世界は、いつの間にか場所まで変わっており、男は十字路に立っている。

 男は左から来たヘットライトに照らされる。見惚れていると、衝撃音とローブの男はバイクと激突、右の住宅街へ姿を消した。

 唖然としながら、近づくと、男を踏みつけヘルメットを外すスレンダーな美少女が月を眺めている。

 それは朝、とんでもない外見の女性と似た輪郭を見せる。

 それが、間宮唯貴と気づいたのは、家原が彼女だと気づいたからだった。間宮の手元には今まで声を出すことが許されなかった幼稚園児ぐらいの少年が抱えられている。

「君たちだけには見られたくなかったな。」

 と、朝の桜花爛漫の笑みは消えて、冷静といった彼女の瞳は寂しくもこちらへ向けられた。


「警察には私が伝えよう。」

 と強気の込めた言葉を向ける。

 考えすぎかもしれないが、警察に伝わると不味いことがあるのだろうか。だが、ぐったりとした子供の様態が心配だった。

「大丈夫。気絶しているだけ。」

「君たちはどうしてこんな道を歩いている?」

 わざとらしい笑みが零れたが、その質問に簸っからない。

「それはこっちのセリフだ。」

 家原の狂気な言い方が間宮さんへ向けられる。今さっき起きた事件の怒りや恐怖で、彼の手は痙攣しているようだった。

「散歩だ。」

 散歩?

 偶然にしては、話が良すぎる。

 偽の笑顔がこちらへ向くと、すべてを断るように携帯電話を持ち直す。半ぶら下がりなった子供を仕方がなく拾い上げると、潤滑な口がこちらへと向く。

「あちらの交番で母親が待っている。早く子供を届けたほうがいい。それとも事情聴取がこんなに好きか?」

 その目線には、飛ばされた青バケツが散らばっている。こんな事情聴取を怖がって、間宮さんを見逃すのは癪だったが、今回はその言葉に甘えることにした。交番のある方向へと歩き出すと、小さな声がする。

「どうか敵にだけはなってくれんな。」

 その言葉に振り向きはしたが、上の空を決め込んだ間宮さんはそれ以上目線を合わせることはなかった。

 見えてきた交番へ向かうと、そこにはひとりの女性がいた。

 少を見るなり、感情が溢れるばかりに涙を流し、少女へ抱擁した。どちらにしても、我々の事情聴取は免れなかった。

 しかし、大惨事に至らなかった分、すぐに聴取は終わったが、事件のことをありのまま話すわけにはいかなかった。よくよく考えれば、ローブの男が少年を誘拐証拠など無いのだから。彼は後ろから現れ、私たちは一目散に子供を連れて行ったが妥当な図柄である。

 聴取が終わると、駅前のタクシーを探し始めると、なんとなく一件落着というか、今起きたことを客観的にとらえた。 事件後に駅へ行く最中、家原へ問いでみた。

 どうして、私たちはこちらへ戻ってこれたのだろうか。

「風水的みたいなものかな。こういう結界の使用には、何か妖術を使うための陣が必ずあるんだ。得にあんな街全体に掛ける魔法となれば、それなりのバランスや力がが必要になる。」

 学校にあったオカルト本に似たようなことが書いてあったからな。

 この結界は一つでもバランスが崩れれば一次元、つまり元の世界とのバランスが保てなくなり崩壊する。


「春秋、俺はお前に謝らなくてはならないことがある。」

 そう言いだすのに、時間はかからなかった。

 思いとどまった重い口を開かざる負えないような赴きで、彼の口は動き始めた。どうやら、話すべきではない、または姫子には聞かれちゃまずい話なのだろうことはこの態度で分かった。

「自分の中で、最初は詭弁でも述べるつもりで、過去の伝承やら、症例をあげてきたが、あらがち間違ってない結論が思いついてしまった。また、俺が言うことを戯言の一部にすぎない。」

 お前自身にとってもあまり笑える話にはならんからな。。

「サムハインって知ってるか?」

 サムハインとはイギリスアイルランドのバンシー、デュラハンに並ぶ有名な死神。それは、学生時代、ハロウィンという文化を調べる最中に何度も見るうちに覚えてしまった。

 確かにあの教会がお盆の延長戦って言った。しかし、ハロウィンには程遠い季節、そんなことを言われてもな。

「仮にだ。遠い年月の中で日本の風習と合わせるよう、日程がズレたかのせいだってある。」

 ハロウィンっていうのは元々サムハインという悪魔を崇拝する文化で復活の前の滅びを意味した儀式。10年前の大量殺人が救いの前の滅びを模範とした大量殺人と言いたい気持ちは分かる。

だがな、今じゃハロウィンは日本文化の一部であるように死者のふりして、真夜中を闊歩する祭りだ。

 死神がどうとは無理やりのこじつけでしかない。

「元々、一神教だったキリスト教徒は他の神を悪と決めつけ、崇拝を遮断した。サムハインは次第に忘れられていく中、一つの宗派がこのサムハインの崇拝を辞めなかった。多神教で邪心であるその異宗派は十字に三日月のマークの宗教のシンボルであったこと。」

 本当に詭弁だ。そう投げ捨てても構わなかった。

 しかし、笑わない家原に脅されてか、それ以上首を突っ込むわけにはいかなかった。

「一華さんは生きていた。当初の目的が果たせれば、俺はそれ以上は望まない。それでいいか?」

 それを推定するも何も、考えれば考えるほど謎に包まれるようだ。

 自分にとっても、今彼女が目の前にいる事実の他には何もいらなかった。

 昨日や今日のことが嘘だと考えれば、考えるほど、それが事実となり嘘だと信じることができるようになった。

 そんなことをして何になるのか。

 家原の詭弁は事件と共に事実となり、口に出せない言葉の意味も何となく分かる。

 祖母は何かと秘密主義だった。その真実がこんな結果なのだろうか。
















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