斎賀健二の場合 01
第二章 斎賀健二の場合
第一節
普通の人間はそれほどトラブルに巻き込まれたりはしないものだ。
本当に平凡な高校生であるならば、アニメや漫画の登場人物の様に次々に事件に巻き込まれたりはしない。
橋場英男もそうだった。
だが、出来ることがあるならばやってみたくはなる。自分にその能力があり、それを支払うことに何のためらいも無いのならば尚更だ。
「…」
橋場は目の前のアンパンと紙パックの牛乳の空き箱の入ったコンビニ袋を見下ろしていた。
邪魔になるが、無暗にその辺に捨てるのは良くない。
目標が補足できる距離にいた。
色々考えていたが、面倒なので行動を起こすことにした。
周囲を見渡しながら慎重に近づく。
そして、物陰からへばりついて校門を覗いている男の背後を取った。
「あの…すいません」
口調こそ穏やかだが、ぶっきらぼうな調子で聞いてみた。
その男は少しだけ肩がびくっとしたが、すぐにまっすぐに姿勢を戻して橋場に向かい合った。
「…何だ」
意外だった。
ストーカーとなれば、薄気味の悪いモテない男だとばかり思っていたからだ。
その男は見るからに筋肉質だった。
身長は百八十を遥かに越え、コブの様に盛り上がった顔が周囲を威圧する雰囲気を醸し出している。
細く引き締まった精悍さを持つ、陸上選手や水泳選手タイプではなく、筋骨隆々とした重量挙げやレスリングタイプのアスリートという風情だ。
「あの学校の者なんですけど、何か用ですか?」
橋場は敢えて面倒くさそうな雰囲気を強調して話しかけた。馬鹿っぽさを演出した積りである。
「…お前に何か関係あんのか?」
社交辞令の敬語も使わず、いきなりケンカ腰である。かなりピリピリしている。
「関係ありますよ。あの学校の生徒なんで」
転校してきたばかりで、愛校精神なんてものが育ってはいないが、それでも生徒として通っている以上、関係ない訳が無い。
「失せろ」
「そうします。あなたも帰ってください」
次の瞬間、目の前の空気が切り裂かれた。
(続く)