斎賀健二の場合 09
第十二節
「こ、ここだ…」
部長は苦しそうに言った。
「ふん、そうかい」
橋場は感心なさそうに答える。
アジトを突き止めるのは簡単だった。
バカ大学生どもは、平日の日中はホコリまみれの体育倉庫でだべり、週末には合コンに繰り出しているらしいのだ。
「開けな」
「…お前…タダで済むと思ってるのか?」
「いいから開けろ」
構わず大学構内に歩を進めると、遠からず「部長」は見つかった。
美夕に聞いた人相風体にピタリと一致する。
美夕の名前を出すと表情がこわばった。
人けのないところに引っ張って行かれ、それ以上の話をしようとした瞬間に殴り掛かられた。
普通に戦って橋場にかなう人間などそうはいない。
忽ちの内にのされ、腕をひねり上げられて「アジト」たる部室まで引っ張ってこられたのだ。
ガンガン!と扉を叩く。
「オレだ!」
しばし沈黙。
運動部の部長というから、さぞ先日のストーカーの様にゴリラみたいなのかと思っていたが、下手すると学者然としたスマートな男だったので驚いた。
丸いメガネが激しい運動というよりは研究の方がに合っている。
返事が無いことに業を煮やした橋場は、構わず引き戸に手を掛けた。
内側から鍵が掛かっているのか中々動かなかったが、思い切り力を入れて強引に開けた!
第十三節
明けた瞬間にもうもうと立ち上ったホコリが吹き上がってきた。
中は薄暗い。
「たす…け」
橋場の目に飛び込んで来た、服を半分破り取られた少女の泣き顔だった。
その衣類は、橋場の学校のものではなかったが、明らかに高校の女子の制服だった。
そしてその周囲には、小汚い尻を丸出しにした男たちが集団で取り囲んでいる。
「まだ開けるんじゃねえ!」
橋場はこめかみがぴくぴくとうごめき、脳の血管が怒りでブチブチとキレるのを感じた。
「…貴様ら…」
次の瞬間、後頭部に強烈な打撃を感じた。
ゆっくり振り返ると、そこには角材を橋場の後頭部に叩き込んだばかりの部長がいた。
そこから暫くは橋場は自分でもどう動いたのか覚えていない。激しく動き回った。
部長のみぞおちにパンチを叩き込み、手前の男の尻に靴のつま先を蹴り込む。
女子高生の上にのしかかろうとしていた男の顔面に掌底をぶち込み、横にいた二人を突き飛ばし、放り投げる。
半裸の女子高生を抱き上げ、そして倉庫を飛び出した。
乱暴に入り口を占める。絶対逃がさん!
ゆっくりと被害者の女子高生を地面に横たえ、学ランを脱いで上から羽織らせる。せめて隠さなくては。
ショックで口もきけない女子高生を尻目に立ち上がると、ゆっくりと体育倉庫をねめつけた。
(続く)