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夜伽は片思い  作者: 林原こうた
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プロローグ

   プロローグ


 男女も見分けのつかないぐらい幼い子供は一人の老婆に抱えられていた。

 もう一人その奥、日が薄暗くまだ残る紺色の中、森の崩れた教会には男性が建っていた。

 老婆はその男は何かを語っているようだ。


 目の前の男性はもう手遅れといったところだろうか。

 漆黒のローブに隠された華奢な身体には、何か満ち溢れた死臭が漂う。

 

 彼は多量の子供の生命と引き換えに、悪魔を召喚した。

 その悪魔――人々からは『死神』と崇められる悪魔は、人を死へと誘うと同時に人の生命を引き延ばす能力がある。

 この死神はどのような能力かは召喚した人間にも分からない。

 また、どのような望みで召喚されたのかは定かではなかった。


 しかし、契約は未完成。

 さきほどから召喚を行ったはずの男が悶え苦しんでいるのは、その未完成の代償を自らの身体で補おうとした末路。


 男は、この老婆が抱える


 目だけはふやけた肌の老婆を離さない。

 怒りに満ちた目からは、彼の老婆に対する苛立ちが伺える。おそらくこの老婆の阻みのせいで、彼の悪魔召喚に対する儀式は失敗したのだろう。

 老婆は一度、子供を降ろすと、すぐさま隠していた銀盤のような手裏剣を男に向かって投げた。

 男はこれを薙ぎ払うように、手から闇の波動を老婆へと貶すようなふくみ笑いを浮かべて放つ。



 興内のほうでは誰かの叫び声が聞こえる。

 幼い少女の様だ。

 ここにも一人、迷子と思われる少女が転んで泥で汚した服装で天に向かって、泣き叫んでいた。神社興内では、そんな子供には見向きもしないで、大人たちが狂人のいる神殿から慌てふためきながら走り逃げていた。神社のあちこちから煙が立ち上る。

 その中で、ひとりの青年と思わし者が彼女を脇へと抱え込んだ。

 少女が叫ぶ。

 青年へと助けを乞うているようにも見える。

「いやああああああ」

「まだ、奥には友達やお母さんがいるんです。。」

 脇に抱えられながらも両手をバタバタさて、必死に彼に訴えかけたが、青年は見向きもしなかった。ただ、ひたすら、足が悶えるかぎりの力を振り絞って、一目散に火跡となったこの場から逃げ出した。


 この奥で私服の婦人らしき女性が弱弱しくも、この神殿を壊した元凶と思われる狂人の前に立っている。

 すでに何回かの争いの後なのか、ワインレッドのブラウスは裂けて、そこには滴るように血が垂れ下がっていた。狂人とのこの大きさは子供一人分の差はあり、あまりにも勝ち目はないようにみえる。まわりは焼きのめされて、近くでは火薬が爆発したような匂いや音が何度も響き渡っていた。

 女は左手には短剣が握られていた。

 刃渡り三十㎝に満たないこの短剣を狂人に向けて、口元で詠唱を唱えている。

 それに気づいた、狂人は反射中枢を通らなかったかのような、身動きで彼女のそれを止めに前へと出た。しかし、一歩有した彼女は、両の手と左足を前へと踏み出し、その瞬間に手の間に気功法のような真空の風を舞い上がらせた。

 一歩遅れた狂人の身体は垂直方向に崩れた神殿の藻屑へと減り込むように姿を消した。

 女性は一矢報いたとは思えないほど、真剣の目で、未だに瓦礫のほうへと詠唱を続けていた。

 女性は分かっていた。味方が壊滅状態の今、助けなど来ない。

 たぶん、私は死ぬのだろうと、祈るようにそっと両目を瞑った。



 真夜中の教会の中、老婆の前には、引き裂かれた人形があった。

 ガラスから太陽の陽ざしが差し、その人形の入った箱を浮かび上がらせている。

 老婆は、右手のロザリオを人形の前へと垂らした。

 老女は俯きながら、裂けた人形を眺めていると、その右わきから小さな手が伸びた。

 老婆がロザリオを握った掌へ銀髪の少女が被せるように手を乗せた。



 一九八五年八月三十一日、子供にとって夏休み最終日に行われたこの祭りの前日から奇怪な子供の誘拐事件が多発していた。

 この多発性火災は、不明の花火など発火装置による偶発的または悪戯的発火が原因ということで片づけられた。

 そのことは世に流されることはなかった。

 新聞には多発した火災、花火のトラブルで、死者20名ほどという奇怪な死亡事故として片づけられた。









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