斎賀健二の場合 10
第十四節
体育倉庫に入ると、振り返らずに後ろ手に内側から鍵を掛ける。
あちこちに、加激されたダメージを引きずっている男どもがうずくまっている。
さて…この馬鹿どもをどうしたものか。
「へ…へへへ…あんた強いな」
ダメージが少なかったのか、先ほどの乱闘に巻き込まれなかったのか、ほぼ服を着たままの男が歩み寄ってきた。
「見たとこ高校生か…若いねえ」
「だから何だ」
初めてここに来て意味のある言葉を喋った。
「おーこわいこわい。正義の味方か?オレたちゃ女の敵か?」
「うるせーよカスが」
男は何故か全くうろたえることなく、落ち着いてポケットからタバコを取り出してライターで火をつけた。
すぱーっと煙を上向きに吐く。
その間も周囲からはうめき声が続いている。
「吸うかい?」
「いらん」
ニヤニヤする男。
「おおかた、女に頼まれてやってきた用心棒ってところだ。さもなきゃ関係者。違うかね」
「だったらどうなんだ」
「キミみたいな若者は知らんだろうが、俺たちがやってるのは生物として普通のことだ」
「聞きたくない」
「いいから聞きたまえ。きっと僕たち全員をぶちのめすまで帰る気は無いんだろ?」
どっかと腰を下ろす男。その椅子には「副部長」と書いてあったのでこいつを「副部長」と呼称する。
「まあな」
周囲を見渡す副部長。
「その若さでたった一人でこれだけの人数をブチのめすとは…キミはかなり強いね」
「だから…だったら何なんだよ!?」
「そう怒るな。キミが本気になればボクは全く適わないよ。ひ弱だからね。ブチのめしたいんならブチのめすといい。ただ、誤解は解いてくれ」
「…」
第十五節
「きっと一方的な報道を信じてやってきたんだろ?夜ごと女性を手籠めにしているケダモノ集団だってね」
「違うのかよ」
「行っていることは事実だ。だが!」
突如大声を出す副部長。
「まさか男女のセックスそのものが汚らわしいなどとは言うまいね」
「はぁ?」
「今時高校生で童貞でもあるまいが…キミはそういう雰囲気がプンプンだ。…そうだろ?」
「うるせえ」
「図星かね。まあいい」
次のタバコに火を付ける副部長。
「我が部は基本的にセックスは全て合意の上だ。責任ある大人として何も問題は無い」
「その結果が裁判か?調子のいいこと言ってんじゃねえ!」
ちっちっち、と指を振る副部長。
「どの与太記事を読んできたのか知らんが、裁判まで進んだ例は無い。過去に一度もね」
「じゃああれだけの不満をどう説明する?」
「直接聞いたのか?」
自信満々に言う副部長。
「どうした?直接本人に聞いたのかとボクが聞いてるんだ。レイプされたんですか?ってさ」
「…直接は聞いてない」
「ヒドいな。キミは三流イエローペーパーの記事を元に突然飛び込んできて善良なスポーツ推薦大学生たちに暴力をふるう訳だ」
「…さっきの高校生は何だ?」
「あれも合意の上だよ」
ふう、とため息をつく橋場。
「お前さんとは日本語の定義が違うらしい。二度とレイプしないと誓え」
威嚇のため、ボキボキと指を慣らす橋場。
(続く)