呉福妹の場合 10
第十九節
「いやー今回はヒドい目に遭ったぜ」
橋場が毒つく。
「…すまんかった」
面目なさそうにする武林。
「俺たちも救出が遅れたし、今回のことはお相子で」
メガネを上げる斎賀。
「でも、意外な展開でしたね。メタモル・ファイター同士の共闘なんて史上初じゃないですか?」
「二度とゴメンだ!自ら望んで女装したみたいじゃねーか!」
「そうですか?僕は楽しかったけどなあ」
「うるさいこの変態!セーラー服マニアが!」
「そういう橋場さんこそ、ミニスカート似合ってましたよ」
「やかましい!試合以外でそういうことを言わないのがマナーだって言ったのお前だろうが!」
「…お前ら…そんな仲だったのか?」
武林が合いの手を入れてくる。
「んな訳があるか!」
「あ、でもこの三人の中で衣装交換の経験が無いのって、後はボクと武林さんくらいですよね?」
「…まあ、そういうことになるが」
「何かがあった時の為にやっときましょ?」
「バカ言うな!何で必要も無いのに女になる必要があるんだよ!」
「でも、今日はその咄嗟の機転であなた助かったんですよ?」
「ま、そりゃそうだけど…」
「そういえば、何でもお礼するって言ってましたよね?」
「確かに言ったが…」
「ならお願いしますよ。僕もあなたの操るブレザーに興味があるんで」
ごほん!と咳払いする橋場。
第二十節
「斎賀、ハッキリ言っとくぞ」
改まる橋場。
「…何ですか?」
「お前、談合の心配をしてたよな?」
「ええ」
「だんごうって何だ?」
「要するに自分たちだけで話し合ってまともな勝負をせずに落としどころを決めて置く出来レースってことだ」
「出来レース…八百長ってことか」
「まあそんな感じだ」
「それが何ですか?」
「こんな訳のわからん能力が何故この世に存在するのかオレは知ったことじゃない」
「何度も聞きました」
「今回は付き合ってやったが、オレはメタモル・ファイトなんつー変態的な娯楽に付き合う気は今後も一切無い!」
「仕方がありませんね」
「要するにオレは他人はともかく自分が変身するのなんぞまるで望んでねーんだ!」
「…一般的な男性ならそうでしょうね」
「これまで仕方なく二回変身したが、どっちもロクな思い出が無い。一刻も早く戻りたくてたまらんかったぜ。少なくともオレはそうだ」
「どうぞご勝手に」
「しかしお前は、半分楽しんでやがる。まるで女装趣味…いや、女性化願望のあんちゃんみてーにな!」
空気が静まる。
「…心外ですね」
「今日の場合は役に立ったかも知れねーが、これは変身ヒーローの変身じゃねえんだ。オレは趣味で女になる気も女装する気もねえ。やるなら勝手にやれ!しかしな!そうなったらもうお前と付き合う気は一切ないからな!」
しばし沈黙が訪れる。
「…ま、そう怒るなよ」
これは武林。
「…分かりました。すいません。確かにちょっと調子にのっていたみたいですね」
「…分かればいい」
(続く)