呉福妹の場合 11
第二十一節
「実は今だから言えるんですが、今日の戦略も万全のものじゃないんです」
「何だと?」
「最初から変身した状態なら、別の相手と戦う際に非常に有利になる…という戦略は既に広く知られてるんです」
「…そう…なのか?」
「ええ。その戦略ばかり使って勝ち抜くコンビやチームがそれほどいないのは、メタモル・ファイター同士が余り仲が良くなく、共闘が成立しないからです」
「今日の戦いにしても、もしもどちらかが裏切ったらどうなってたと思います?戦略として成立しないでしょ?」
確かにそうだ。目の前の対戦相手にこそ操られにくくなるが、そもそも最初の相手に操られたらどうしようもない。
「そもそも『メタモル・ファイトは掛け持ち出来ない』ルールだって僕らが偶然知っていたに過ぎません。分からないことが多すぎます」
「だったら何だってんだ?」
「橋場さんは望んでいないそうですが、これから間違いなく色んなメタモル・ファイターが現れて戦いを挑んでくるでしょうし、多かれ少なかれそれに纏わるトラブルに巻き込まれ続けるでしょう」
「オレが全部撃退してやるぜ!」
「武林さんはいいから」
「ちえっ」
「とにかく、何が起こるか分からないんです」
「俺は勝負は受けんぞ」
「だから望むと望まざるとに関わらずですって。今日だって自ら望んだ試合なんかじゃないでしょ?」
「…そりゃ」
「だから友好関係は保持しておきましょうよ。これからに備えて。何より」
「…何だよ」
「折角知り合ったんですから。“男同士”の友情ってことで」
第二十二節
そのやりとりを声が聞こえる範囲で聞いていた人物がいた。
潮崎美夕だった。
…今の話は一体何なのかしら?お芝居の稽古?新しいアニメだかの展開?設定?
遠くからだったし、半分くらいしか聞き取れなかったけど…どういうことなの?
*橋場英男 メタモル・ファイト戦績 二勝〇敗一引き分け 性転換回数二回
*斎賀健二 メタモル・ファイト戦績 五勝一敗一引き分け 性転換回数二回
*武林 光 メタモル・ファイト戦績 一勝一敗〇引き分け 性転換回数二回(ケンカは除外)
(続く)