斎賀健二の場合 20
第三十五節
「それは…メタモル・ファイトの勝利数という意味ですよね?」
「ああ。それ以外は含まない」
しばし沈黙。
「五人…です」
まばたきをする橋場。
「ほう…昔ならエースってところか」
「撃墜数ですか。今でもエースですよ」
「倒した相手の能力は?」
「最後の質問だったのでは?」
「答えたくなきゃいい」
「学校の制服が多かったですね。セーラー服もいましたよ。ただ、ちょっと変わったデザインだったので面白くなかったですけどね」
「じゃあ…始めるか」
「どうぞ」
お互いに睨みあう。
人気のない河原だ。
冷たい風が吹き抜け、月が不気味に光っている。
戦うといってもどうすればいいんだろうか?
皆目見当が付かない。
普通の相手ならば触ってしまえば後はスカートめくってきゃーっ!ってなもんだ。
だが、この相手はそうはいかない。
下手に近づいて触られた日には…ブレザーの女子高生ってことになる。
ブレザーはどうでもいいが、女になるのは嫌だ。
しかも、マンガやアニメに出て来る都合のいい変身能力ではない。
女になって可愛らしいコスプレをし、一段落したら男になってめでたしめでたしを繰り返すお手軽能力ではないのだ。
心臓が早鐘の様に鳴っているのが分かる。
スカートかぁ…スカートってどんな感じなんだろう。
いや、スカートそのものは履こうと思えば男だって履ける。形状は極めて単純なんだから、感触の想像くらい出来る。ただ、それを女の身体で履くとなると全く違うはずだ。
健全な男の子として、男性器が無くなってしまうのは絶対に嫌だ。
しかも…こいつに女にされれば、その後抱きしめてキスされるってのか?
その後も一生女として生きて行かなくちゃならないとなると…しょ、将来男とセックスしろってのか?冗談じゃない!
「ほらほら!突っ立ってても終わらないですよ!」
少し姿勢を低く構えたと思ったら拳を突き出して斎賀が突進してきた。
「うわわっ!」
第三十六節
間一髪でのけ反ってかわす橋場。
ぜーぜーと肩で息をしている。
「甘い!ほーら!」
ぽん、と肩を叩かれる橋場。
「うわあああああっ!」
全身の血の気が下がる橋場。
同時に爆笑する斎賀。
「あーっはっはっは!今のはただ触っただけですよ。念を込めずにね」
ゆっくりと手を目の前に持って来る橋場。特に変化の兆候は見られない。
「余りにも張り合いが無いのは困るんで説明をして差し上げたんですが…これは手合い違いですかね」
「き…貴様…」
とはいうものの、完全に気おくれしてしまっている橋場だった。
これまでは一方的な加害者側だったのだが、立場が対等になった瞬間にここまで狼狽してしまうとは情けなかった。
「戦いは間合いと呼吸です。相手の心理を読んで対応策を講じる。それの繰り返しです」
また手の届く距離まで近寄ってくる斎賀。
ひゅっ!ひゅっ!と指先を伸ばして来るが、それをすんでのところでかわし続ける。
逃げ出さないのは、背後を見せて振り返った瞬間にべったりと触られてしまうことが感じられたからだ。
「だから楽しいんですよ!ゲームですよこれはゲーム!」
(続く)