武林光の場合 04
第七節
「それにしてもさっきの怪物ってなんであんな昆虫の出来損ないみたいな形してるのかなあ?」
「怪物?」
「うん。名前は分からんかったけど」
「ああ、あの着ぐるみね」
「そうそう」
「でも…特撮の怪人ってあんな感じじゃない?」
適当な答えだ。
「でもその…折角ならテーマにあった姿かたちっていうか…」
「例えばどんな?」
「あいつが人をカブト虫みたいな形にしちゃうってんならともかく…例えばその」
美夕が少し考えてから言う。
「オネエとか」
「普通の人間じゃねえか!」
楽しそうに言う橋場。
「右半分は男で、左半分が女とかね」
「そうそう!そういう感じだよ!」
「でもその人って…ブラジャー半分だけ付けるのかな」
「そこの心配?」
「だって結構大変じゃん」
「女の方はともかく男の方はブラ男になっちまうじゃねえか」
「だから、特注の…男の方にはカップ無しのブラとか」
「そもそもしねえよ。怪物は下着とか」
うーん、と考え込んでいる美夕。
「半分だけズボンは簡単だけと、半分だけスカートは意味が無いよね」
「だからどうでもいいんだって!」
二人で爆笑する。
徐々に雰囲気が溶けてきた。
第八節
「よお、女連れのところすまねえな」
目の前に立ちふさがった男がいた。
びくっ!とする美夕。
橋場がねめつける。
「…誰ですか?」
言葉は丁寧だが脅す口調で返す橋場。
「ふん…分かってるクセに何を言ってやがる」
その男は不敵に言い放つ。
事情を知らない第三者がいるんだから考えろ!と必死に目で合図を送る橋場。
ふふん、と鼻を鳴らす謎の男。
「今日はもう夕方だ。デートはそこまでってことでどうだい」
「…そうだな」
おびえている美夕。
「悪いけどここで今日はお別れってことで」
「…橋場くん…?」
「大丈夫。心配いらない。こいつはその…ボウリング仲間さ」
「そーそー。そういうこと」
聞こえていたらしい。
「お互いのタマを獲りあうちょっと変わった球技さ」
「…?それで対戦して遊ぶの?今から?」
もう夕方で、渋谷の街も夜モードに突入しつつある。
「ま…」
周囲を見渡す橋場。
「そういうことだ」
(続く)