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斎賀健二の場合 21


 第三十七節


「ボクがあなたをいたぶっていると思うでしょ?」

 息が切れている橋場。寝たきりでもニートでもないが、スポーツ万能でもない。あの強靭な肉体は、すっかり精神が追いつめられ、疲労が噴き出して来ていた。

 対等の能力を持つ相手との初めての対戦で、必要以上にガチガチに緊張してしまっているのである。

「違いますよ!僕はそんなにサディスティックじゃないんでね。こうやって相手を精神的に追い詰めるんです。精神が折れ切ったところで仕掛けます。所詮は相手の精神を折るゲームですから!」

「うわああああっ!」

 足元の凸凹(でこぼこ)に後ずさりした足が乗り上げた。

 同時におかしな具合に足が滑り、なんと真後ろに下半身だけが飛ばされるかの様に目一杯滑った。その場で腰を軸に回転する様な形になったのだ。

「なっ!」

 目の前に来ていた斎賀の胸に頭突きを食らわす!

 二人はもんどりうって倒れ、転がってお互いに上半身を起こし、伏せの姿勢で睨みあった。

「…やりますね。相手の呼吸を読むボクにとっては、本人すら予想しない攻撃は防げませんで…し…たぁぁぁぁぁあああっ!」

 斎賀がすっとんきょうな声を上げた。

 髪がぐんぐんと伸びて来ていた。



 第三十八節


「な…こ…これは…そんな…」

 これまでの橋場の被害者たちと同じだった。

 斎賀の目の前に翳された自らの手は、元々スマートではあったが、尚更細く長く美しくなっていく。

「て、抵抗を…精神的な抵抗を…」

 これは見たことが無かった。

 脚が内股に閉じようとしたり、反発して開いたりを繰り返している。

「だ…駄目だ…たすけ…て…」

 ぎゅうっと両脚が閉じ、脚全体がぷっくりと上が膨らむ女性のそれになっていく斎賀。

 お尻が丸く膨らみ、ウェストが締まっていく。

 伏せの姿勢から立ち上がる橋場。

 もう相手の攻撃を心配しなくてもよさそうだ。

「は…しばさん…」

「俺の名前を…」

「調べて…ましたから…あああああっ!」

 ぎゅうんっ!と肩幅が狭まり、なで肩になる。顔の造形が尚更整い、髪の毛が長く伸び、つややかな光沢が乗り、切りそろえられたかの様に綺麗に毛先が揃う。

「し…下着…も…」

「すまん。俺には止められん」

「分かって…ますけど…」

 この能力を食らったことが無い橋場には苦しいものなのかどうかも分からない。

 恐らく、パンティが履かされ、ブラジャーが装着されたのであろう度に小さく「うっ!うっ!」とうめく斎賀を見ていることしか出来ない。

「あなた…どうして…攻撃の意思もなく攻撃を…すること…が」

 橋場は、ミリお姉さんが馬乗りになってきた時のことを思い出していた。

「お前への慰めになるかどうか分からんが…俺は特に攻撃に対してカウンター気味にメタモル能力とやらを繰り出す体質らしい」

 ネクタイがスカーフになり、ワイシャツの襟が大きく黒くなり、セーラー服の上半身が形成されていく。

「足が滑った瞬間に…それが発動して…その時触ったボクに…」

「…その様だ」

 綺麗なズボンのチェック柄が消滅していく。真っ黒に染まり、プリーツが入っていく。

「ぁはっ!…こ。これが…スリップ…」

 外からは分からないが、内部ではスリップが乙女の柔肌に密着し、動くたびに官能的な感触をもたらしているらしい。

 もう変身は最終段階に入っていた。

 ズボン全体が飴のように変形し、全体が筒状となる。

 そして、腰部分にホックが形成され、ズボンだったものがぶわりと広がった。

「あああっ!」

 夢の様にはらりとプリーツスカートが垂れる。


 ついさっきまでブレザーの美少年だった斎賀健二は、今やセーラー服の女子高生となってしまった。



(続く)


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