橋場英男の場合 03
第二節。
目の前を、目出し帽を被り、ミリタリールックで固めた厳しい表情のいかつい犯人が通り過ぎる。
橋場はロッカーの中でそれを見た。
…連中、無人の筈の校内を巡回することまでやってら…。
橋場は手際の良さに改めて感心した。間違いなく素人じゃない。
その割には一人だけというのが解せない。必ず二人組以上で行うべきだ。
まあ、流石に人手不足なんだろう。これは仕方が無い。
ウチの高校は街中に突如グラウンドが出現するタイプではなくて、地元の山を利用して作られたもので、周囲から地形的に孤立している。
だからこそ少人数で占拠できると考えたのだろう。
その狙い自体は悪いものじゃない。
日本は警察に限らず総じて優秀だが、いざ責任を取らなくてはならない場面となると途端に動きが鈍くなる。
報道管制が敷かれているのか、インターネットのニュースでは全く流れてこないが、交渉がスムースに行っていないのは間違いなさそうだ。
橋場は、普通にロッカーを開けた。
バコン!という空気を読まない音がする。
橋場から向かって右側に位置していた犯人の一人は、奥に向かって歩いていた状態から咄嗟に振り返る。
全速力で犯人に向かって突撃する橋場。
「お、おいいいっ!!!!!」
驚きの方が大きかったらしい犯人は身体ごと向き直り、銃を腰だめに構えたところで橋場が飛び掛かり、顔面にパンチを見舞った。
橋場は空中で倒れ込もうとする相手の正面に構えられたライフルの銃身を左手で掴み、射線を右方向に逸らす。
けたたましい音と共に数発が連射され、ガラス窓が砕け散った。
後方に倒れ込んだ犯人だったが、無防備に背中や後頭部を強打したりはせず、身体を捻ってダメージを最小限にする。
もんどりうって転がり、起き上がって相手を伺う橋場。
同じくすぐさま体制を立て直す犯人。
「…貴様…っ?」
何とも可愛らしい声だった。
「…え?…えええええええっ!!?!?」
そこには突如飛び掛かるように殴られても手放さなかったライフルは無かった。そこには金属部品に黒光りする皮も立派な「学生カバン」があった。
何より、全身を襲う違和感が半端ではなかった。
ガチガチに固めていた「強盗犯」ルックの拘束感とは全く違う拘束感と、そして何故か開放感に襲われていた。
(続く)