武林光の場合 03
第五節
スカートから覗く脚線美は、その部分だけ見つめてしまうと何やらムラムラしてこなくも無かったが、全体を通してみれば肩幅も広いし、やはり「男性の女装」だった。
「脚きれーい」
橋場は余りまじまじ見なかったが、髪型は男のままで女性用のメイクは特にしていないみたいだった。
そして、怪人・昆虫男の前で同じ演技をするOL…姿の男性。
ははあそういうことか…。
やっと少しからくりが分かってくる。
このシーンの撮影も滞りなく終わり、満を持して先ほどの男性サラリーマンコスプレをさせられていた美人女優さんが登場する。
もちろん、先ほどの男性がしていたピンク色のOL制服でだ。
観客からどよめきが上がった。
「やっぱり女優さんって綺麗だねー!」
「うん…ああ」
橋場にはこのシーンの意図が分かった。
「な、何だこれはー!」
女優さんは必死になってガサツな芝居をしているつもりだったのだろうが、恐ろしく棒読みである。
『ふわはははは!この光線を浴びたものは、女は男に、男は女になってしまうのだー!』
怪人・昆虫男はどうやらそういう設定らしい。
4バージョンも同じシーンを撮ったのは、コンピュータグラフィック処理をする予算が無いので、4種類の映像を混ぜ合わせて「変身」しているように見せかける編集を行う積りなんだろう。
「すごいねー!」
「う~ん、そうかなあ」
第六節
駅までの道すがらは、もっぱらさっきの特撮の話だった。
「橋場くんってさあ、やっぱり子供の頃ってああいうのになりたいと思ってたの?」
「ああいうのって…変身ヒーローとかってこと?」
「うん。何とかライダーとか何とかレンジャーとか」
「詳しいね」
「別に詳しくないけど…みんなそんな感じの名前じゃん」
「そうだなあ…人並みにごっこ遊びとかはしたけど、なりたいと思ってたかどうか」
地方ということもあってか、近所の子供と一緒に遊んでいたりはした。
その時にごっこ遊びをした覚えは確かにある。
だが、それが何レンジャーだったのかすら覚えていない。そもそも幼稚園の頃の話だ。小学生になる頃にはもう『卒業』している。
「じゃあその…ああいう目に遭ってみたいとか思ったりする?」
橋場は心臓がドキリ!とした。
「ん?…それはどういう…」
「あ!いやゴメン!深い意味はないの!ただ何となくさあ」
「あはは…」
力なく笑う橋場。
「ほら!よく男の人って女になってみたいとか女装してみたいとか言うじゃない?」
「じょそう」という単語の音が耳触りだった。
橋場は思った。
実はどちらかというとさっきの「怪人・昆虫男」の方の立場なんだよ…と。
「いや…別にないよそんなの」
「だ、だよねー!あはは!ゴメンゴメン」
気まずい雰囲気を誤魔化そうを努めて明るく振る舞おうとする美夕。
この空気はよくないので橋場は自分から話題を振った。
(続く)