武林光の場合 02
第三節
『ふぉふぉふぉ!私の能力をくらえ~い!』
そこにはいかにも安っぽい着ぐるみの『怪物』が勝ち誇って日本語でしゃべっていた。
何というか、カブト虫とクワガタのいいところを全部取らずに合成した上で巨大化し、二三十発ぶん殴った感じだ。
そもそも人間の口に当たるものが全く見えないのにこいつはどの器官で日本語を喋っているのか。
「うわ~ああああ!!!」
ごく普通のサラリーマン風の男がうめいている。
どうやら特撮番組のロケをやっているみたいだ。
「あー…子供の頃に見てたよこんなの」
橋場が言う。
「今だって子供じゃん」
「今よりもっとだよ」
「カット!」の声が上がって芝居がストップする。
スタッフやらキャストやらが集合したり出たり入ったりしている。どうやら先ほど撮影していたシーンはあれでいいらしい。
折角なので周囲を見回したが、何という番組なのかは良く分からない。
「オレ、こういうの詳しくないんだよなあ」
「あたしもー。でも従兄弟のお兄ちゃんなら知ってるかも」
そうこうする内に何故かサラリーマン風のスーツにネクタイに身を包んだ女優さんが現れた。
その女優さんに男性的なところは皆無で、髪型も背中までのストレートロングのままである。明らかに「似合わない男装」そのものだった。
第四節
「あれってどういうことかな?」
「いや、良く分からない」
何か嫌な予感がする。
手際よく撮影が再開された。
「ぐわあ…」
女優さんが、怪人・昆虫男(今適当に命名)の目の前で苦しみ始めた。
「はいカット!」
「…どうする?このまま見る?」
「うん見る」
「こんなの好きだったとはね」
「別に好きじゃないけど、滅多にないことじゃない偶然出会うなんてさ」
ま、確かにそうだ。上京早々にこんなのに出会うとは幸運…かどうかは分からないが、滅多にない偶然には違いない。
少し観客がどよめいた。
「何だなんだ?…っ!?」
「きゃー!何あれーっ!」
美夕が楽しそうに言った。
そこには、先ほど苦しむ演技をしていた男性俳優が着替えを完了して再登場していた。
…が、そのスタイルはピンク色のベストに純白のブラウス、胸もブラジャーに詰め物をしているのか盛り上がっており、膝丈のピンクのタイトスカートに身を包んでいる。
ご丁寧に脚は無駄毛ひとつなく処理されており、どうやら肌色よりも若干白くなるストッキングまで履いている様だった。
その男性は「女性事務員」…OLの制服姿に女装していたのだ。
眉をしかめる橋場。何だこりゃ?
(続く)