斎賀健二の場合 16
第二十七節
「…申し訳ない。まだそんな学校が都内にあったとは」
「うるせえよ」
「本当に高校?中学じゃなくて?」
「正真正銘の高校だよ!公立だけどな」
「はあ…なるほどね」
「そんなことはどうでもいい!…お前、何者だ?」
「…固有名詞にそれほどの意味があるかどうかは分からないが、姓名は斎賀健二だ。見ての通りのメタモル能力使いだ」
「め、メタ…何だって?」
失笑する斎賀。メガネをくいっと上げる。
「まあ、知らないのも無理はない。キミは今までたった一人で戦ってきたんだろ?一般人相手に」
橋場は、自分以外で他人を…具体的に言えば男を女に性転換し、強制的に女装させてしまう能力の使い手を初めて見た。
「知っての通り、ボクらには能力がある。男性を女性へと性転換させ、女装させる能力だ。実は女性に対しても使えるがね」
「え?そうなのか?」
「やはり知らないのか…使えるよ。まあ、男性に対して使うのに比べれば受ける側の精神的ショックは小さいだろうがね」
考え込む橋場。
「ともかく、この能力は「メタモルフォーゼ」から由来して「メタモル能力」と呼ばれる。工夫が無いが、まあ何となくそういう呼び方が定着してきたってところだ」
「なん…だと?じゃあ俺たち以外にもいるのか?」
「ああいる。大勢ね。大っぴらにはされていないが」
何てことだ。
第二十八節
「相手に接触することで能力を発現することが出来る。一旦触れてしまえば変化が終わるまでノンストップだ。まあ、色々アレンジすることは出来る。それは知ってるね?」
「…まあな」
「どれくらいまで知ってる?」
「…」
視線をそらさずに考える橋場。
…ここでベラベラ喋ってしまっていいものなのだろうか?
「あ、心配いらないよ。少なくともキミが知ってることでボクが知らないことは何もない。どの程度まで知ってるか確かめてから補足してあげようと思ってね」
「…」
「分かったよ。じゃあこっちが勝手に喋るから聞いておいてくれ」
「相手に攻撃する意思が無いと発現しない」
橋場が口を衝いた。
「…そう。流石だね」
「それで?」
「ボクたちに能力を仕掛けられた人間は元に戻ることは出来ない。といってもそれは肉体の話で、着ている服をその後着替えたりすることは問題ない」
そりゃそうだろ。
「メタモル能力者は、相手を性転換させる能力と、一人一種類の衣装アレンジ能力を持つ。キミのセーラー冬服、ボクのブレザーみたいな具合だ」
「…他にもいるんだな。別の種類の能力者が」
「いるよ。正に千差万別。バラエティ豊かで面白い」
周囲が騒がしくなってきた。
「河岸を変えようか?」
(続く)