呉福妹の場合 06
第十一節
「いらっしゃい!いつもご利用ありがと」
切れ長の目を持つアジアン・ビューティだった。
丈の短いチャイナドレス…ではない上着みたいな服にズボンという、カンフー映画に出て来る中華料理屋の小僧みたいなスタイルだが、その美しさは際立っている。
「あ!どうも!」
思わず立ち上がってしまう武林。
適当にお辞儀をする橋場と斎賀。
「私はこの店のオーナーで店長の呉副妹です。出身は四川だけどもう日本も長いから日本人同然よ」
「いやあ、ムチャクチャ美味しいです。料理」
橋場は本心を言った。
「あらお上手。ありがとね」
「今度友達もつれてきますよ」
これは斎賀である。
「で、…さっきから面白そうな話題してるよね?」
橋場の目が光った。
「うーさん…でしたっけ…日本語お上手ですね?」
「うん。面倒くさい相手にはカタコト装ったりするけど、基本的には日本人と変わらないくらいペラペラよ」
「…僕たちってどんな話題を出してましたっけ?」
「聞き間違いだったらゴメンね…あんたたち、全員メタモル・ファイターでいいんだよね?」
ガタリ!と全員が立ち上がった。
第十二節
「…すいません。良く聞こえなかったんでもう一度いいですか?」
「そこまで露骨に反応しておいてトボけるんだ?」
「試合なら受けて立つぜ!」
考えも無く拳を振り上げる武林。
「…すいません。質問いいですか?」
「ええ。どうそ」
「お姉さん…もメタモル能力者なんですね?」
「そうよ」
「オレの知識だと、メタモル能力ってのは相手の男を女にして女装させる能力なんだけど…そういう能力なんですよね?」
にやーりとするアジアンビューティ。
「そう、その通り」
「馬鹿な!女性の能力者がいたんですか!」
意味合いに気が付いたらしい斎賀が叫んだ。
「…参考までに聞きますが、…生粋の女性ですか?」
頭をぽりぽりかいているウー。
「聞かれると思ったけど…あたしは生まれた時から女よ。元・男が戻れなくなっても続けてる訳じゃないから」
「だから何だよ!試合始めようぜ!」
「…この筋肉バカが!この意味が分からんのか!」
「…分からん」
「つまり、ボクたち男のメタモル・ファイターは万が一女性化されてしまうリスクもあるし、女装させられることによる精神的な動揺もある。しかしウーさんは…」
腕組みをして余裕綽々で聞いているウー。
「元から女だから、女に変えられることは全く恐れる必要が無い。女装だって女が女装させられてもどうってことない…」
「しかし、相手の男には性転換も女装もさせられる」
「そ…そういうことかよ!」
「今頃気が付いたのか…」
頭を抱える橋場。
(続く)




