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橋場英男の場合 02

『我々が何かを要求するのは君たちに対してではない。君たちは被害者ではなく、ゲストだ。妙なヒーロー願望を起こすな。それがお互いのためだ』

 男子生徒の中にも泣いているのもいたが、多くは死んだような目でうつろに前方を見つめるだけだ。

『君たちも撃たれたくはないだろう。我々だって撃ちたくはない』

 まあ、それはそうだろうな…と橋場は思った。

『我々は無差別テロリストではない。要求さえ通るなら無意味に人を傷つけることはしない』

 生徒の前で縛られている担任と副担任も項垂れることしか出来ない。

『だが、余りにも我々の手におえないと判断すれば、人質を射殺することをためらうものではない。それを覚悟することだ』

 嘘だな…と橋場は思った。

 本当に要求だけをしたいなら何も公立高校の生徒三百人を人質にとる必要はない。交渉したいからこそ人質を取る訳だ。

 ただ、『撃ちたくない』という部分は本当だろう。

 何も生徒たちを気遣っての事ではない。人質を傷つけたり、ましてや殺したりすれば警官隊や機動隊その他の突入の口実になりえる。まとまる交渉もまとあらなくなってしまう。

『以上だ。状況は追って報告する。なにすぐに終わるさ。それまで教科書でも読んでいたまえ』

 ぶつり、と放送が切れた。

 言葉では「大人しくしていないと殺す」と言ったが、強く言うことで反乱の気運を萎えさせるのは悪いことじゃない。

 また、ほとんど何も分からないとはいえ、一応状況めいたものを報告してくれたことで人質も不安が若干は解消される。

 なるほどこれだけの無茶な行動を取りまとめるだけのことはあってリーダーは頭の切れる人物らしい。

 ただ、「教科書でも読んでおけ」は気になる。

 これは「すぐ終わる」という念押しとは裏腹に交渉が難航していて、時間が掛かるということの暗喩だろう。或いは校舎内に散らばった仲間への何らかの符牒である可能性がある。

 もちろん、そこまでは分からないのだが。

 …と、言うような推理を橋場は廊下のロッカーの中でしていた。

 教室が占拠され始めるのと同時に飛び出してロッカーに隠れたのだ。


 犯人たちの行動は統率されていて素早く、迷いが無かった。

 授業の真っ最中を狙った犯行であり、グラウンドを使用している学年が皆無の時間帯だったため、ほとんど全ての生徒が拘束された。

 中には偶然トイレに行っていたりして、難を逃れた生徒もいたらしいが、犯人はリスクを覚悟で黙殺した。

 実に迷いが無い。

 怪我人が出た時の対処として、保健室を占拠することも忘れず、擁護の女性教諭を待機させている。

 各教室に教師を分散させたままにしているのは、職員室などで「大人」を固めていると反乱された時にやっかいだからだろう。

 武装したプロ相手に人質による「反乱」が成功する見込みは皆無なのだが、鎮圧の際に人質に犠牲が出るのは犯人側としてもうまくない。なるべく大人しくしていてほしいのだ。

 橋場は没収されていないスマートフォンのボタンを押して時刻を確認した。

 このお祭りが始まって三十分が経過した。

 一応隠密行動ではあるので慌ててスイッチを切る。


 授業終了を告げるチャイムが盛大に鳴り始めた。

 システム的に止めることが出来ないらしい、


 …愈々行動開始だ。



(続く)

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