武林光の場合 07
第十三節
「…貴様…」
何やら苦しそうにしている武林。
「お、おい!まさか!」
「純粋な力比べだと言っただろうが!」
お腹を抱えて苦しんでいる。
「まさか…お前?」
「うるさい!黙ってろ!」
そういうと、くわっと目を見開く。
おおおおおおっ!と叫ぶ武林。
「…」
はあはあぜえぜえと肩で息をしている武林。
「…危ねえところだったぞ…」
「すまん」
「貴様…オレを女にしようとしたな?」
怒りに震えている武林。
「だからすまんっって!しかしオレは警告したぞ!攻撃を食らうと無意識に発動しちまうんだ!現に今は変えようなんてイメージはしてない!」
「ふん…分かったもんじゃねえ」
ペッ!と唾を吐く武林。
「油断させておいて嘘をついて相手だけ食らわすとかよ。卑怯者が」
「だから言ったろうが!最初から!」
「だったら最初から断れよ!」
「…知らねえよ!お前の方から売ってきた勝負だろうが!」
しばし沈黙。
「お前みたいな卑怯者は見たことがねえよ。…女にして恥ずかしい恰好させてやらあ」
再び構える武林。
第十四節
橋場は焦った。
血の気が下がる。ヤバい…今度こそ…今度こそやられる。
血気にはやった男相手に、女にされるってことは…考えたくも無いことだが、考えざるを得ない。
橋場は『貞操の危機』…言葉にするならそういうことになる…を遂に身近に感じる羽目になった。
とはいえ、それはこれまで橋場自身が散々人にやってきたことだ。
それを自分だけが食らいたがらないというのはムシがいいとも言える。
…いや、それはおかしいぞ。
これまで橋場がその手に掛けてきた相手は問答無用のカツアゲ野郎や、先日の外道運動部連中などばかりだ。
橋場が今、メタモル・ファイターとやらを目の前にして「男の危機」を感じさせられている理由は何だと言うのか?それは必要のない戦い、「メタモル・ファイト」に強引に巻き込まれたからではないか。
「あーやめだ!やめやめ!中止!」
橋場は大声を上げて両手を上げた。
(続く)